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2010/04/23

cours:訴訟と非訟の説明、分かりにくい?

一昨日の授業で取り上げた訴訟と非訟の区別と合憲性の問題がわかりにくいという意見を受けた。
そこで補足説明をしてみよう。

ブログをお読みの皆さん、最後までお付き合いいただいた方は、是非末尾のアンケートにご協力頂きたい。

1.問題の所在

 まず憲法は、32条で何人も裁判を受ける権利を奪われないと規定している。この裁判については82条で、裁判の対審および判決は公開法廷でやると定めている。つまり「裁判」とは、公開の法廷で、原告と被告が一堂に会して意見をぶつけ合う口頭弁論を開いて、判決で決着をつけるというやり方を指し、人々の権利義務のあるなしを決めるには、そういうやり方で決めることが憲法上必要なのだ。

 実際、民事訴訟は、そういうやり方をしている。公開の法廷で口頭弁論を開いて両当事者に主張立証の機会を与えて、判決を下すというやり方だ。

 しかし、裁判所が当事者の申立てに判断を下すという仕事の中では、民事訴訟のようなやり方をしていない種類の事件も含まれている。例えば失踪宣告などというのは、家庭裁判所が当事者の申立てに基づいて決定するのだが、失踪した人はいないのだから、裁判に出てくるはずもなく、原告対被告というような対立構造はない。
 離婚した元夫婦間の争いでも、例えば財産分与の額を決めるという場合には、公開の法廷は使わないし、口頭弁論を開いてというやり方もしない。当事者の言い分は、書面と、それから個別に意見聴取をする。判決という形式もとらず、不服があっても控訴ではなく、抗告という形式になる。

 これらは、人々の権利義務を左右する判断であることは間違いないのだから、裁判所がその判断をする際に、憲法の要求する裁判の形式を踏まないでいいのか、裁判を受ける権利を侵害したことにならないのかという問題が生じる。

2.非訟事件という概念

 失踪宣告とか財産分与の額を決める手続は、家事審判法という法律で、「審判」という形式で判断が下される。子供の親権監護権の帰属争いとか、婚姻中の同居義務とか相互扶助義務とか、婚姻費用の分担(要するに生活費の分担)なども、同じく家事審判だ。
 その他、破産手続や民事再生手続などの倒産処理、強制執行手続、保全手続なども、裁判所が判断を下すけれども「判決」ではないし、公開対審手続も保障しない。
 これらをひっくるめて「非訟」と呼んでいる。

 その中でも、特に問題となるのは、財産分与額の争いのように、元夫と元妻という対立当事者が存在し、しかもどちらがどのくらい財産を得るかという問題に判断を求めている。
 こういうのを争訟的非訟事件という。これらは訴訟と同じような構造で、しかも金銭給付とか建物の占有管理権限とかが左右される決定が下されるので、裁判を受ける権利が保障されなければならないはずという理屈も成り立つからだ。

3.判例

 ところが最高裁は、これらの争訟的非訟事件について裁判を受ける権利が及ばない、つまり公開法廷で対審的手続を経ないで判断してもよいとした。

 最高裁の理屈はこうだ。
 法律上の権利義務自体に争いがあって、その争いを確定する判断は、固有の司法権の作用であり、その場合は憲法の要求する公開・対審手続が必要だ。
 しかし、法律上の権利義務があることを前提にして、その具体的な内容を定める処分をするのは、固有の司法権の作用ではなく、裁判所の裁量的判断によるのだから、憲法の要求する公開・対審手続によらなくてもよい。
 権利義務の具体的な内容を定める処分がなされても、その前提となる権利義務のあるなしは、その処分によっては確定しないので、そもそも権利義務があるかどうかに争いがあれば、それは裁判で決めればよい。その裁判は憲法に定められた公開・対審手続が保障されるので、結局、具体的内容を定める処分に不服があれば、権利義務の有無から争う道が当事者に開かれている、だから裁判を受ける権利は侵害されていないというわけである。

4.非訟事件にも手続保障が必要

 最高裁の理屈には、批判する人も多いが、一応それでよいとしよう。
 しかし、非訟事件だからといって当事者の一方の言い分だけを聞いて、他方の言い分を聞かないで判断してよいということにはならない。
 例えば財産分与の額を決める際に、夫の言い分のみを聴取して、妻の言い分を聞かなければ、それは手続的正義に反する。仮に、財産分与額に不満があれば裁判で争えるとしても、わざわざ裁判を起こさなければならないのは負担だ。

