jugement:NHK受信契約は日常家事債務ではない
判旨のポイント
民法761条は,双務契約における一方当事者から夫婦の一方と契約した場合に,その行為が日常の家事に関する法律行為に含まれる場合には,夫婦それぞれに連帯責任を負わせて,夫婦と取引をした第三者を保護しようとする規定である。そうすると,契約当事者間に対価関係はない片務契約である放送受信契約に民法761条の適用はないと解するのが相当である。したがって,民法761条の適用があることを前提とする原告の主張は採用できない。
民法761条の規定も挙げておこう。
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
さて、この事件で奥さんのAは、NHKの契約締結勧誘員の来訪を受けて、いわれるままに夫Y名義の受信契約を締結し、何ヶ月かは支払っていた。ところが、友人知人10名に聞いたところ、ほとんど誰も払っていないことが判明し、不公平に思い、支払うのをやめたという。
実際札幌では、全国平均70%の契約率を下回る契約率なのだそうだ。
夫名義の契約だったので、NHKは夫に対して支払いを求め、支払督促をした。しかし拒否。そこで裁判となった。
この夫、独身時代になんどもNHKに契約締結拒否をしてきた人である。
支払督促異議には、「①そもそもNHKは見ていないこと,②一般企業の加入案内等と比較してNHKから消費者の意思を無視した強引で過度の営業を受けており,精神的に苦痛を覚えていること,③受信契約の覚えがないので,契約書の提示を求めたこと,④BSの受信設備もなく,Jとの契約があり,NHKと直接契約をする理由がないこと,⑤NHKの度重なる不祥事を理解できず,NHKの受信意思がないこと。」が記載されていた。
NHKは和解勧告を蹴って、判決にかけたのだが、上記のような判断のもとで、請求が棄却されてしまった。
確かに、片務契約であれば、取引の安全を図る必要は特にないので、夫婦にのみ適用される例外規定を拡張する必要はないのかもしれない。しかし、これが仮に判例化したら、受信契約締結にこぎつけるのは難しくなりそうだ。
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