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2010/04/13

arret:プロバイダの発信者情報開示義務違反と損害賠償(訂正)

最判平成22年4月13日PDF判決全文

インターネット上の電子掲示板にされた書き込みの発信者情報の開示請求を受けた特定電気通信役務提供者が,請求者の権利が侵害されたことが明らかでないとして開示に応じなかったことにつき,重大な過失があったとはいえないとされた事例

朝日新聞は新判断と報じているが、法律の文言はこうである。

プロバイダ責任制限法4条4項

開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。

この文言通り、最高裁は次のように判示した。

開示関係役務提供者は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が同条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ,損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。

少なくとも発信者情報開示義務をアクセスプロバイダが負うということよりも、ずっと法律の文言通りの判断内容になっている。
むしろ原判決がプロバイダの責任を認めたところがどうなのかと検討すべきであろう。

具体的な書き込みの状況は、スレッドの前後を見てみないと、なんともいい難いが、具体的な表現は「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」と指摘されている。原審は、スレッドの他の内容を斟酌するまでもなく、この表現だけで人格権侵害となると判示した。
これに対して最高裁は「気違い」という言葉を使って特定人を侮蔑したとしても、それだけで直ちに人格権侵害となるわけではないとした。→コメント参照

 つまり、原審も最高裁も法律の文言通りプロバイダが開示義務を行ったことに重大な過失があることが必要だという前提に立ちつつ、「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」という表現はそれ自体として他人の権利侵害になることが明白だとしたのが原審、最高裁はそれ自体では権利侵害になるかどうか明らかでないという。この評価の違いが結論を分けた。

従って、マスコミも、「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」というネット的表現はそれ自体としてはセーフ権利侵害の明白性ありとプロバイダが判断するのに足りないものと判断されたことに注目して報道すべきである。→コメント参照

なお、だからといって常に気違い呼ばわりが権利侵害にならないというわけではないので、依然として言葉使いは慎重に、なるべくなら他人への配慮を忘れないようにすべきであろう。この点は自戒もしなければならない。

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コメント

判決文を見る限り、当該表現がそれだけで直ちに人格権侵害になるわけではないとしたのではなく、当該表現のみからは、権利侵害となるか否かの判断はできず、その判断のためには他の書き込み等も参照しなければならないから、プロバイダにおいて当該侵害の権利侵害性は明白とはいえず、プロバイダに責任を負わせることはできないといっているように思うのですけれど。
それはそれとして、PDF全文のリンク先が別の判決に飛んでいますが・・・。

投稿: えだ | 2010/04/14 07:42

えださん、ご指摘ありがとうございます。リンク先は早速訂正しました。興味深い判決が立て続けで混乱しました。

さて、ご指摘は正鵠を得ていて、誰にとっての明白性かというと、開示請求を受けたプロバイダにとっての明白性です。この部分の判決文は以下の通り。

「本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人にとって,必ずしも容易なものではないといわなければならない。」

そういうわけで、上記の抹消線を引いた「セーフ」の部分はミスリーディングでした。
その代わりに、「「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」というネット的表現はそれ自体としては権利侵害の明白性ありとプロバイダが判断するのに足りないものと判断されたこと」とするのが正確なところです。

ただし、「被上告人を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていること」から、そのことだけを示されてもプロバイダとしては権利侵害ありと判断し難いという判断の前提には、やはり、そうした書き込みだけをもってしては名誉毀損等の人格権侵害となるに足りないという実質評価があるように思いますから、本判決の理解として「「気違い」という言葉を使って特定人を侮蔑したとしても、それだけで直ちに人格権侵害となるわけではないとした」という上記のまとめは、一応読み込める範囲内ではないかと考えています。
言い換えると、本判決の射程はあくまでプロバイダの責任成立要件を満たさないということですが、その前提の価値判断には、上記まとめが現れているということです。

いかがなものでしょうか。

投稿: 町村 | 2010/04/14 09:48

えーと、正直なところ、この判決がどうしてこのような書き方をしたのかがよく分かりません。(^^);
おっしゃるとおり、判決の背景に、当該書込みだけでは人格権侵害とするには足りないという判断があるようにも読めるのです、私にも。
ただ、躊躇しているのは、(1)当該権利を侵害したとする情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであることが開示請求の要件であるから、これが明らかでないときには、開示関係役務提供者による開示請求の拒絶はそもそも違法ではないはず、(2)とするならば、当該書込みだけで人格権侵害とするには足りないのであれば、上告人による開示請求の拒絶も違法ではないのではないか、(3)にもかかわらず、判決が、開示請求の拒絶が違法ではないという理由ではなく、開示請求の拒絶に重過失がないという理由で結論を導いたのはなぜか、というところに私の理解が及ばないからでして。
ご教示下さいませ。m(__)m

投稿: えだ | 2010/04/14 20:55

それは、此の事件で上告受理申立てが排斥されている「開示請求認容判決」があるので、それと無理やり整合させたということではありませんか?

開示請求を認容するということは、理論的にはプロバイダが義務を履行していないことになるわけで、通常なら義務違反(権利侵害=違法性)があるということになるので、あとは重大な過失がないとの判断ができるだけだったと思われます。

しかし他方で、本件書き込みの限りでは権利侵害ありというに足りないという判断もあります。これは権利侵害にならないという積極的な判断ではないと思いますが、「権利が侵害されたことが明らか」という開示請求の要件が満たされているというのも困難です。

考えてみると、「権利が侵害されたことが明らか」な場合であれば、裁判外で開示しないのは普通「重大な過失」がある事になりますので、開示請求権が裁判で認容されるときは常に損害賠償も認められることとなり、それは適当ではありません。

結局、法律の文言からは少し離れますが、「権利が侵害されたことが明らか」とは必ずしも言えない場合でも開示請求権は認められる、しかし開示しなかったことに重大な過失は認められないというバッファを、最高裁は作り出しているのではないでしょうか?

ちょっと読み込みすぎかな。

投稿: 町村 | 2010/04/14 22:39

えー、話を進める前に原審がどういう認定判断をしたかを、原判決を見ておきたいと思って探してみたのですが、見つけられませんでした。ありかをご存じでしたらお教え下さい。本当は、上告人の上告受理申立て理由も、上告受理が排除された部分も分かるとありがたいのですけれど。

さて。
お書きのように、不開示に伴う損害の賠償責任について重過失要件を用いることによって、開示の場面においては、明白性という要件を実質的に後退させるということを、本判決はしているのかもしれません。
あるいは、開示の場面としては、書込みの経過や前後関係にも照らして判断すべきであるが、損害賠償の場面としては、書込みそれ自体で判断すれば足りる、としているのかもしれないとも思い始めています。(そうすると、帰結としては、当該書込みそれ自体では権利侵害性は明白ではないという判断に行き着きそうです。)

ただ、いずれにしても、それ自体理論的に整合するのかという問題や、法文から導き出せる範囲に収まっているのかという問題は残りますが。

・・・やはり原判決や上告受理申立て理由が見たいです・・・。(^^);

投稿: えだ | 2010/04/15 22:27

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