 ところが、平成20年の最高裁の裁判では、婚姻費用分担額の決定に際して、一方当事者の言い分しか聞かないで判断したと言える例が現れた。
 一審の家事審判では、未払い額95万円と月々12万円の支払いを命じた。これに妻が抗告すると、抗告審では夫に言い分を述べる機会を与えることなく、未払い額167万円と月々16万円の支払いを命じたのだ。
 夫側が憲法違反だと特別抗告をしたが、最高裁は非訟事件に裁判を受ける権利なしとして、夫を呼び出さなくてもよいという判断をしたのだ。

 これはおかしい。なるほど非訟だから、裁判を受ける権利を害しているとはいえないかもしれないが、夫の言い分を聞かないで判断したのは審理不尽だとして差し戻す方法もあり得た。その方が手続的正義に合致する。それに仮に請求異議などの訴訟で争う道が夫側に残されているとしても、それでは争いが長引くだけであり、夫側のみならず妻側にも不利益が生じる。やはり家事審判手続の中できっちり決着をつけた方が、当事者にとっては安心安全につながるのだ。

 そういうわけで、訴訟と非訟の区別を前提に、裁判を受ける権利は訴訟事件にだけ保障されるのだとしても、非訟事件にはそれなりの手続保障が必要だというわけである。

(アンケート)
以上の説明は分かりやすいと思いましたか? 分かりにくいと思いましたか?

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法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

こういうことには、アンケートシステムが一番有効ですね。

ちょっと長いし、文字も細かいので読み上げソフトで聞きました。

その結果は「非常に分かりやすい」と思ったので、なぜ「一昨日の授業で取り上げた訴訟と非訟の区別と合憲性の問題がわかりにくいという意見を受けた。」と言うことになったのかな?と思いつつ、今度は見直して見ました。


そうすると、ちょっと「???」な印象がありました。

読み上げソフトで聞いているというのは、段落を分ける数字もそのまま読むわけですが、聞いているだけでは数字の順序としては把握しないから、スルーなわけです。

それでも、「講義」として大変に判りやすかった。

それを、目で見ると「文章の構成」として見てしまうから、ちょっと違和感があるらしい。

なかなか難しいものでありますね。

投稿: 酔うぞ | 2010/04/23 22:30

実は一昨日の説明は、このような原稿なしでやったので、分かりにくかったのかもしれません。
この説明文を、授業用サイトにアップしようと思っています。

投稿: 町村 | 2010/04/24 00:36

憲法に定める手続が要求されるのは、要は権利義務の存否に関する争いに限るってことですかね。
でも、それ以外の紛争であっても一定の手続保障はする必要がある。この点で、一方当事者の言い分だけ聞いて判断することを容認した平成20年判決はやりすぎだ!と。

投稿: そ。 | 2010/04/24 00:45

3回生です。ちょうど4月から民事訴訟法の講義を取っているのですが、おととい講義できいたばかりの部分でした。
非常にわかりやすかったです。
授業の復習にもなりました。

投稿: 法学部生 | 2010/04/24 01:05

「法律上の争訟」の理解があやふやだと訴訟と非訟の区別があやふやになると思います。しかし、法律上の争訟という概念について、何となく腹にストンと落ちた感覚を覚えたのは、民訴と刑訴を一通り勉強した後しばらくしてからでした。
訴訟法についてある程度の理解がないと、非訟事件手続について具体的に把握するのも難しいと思いました。
先生の今回の記事はとても分かりやすかったです。早速、携帯のメモ帳にコピメさせていただきました(笑)ありがとうございます。

