jury:守秘義務と萎縮効果
守秘義務が課されるとなると、その対象について自由にものがいえなくなるのは当たり前だが、それだけに守秘義務の範囲は明確でなければならず、また疑わしきは自由、つまり原則はあくまで言論の自由であるべきだ。
しかし、守秘義務は、疑わしいものも「とりあえず黙っとけ」という形での萎縮効果が出やすい。
そしてこれは秘密を守らせる方にとって都合がよいので、ますますその方向を助長することになる。
この記事に現れている長野地裁の対応は、まさしくそんな萎縮効果とその助長傾向の表出である。
裁判員だった2人がそれぞれ「最初に死刑が妥当かなぁ、と考えることはありました」「わたしも同じで、まず死刑を考えました」と答えた。 これについて、地裁総務課長が会見終了後「評議の中のこととなると、守秘義務違反になる。今回の発言はグレーゾーン」と指摘。 また死刑制度の質問に、1人が「評議以外の時間に裁判員の方と話したが、死刑廃止論の方もいた」と答えた部分についても、総務課長は「守秘義務違反とは断言できない」としながらも配慮を求めた。
この総務課長氏が何のために「配慮」と言っているのか、よく分からないのだが、裁判員の思想信条が話されたということで配慮してほしいというのであれば、裁判員自らが語っていることなのだからまるでお門違いで、余計なお世話である。
グレーゾーンだから、報道を手控えよというのであれば、上記の通り、明確に守秘義務に入るといえないものは自由であるべきで、裁判所職員としての越権である。
ただでさえ評判が悪い裁判員の守秘義務だが、裁判員のプライバシー保護のため個人情報は出さないというのはやむを得ないとしても、ともかく評議に関係することは黙っていた方がよいという雰囲気を醸成してしまおうというのは不当な態度である。
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コメント
私は、数年前、裁判所で行われたいわゆる「模擬裁判」に参加したことがあります。既に、裁判員裁判用の法廷が出来ており、民事はともかく普段は(幸いに)関わらない刑事事件の流れや、裁判官が通る廊下など、その様な意味では、大変興味深かったです。
が、本当に、一般市民が「守秘義務」を、範囲も分かりにくい上、それに見合わないような報酬の元、どこまでっててい出来るのか、大変疑問に感じたのを覚えています。
とは言え、本当に、全く法的な知識が無い方が裁判員になったとしたら、裁判官の言われるがままになるのでは?という不安の方が大きかったのは事実ですが。
投稿: はる | 2010/03/19 17:32
その言いなりになるのではという危惧は今も変わらず残っていますし、時間が決められている中での評議というのは本来の趣旨に反しているのではないかと思います。
でも、それなりに頑張っているんじゃないかなと期待してますが。
投稿: 町村 | 2010/03/19 21:59
>それなりに頑張っているんじゃないかなと期待してますが。
私も、今のところ、頑張っていると感じています。問題は、マスコミ(が、将来もあると仮定して)があまり報じなくなった時、そこからが本当の勝負だと思います。しかし、裁判所が判例速報に証拠開示関連の決定をやたらに掲載しているのは、公判前準備手続きで、どろどろがあるのでしょうか(特に検察の出し惜しみ)?それを出来るだけ避けたく、掲載しているように感じられます。
投稿: はる | 2010/03/22 12:29
証拠開示関係の裁判を公開し始めたのは、なぜでしょうね?
ネット公開の対象とするよう、通達があったのかな?
投稿: 町村 | 2010/03/23 00:56