decision:船に対する強制執行
民事執行法189条,115条1項の「船舶競売の申立て前に船舶国籍証書等を取り上げなければ船舶競売が著しく困難となるおそれ」の有無を判断するに当たっては,目的船舶が同一の港等に継続的に所在している間に船舶競売の申立てから船舶国籍証書等の取上げまでの一連の手続を実効的になし得るか否かを勘案して判断すべきであり,目的船舶が開始決定時に停泊していた管轄裁判所の管轄区域内所在の港等からいったん出航した後に一定期間内に同一の港等に再び入港する予定があるか否かを考慮するのは,相当ではない。
実にマニアックな話だが、船に対する強制執行に先立って船舶国籍証書を保全しておく必要があるかどうかが争われ、原決定は出港してもまた戻ってくるのだから取り上げる必要はないと解したのに対し、高松高裁はそうではないと判断した。
元々の事案は、漁船と定期旅客船との衝突事故で、漁船側乗員が死亡したことによる損害賠償請求権について船主責任制限法95条の船舶先取特権があると主張し、遺族が民事執行法115条に基づく執行手続申立て前の船舶国籍証書等の引渡命令を申し立てた。
普段接することの少ない条文が多数出てくるので、頭の体操には格好の裁判例である。
まず、船舶執行と、担保権実行については民事執行法112条から121条、189条を参照。
船舶の差押えは、執行裁判所が船舶を差し押さえる旨の宣言と出港禁止を命じること、そして執行官に「船舶の国籍を証する文書その他の船舶の航行のために必要な文書」(これが船舶国籍証書等)を取り上げて執行裁判所に提出するよう命じることをいう。
差押えの効力は、船舶国籍証書等の取り上げの時に発生する。
次に船舶先取特権は、上記の船主責任制限法95条1項が「制限債権者は、その制限債権につき、事故に係る船舶、その属具及び受領していない運送賃の上に先取特権を有する」と定めており、「船舶の運航に直接関連して生ずる人の生命若しくは身体が害されることによる損害」についての債権は制限できる債権だから、船舶衝突で死亡した相手船舶乗員の遺族は「制限債権者」ということになる。
なお、商法689条には「差押及ヒ仮差押ノ執行(仮差押ノ登記ヲ為ス方法ニ依ルモノヲ除ク)ハ発航ノ準備ヲ終ハリタル船舶ニ対シテハ之ヲ為スコトヲ得ス但其船舶カ発航ヲ為ス為メニ生シタル債務ニ付テハ此限ニ在ラス」と規定され、これを前提に本決定は、定期航路についている本件船舶について開始決定から証書等取り上げまでを完了することが困難だとしている。
差し押さえてしまえば、今度は営業のために航行することを許可することもできる(民執118条)のだが、ともかく差押えの効力が発生する証書等取り上げ時までは同一港にいてもらわなければ困ると言うことのようである。
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