投稿: catwheel | 2010/04/24 01:27

 以下は、私の考える道筋です。コメント欄に記載するため、とkろどころ、論理が飛んでいます。申し訳ありありません。[32条にいう裁判は、基本的人権の一つである。一方、82条の規程は、統治権に関する規程であり、32条にいう裁判すべてを含むものではないと考えることは出来る。つまり国民には、裁判を受ける権利はあるが、必ず公開等がされる権利まで持つものではなく、「権利義務に争いあり=訴訟事件」、「権利義務の争いではなく内容を定める処分=非訴事件」と分けて考えることは出来る。
 しかし、形式的に「権利義務を争っているのかとその内容を争っているのか」、その違いを明確にすることは、平成20年判例を見ても必ずしも容易ではない。よって、32条裁判=82条裁判が原則であると考えた方が素直である。そこで、82条の「対審」「判決」「公開」は全ての裁判の原則であると考えた上で、事件の迅速な解決のため又は、その性質・内容に照らし82条に見合う他の手続き保障が用意されているものを非訴事件としている。確かに非訴事件は、外観的に82条と異なる手続きを採用しているが、それは無条件に認められるものでは無く、事案の性質に合わせた、82条同等の手続き保障が求められる。それが無い場合は、違憲となると考えるべきである。逆に、このように考えなければ、手続き保障は極めて狭い範囲でしか必要でないと言え、近時の「非訟事件にはそれなりの手続保障が必要」という説は根拠が乏しいものになってしまう。]
 もっとも、現実の裁判所への手続きでは、両者を区別すべき実益は本人・代理人・裁判所にあるので(訴訟=長そう、非訴=早く解決できそうと、依頼人も考えてくれる)、合憲性やそれぞれの目的論を理解することより、社会の複雑化により、両制度が分かれた来た背景や両制度の社会での役割を説明してもらった方が、一般の学生にとっては、親切に感じると思いますが、どうなんでしょうか?
 ところで、授業で一番学生にとって理解しがたい(抽象的理解になりがちな)に当事者論の先生のご説明を聞いて見たいと思いました。

投稿: はる | 2010/04/24 03:04

コメント頂き、有り難うございます。
法律上の争訟概念は、宗教団体の紛争のところでまた取り上げることがあろうかと思いますが、これまた理解しにくいポイントですね。

当事者論のところでも、おそらく分かりにくいとの声が上がるでしょう。

投稿: 町村 | 2010/04/24 18:36

初学者が一読して理解できるかといえば、それは無理だろうと思います。

法律だけでも、憲法、失踪宣告など民法のあまり勉強しないところ、家事審判法、前提として民事訴訟法とでてきて、どこかひとつで「これ何だっけ?」と感じてしまうと、そこで思考がストップして全体の議論を理解できなくなるのではないでしょうか。法学に限らず、初学者というものは「議論の要点」「いま理解しなくてはいけないこと」「いまはぼんやりイメージしておけば十分なこと」「単なる例なので分からなければべつにそれでよいこと」の区別が付かないものです。

そういう講義案を私が作れるというわけではありませんが(とても無理です)、初学者には「いま理解しなくてはいけない要点」「後で振り返って分かればよいこと」を明確に示したほうがよいと思います。予備校的と言われると、そうなのですが…

投稿: 匿名 | 2010/04/24 22:11

> 訴訟と非訟の区別と合憲性の問題

えーと、端的に言えば、非訟に当たる場合は、裁判手続きを経なくても、合憲である、ということですよね。

ただし、実態的に見れば、非訟事件であっても、婚姻費用分担事件の判例のように、手続保障が全うされない場合があり、「憲法的には合憲であっても、実態的に不当だ」という場合があり、これが問題だ、と町村先生はおっしゃているのかな、と思います。

わかりにくい、とおっしゃった学生さんは、合憲性(合憲か違憲か?)の問題と、妥当性(妥当か不当か?)の問題を混同されているのかなーと感じました。

投稿: しんたろう | 2010/04/25 22:06

余計な付け加えです。先生の「夫の言い分を聞かないで判断したのは審理不尽だとして差し戻す方法」は、現行民事訴訟法では、採用できない結論では無いでしょうか。旧法下でも、「審理不尽」を最高裁が理由とすることは、異論が多く、新法下では、その学説を下敷きにそれ自体を利用にして、差し戻す事は少ないと思います。勿論、事実上、「審理不尽だろう、この差し戻し理由は」と言う判決があることは承知した上で、あくまでも講義の中でどの様な内容を話すかと言うことを前提にした意見です。すみません、本質的でない意見で。

投稿: はる | 2010/04/26 09:29

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