arret:政務調査費報告書は自己専用文書
自民党名古屋市議団の政務調査費報告書と領収書について、住民訴訟で提出命令の申立てがなされたところ、これが認められなかった事例である。
政務調査費報告書と領収書は、政務調査費を実際に使った会派所属議員が会派に対して提出し、会派はこれをもとに収支報告書を作成して、これを議長に提出する。
議長の下にある収支報告書は誰でも閲覧請求できるが、会派が所持する政務調査費報告書および領収書は閲覧できない。収支報告書は概括的な記載しかなく、政務調査費が無駄に使われたのかどうかを検証するには政務調査費報告書および領収書を見なければならないので、文書提出命令を申し立てて、1審でも抗告審でも提出義務が認められた。
ところが最高裁は、これを覆して、政務調査費報告書および領収書は自己専用文書として外部に見せなくてよく、文書提出命令の対象にもならないとしたのである。
実はこれには先例がある。最高裁平成17年11月10日決定 民集59巻9号2503頁であり、そこでも同様の判断がされていた。
この平成17年決定でも議会の政務調査費使用の透明性や検証可能性を確保するために、報告書や領収書の提出義務を認めるべきとの趣旨の反対説があったが、同じ批判が今回の最高裁決定にも向けられるであろう。
最高裁としてはあくまで、政務調査費を用いて行う政治的な調査活動の自由を守るために、他からの干渉の可能性が生まれる報告書開示を認めなかったということなのだが、開示して、その記載をもとに他から批判を受けた場合にできなくなる政治活動なら、できなくて良いと思うのだがどうであろうか?
第三者のプライバシーが侵される可能性があるというのだが、この点は、インカメラ手続によって裁判官が現物を見て、第三者が特定される部分は抹消するなりして提出させればよいのである。
ところが、この事件ではインカメラ手続のために裁判官が会派に提示を求めても、会派が拒絶したというのである。
これは特筆すべきことだ。インカメラ手続のために提示を求めて、所持者が拒否するということは通常想定されていない。想定されていないから、そのための制裁規定もない。
裁判官だけが見るのであるから、所持者として拒否する理由はないはずなのだ。
しかし拒否する者が現れた。
この立法事実をもとに考えるなら、インカメラ手続による提示を命じて拒絶した場合には、過料または真実擬制等の制裁規定をおくべきである。
なお、この決定にも反対意見がつけられていた。インカメラ手続に会派が従わなかったという事情反対意見中で指摘されていることである。
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