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2010/04/25

jugement:無罪判決後のブログ書き込みで名誉毀損

読売online:無罪判決後のブログ書き込み、名誉棄損を認定

ちょっと記事では何に注目しているのかが分からないが、産婦人科医が女性患者にわいせつ行為をしたとの理由で起訴され無罪判決を得たという場合に、無罪判決後にわいせつ行為をしたとの事実を掲載したブログの記述が名誉毀損に当たるとして、発信者情報開示を命じたという判決である。

この度判決文が公開されたので、再度アップ。

大阪地判平成22年5月25日>(PDF判決全文

判決によると、男性医師は昨年5月、福岡高裁で無罪を言い渡されたが、同じ日に、「調査会社の社員」と名乗る発信者が自身のブログに「(男性医師は)患者のカラダを触り、写真も撮った」などと書き込んだ。  ケイ・オプティコム側は「ブログはすでに報道された内容だった」などとして開示に応じていなかったが、河合裁判長は「無罪判決後の書き込みで、医師の社会的評価を低下させた」と判断した。

無罪判決後ということを問題としているのか、報道済みの内容だということを問題としているのか、はたまた上記の見出しで強調している「ブログ」であることが注目点なのか、よく分からない。

報道済みの事実であっても、名誉毀損にならないことはないというのは先例もあり、また解釈論としても当然である。報道を、こんな報道があるとして伝える場合であっても、その中に名誉毀損となりうるメッセージが込められ、またその報道が必ずしも信憑性の高いものではないのに安易に乗っかるというのは相当性を欠くからだ。
とはいえ、信頼してもよい報道というのもあり得るので、その境界は微妙だ。

無罪判決後に、あたかも犯罪があったというような内容の事実を伝えたことについては、問題がかなりある。
犯罪事実についてろくろく調べずに書いたという場合に、後に有罪判決が出ても名誉毀損は成立するというのが三浦事件の一連の判決の中にあったが、その当否は議論の余地がある。その逆の場合は、真実性については問題にならず、要は相当性が問われる。
そして無罪判決後に有罪であるかのように書いたのであれば、判決による認定とは別に独自の相当の根拠がなければならない。

そして、本件事案とはおそらく異なる問題だが、変更・訂正・抹消等が容易なオンライン情報の場合の過去記事の扱いも問題となる。発行元では如何ともしがたい紙媒体配布の情報とでは事情が異なるのだが、過去の記事も現在オンラインで閲覧できる状態にある場合は、現在の基準で名誉毀損等の成否が決まると言わざるを得ず、ただし削除義務違反による損害賠償には故意過失を必要とするということになろうか。
つまり、かつて逮捕起訴された時点で、その容疑を書いた記事は、後に判決が出て無罪となった場合はもちろん、有罪判決が確定して相当期間経過した後は、削除義務ないしは追記義務が発生するが、現実には削除要求が出てきたときに対応すればよいということになる。(あくまで私見)

同様のことは個人のブログのみならず、電子メディアに進出した報道機関についても言えるはずである。

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コメント

わたしのところにも、「新聞社のサイトから記事が消えたから、削除を要求する」というメールが来ています。

それで「細かいことを聞きたい(そもそも本人かが分からないから)」と返事したら、それっきり。

こうなると、一方の事実として「新聞記事が消えた」とか「無罪判決があった」ということが、以前の事件を無かったことにするのは、どうなんだ?という話しになっていきます。

書かれた側としては「全部ひっくるめてなかったことにしてくれ」と思うのは当然でしょうが、無くなるわけではないですからね。
単に、ネット上の一記事が消えただけだ。

そんな事を考えると、この判決で「同じ日に」つまり判決後に記事を書いたという事が、それほど重大な問題とは、ちょっと思えないし、プロバイダーの主張の通り「すでに報道された内容の通り」なら、同じ内容を一日前に載せていたら、判決が違うのが合理的なのか?
という話しになりますね。

なんか、この裁判官は何を言いたいのかな?
判決文を見れば分かりますかね?

投稿: 酔うぞ | 2010/03/26 10:59

いずれにしてもこの事件の内容や判断は判決文を見ないと分からないのですけども、他人の犯罪行為を公に明らかにするには、それなりの覚悟と責任があって、報道されたら当然に転載しても許されるというものでもなく、削除要求があれば一応真摯に対応すべきだけど、いいなりになる必要はないと、そんなところでしょう。

投稿: 町村 | 2010/03/26 12:50

無罪判決後に、昔の記事を元に書いて、当時広く知られていたことだから、名誉毀損に当たらない、という主張は、屁理屈に過ぎるぞ。

という判決のように感じました。

投稿: 酔うぞ | 2010/04/25 21:22

全く、ブログとは関係ないことで、メールをお送りしようとしたら、できませんでした。

よろしけば、ちょっと連絡したいのです。

酔うぞ拝

投稿: 酔うぞ | 2010/04/26 17:22

僕がケイ・オプティコムに発信者情報を開示されたブロガー(発信者)です。
発信者情報開示については賛成です。本当に誹謗中傷で困っている人が沢山いるからです。
しかし、この事件は納得がいかないので争います。
これからブログで経緯や僕の考えを書いていきますので興味があればのぞいてみてください。

削除要求が来てすぐに削除しましたが名誉毀損とは・・・。

投稿: tetsu | 2010/09/19 02:04

tetsuさんのやった事は間違いだと思います。

 社会公益のためなら、事件について関係者の実名などをある程度明らかにする必要があるかもしれませんが、このブログの文章から知る限り、あなたが無罪被告人から被害を受けたとか、その他迷惑をこうむった事などがあったならいざ知らず、国家社会とはまったく無関係のつまらない事件を、しかも全面無罪になった人の実名を明らかにしてまでその事件について書くこともないでしょう。

 マスコミでも実名を書かない報道が多くなっているし、スェーデンなどでは一部を除き全て実名報道はやっていないそうです。

 加害者を社会的に懲らしめたいと望む被害者とか、卑しい好奇心さえ満たされればよいとする手合いならともかく、政治家や官僚などごく一部のものを除いて、犯罪事件の実名報道は行うべきだと考えていますが、ブログなどでも実名公表は行うべきではないでしょう。

 あなたのブログを見ていないので詳細はわかりませんが、あなたはその完全無罪事件を実名入りで書いた理由は何だったのでしょうか。あなたは書いて気が済んだかもしれませんが、今回は無罪だったかもしれないが過去にもやったのではないかと疑う人がいるのは必定で、書かれたほうではたまったものではないでしょう。

投稿: 井上信三 | 2010/09/19 20:11

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