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2010/03/05

decision:取り調べメモを捨ててしまう警察・検察

富山地決平成21年7月14日PDF決定全文

最近突然、証拠開示請求に対する裁定をネット公開する例が続いているが、その一件に面白い事件があった。
警官の取り調べメモ、ノートなどを証拠開示するように弁護側が求めたところ、検察は、当該文書はすべて廃棄されているので開示できないといったのだ。

これに対して裁判所は、検察の言うことだから信じられるということをいい、開示請求を棄却した。ここまではまあ、よくある話。

しかしその後の()内で裁判所が脅し文句ともとれる言葉を記している。

もっとも,取調官が本件取調べメモを廃棄したことの当否や,そのことが訴訟手続全体においてもつ意味は別論である。すなわち,本件は,遅くとも平成21 年2 月12 日ころまでに,被告人が犯行を否認し,弁護人もこれに沿って事実関係を争うという見通しが明らかになり,公判前整理手続に付されることがほぼ間違いない状況にあった。そうすると,捜査機関は,本件取調べメモの保全に努める必要があったというべきであり,これを怠ったことは,犯罪捜査規範13 条の趣旨や,取調べメモ等の証拠開示に関する累次の最高裁決定等の趣旨を軽んじるもので,直ちに容認し得るものとは思われない。

自由心証主義の下、裁判所が警察・検察側に対してこのような見方をしているということは、重大な意味を持つのではないかと、この事件は結論としてどうなったのかと、気になるところである。

ちなみに、上記の最高裁決定は最決平成19年12月25日刑集61巻9号895頁(PDF決定全文)などであり、判例変更をして以下のように判示した。

取調警察官が,犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となり得る

にもかかわらず、上記のような経過で取り調べメモを廃棄したのであれば、よほど不都合なことが書かれていたのではないかと、そう考えられてもやむを得ないであろう。

このことは、例えば証拠となりうる電子データの一部を、訴訟が提起されているのにもかかわらず廃棄するというような行動(民事ではこれを証明妨害という)にでた場合にも関係する。この問題についてはアメリカのeディスカバリに学ぶところが大きい。

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コメント

「捨てた」が使えなくなると、次は
「確かに保全しており保全した記録もあるが
 鋭意探索したが当該備忘録を見つけられなかった」
が多用されそうな気がします。

これも、「検察警察の言うことだから信用できる」んですよね。

投稿: 宮嶋陽人 | 2010/03/05 15:52

捜査機関は分かりませんが、諜報機関は「捨てる」のが定位
です(日本では分かりませんが)。いかに情報源に接近出来
るか、そこで得られた情報をいかに本部に伝えるか、伝えた
ら、どのように情報を捨て去るかが、諜報の基本です。ただ
し、以上のような、人的な諜報活動は、二重スパイの問題等
で、最近は(スパイ大作戦等のイメージと異なり)殆ど、使
われていませんが。完全に話題から逸れてしまいました。申
し訳ありません。
先生の「上記のような経過で取り調べメモを廃棄したのであ
れば、よほど不都合なことが書かれていたのではないかと、
そう考えられてもやむを得ないであろう」には、共感できま
す。が、一方、本当に事実を理解し、解析するには、公開情
報だけで十分である、と言うのが諜報機関の考えです。「メ
モを捨てられた」事実から、裁判所、弁護士がどこまで真相
に迫れるか、力量が問われていると思います。

投稿: はる | 2010/03/08 10:26

情報管理の基本は、おっしゃるとおり、捨ててしまうことですね。必要な情報以外は持たないというか。

最終的に保持する情報が固まるまでは、様々な生煮えな情報がたくさん生成されますが、それらはルーチンとして捨てていかないとならないわけです。

ところが、訴訟となれば、日常的な手順として捨てていることがネガティブに評価される可能性もあります。
アメリカでは、それが訴訟ホールドとして、紛争に関係する情報を捨てないようにしなければならなくなります。
ディスカバリのない日本では、それほど顕在化するわけではありませんが、それでも訴訟で当然証拠となりうる情報を、訴訟の存在を知りつつ廃棄したのであれば、自然な心証としても、不都合な事実の存在を推認できそうです。

特に、事実上・法律上、身の証を立てなければならない側は注意が必要です。

投稿: 町村 | 2010/03/08 12:03

 町村先生のコメントが、私に対するものだと妄想しながら、再度書き込みをさせていただきます(笑)。
「訴訟となれば、日常的な手順として捨てていることがネガティブに評価される可能性もあります。」、「アメリカでは、それが訴訟ホールドとして、紛争に関係する情報を捨てないようにしなければならなくなります。」とのコメント、正にその通りです。これが、捜査機関兼諜報機関=訴訟に耐えうる証拠は残さなくてはいけないFBIと訴訟する気が全くない(というより海外活動がメインでする必要が低い)CIAとの縄張り争いになっている面もあるようです(伝聞情報で、申し訳ありません)。アメリカには、この他にも各軍、外務省等も情報機関がありますが、殆ど連携が取れていないようです(ドラマ24なんか、殆ど犯罪ですね。CIAの下部組織という設定ですが)。
 今回は、さほど大きな事件では無いのでしょうが、国益が絡む事件の場合、訴訟に耐えうることと、諜報機関が情報を収集する事の間では、どうしても矛盾が生じるとは思います。
 問題は、この矛盾をどう解決するか、あまり、真剣な議論がなされていない事だと思います。プラス、諜報機関は市民の感覚と異なり、あまり成果を上げていないことも問題かも知れません。そのことが、不必要な秘密主義をもたらしていると思われます。このあたりは、法律問題と言うより政治マターかも知れませんが。
 今回の件も、多分「よほど不都合なことが書かれていたのではないか」か、「よほど、どうでも良いことしか書いていなく恥ずかしかった」のどちらかなのだろうと、思います。

投稿: はる | 2010/03/08 16:12

諜報機関として大した仕事をしていないのがばれるのがいやだから秘密主義になるというのは、世間でもよくある話ですね。

興味深いです。

投稿: 町村 | 2010/03/08 16:46

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