JAL:エゴイストたちの饗宴
毎日jp:政府:日航融資枠拡大 資金繰り一息、抜本再建へ最終調整
政府関係機関によるつなぎ融資により、一息ついたということ自体、実質倒産企業が倒産顕在化を先送りしている姿にそっくりである。
ことここに至って、自力で抜本的な財務体質改善、収支構造改善を行うことができない経営陣が、「倒産イメージの強い法的整理は避けたい考え」などと甘えたことを言い出している。
企業経営者なら誰でも、自分の会社が倒産することは望まない。それでも大部分の企業では法的倒産処理の開始を自ら申し立てる。それは、にっちもさっちも行かなくなっているという現実が見えるからだ。なぜ日航経営陣が法的倒産処理を避けられるなどと考えていられるのかといえば、それは潰れるぞと脅せば金を引き出すことができると思っているからであろう。少なくともこれまでのところは、それは功を奏しているのだ。まるでどこかの瀬戸際外交しか知らない独裁国家のようである。
もう一つ、エゴむき出しになっているのがメガバンクである。
メガバンクは、法的整理だと顧客離れが加速しかねない上、減資で株主責任を問われることなどを嫌い、私的整理を主張している。
加えて、融資についても更生計画に従った弁済しか得られなくなり、不当な相殺は制限され、債権回収は大幅に制約されるのだから、法的倒産処理を避けたいのは当然であろう。
しかし債権者としては、あるいは株主としても、企業が回らなくなれば法的に倒産処理をするほかはなく、普通はそこに選択の余地はないのである。破産か更生かの選択の余地はもちろんあるし、ひどい場合は破産してもあらかたの財産が隠匿されて空っぽになった財団をつかまされるという可能性もある。そうならないためには、早期の法的倒産処理をするしかない。
それなのに日航の場合に上記のような甘えたことを債権者の立場でも言っていられるのは、誰かが金を持ってきてくれるに違いないと思っているからに違いない。そしてその誰かとは、政府関係機関、あるいは政府そのもの、すなわち納税者の懐をアテにしているということになる。
もう一つ、政府関係機関の融資拡大で生き延びると、従業員も、日航に赤字路線を押し付けている地方も、「なんだ、大丈夫じゃないか」と思い、リストラを渋ることになる。赤字体質を改めて営利企業として存立するには、コストを上回る収益を上げられるようにコストダウンが迫られ、収益拡大が困難な経済情勢にあってはなおのことコストダウンを図らなければならない。それをしないまま、政府関係機関の融資で生き延びさせていれば、これはもうざるに水を注いでいるようなものである。
アメリカ政府が、議会も含め、GMやクライスラーに対してどのように接したか、資金供給にあたってどのような条件をつけたのか、まず実現可能な再建計画を立ててから資金供給をしたのではなかったか。そんな姿を目の当たりにしていたはずの日本政府が、JALに対してはズルズルと瀬戸際外交に怯えて資金を出し続けているのは、情けない限りである。
ともかくも黒字化が現実に可能な再建計画案を提示し実施することを条件に融資拡大に応じるということが、最低限なすべきことであった。
しかし、今からでも遅くはないであろう。
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コメント
パンナム倒産で資産(路線権)売却で消滅という悪夢が……。
投稿: キメイラ | 2010/01/04 15:08
メガバンク間では、主幹事とその他との間で法的整理に関して温度差がある、という日経の5面記事が興味深かったです。
投稿: かしわ | 2010/01/05 14:41
さすがに法的整理の方向のようですね。
株の上場は維持ということですので
どこかがもめれば
absolutely priority ruleや
new value exemptionの関係で
面白い判決が出るかもですね
先生がお休みした倒産法研究会での報告に関連するので
非常に楽しみです。
惜しむらくは決定の出る前にちゃんと活字にしておけば...
OBで年金減額に反対している方に期待しちゃいます
というか彼らが反対の理由がいつのまに
今の高い水準の年金維持、になってるけど
本当なんですかね?
何をしたってどうせ再生は失敗するんだから
先伸ばしされた清算のときに
年金の名目額が減少されていて
取り分が相対的に銀行に移転するのを嫌がっている
という人も若い人を中心に
結構たくさんいる気が...
(とくに自主退職した自分の同期はそういう感じですね...あ、反対かどうかは知りませんけど)
投稿: 故元助手A.T. | 2010/01/08 07:38
>何をしたってどうせ再生は失敗するんだから
>先伸ばしされた清算のときに
>年金の名目額が減少されていて
>取り分が相対的に銀行に移転するのを嫌がっている
衝撃的な発言ですな(笑)
笑い事ではないか・・・。
日本航空という会社がなくなっても、その組織と航空ネットワークはどこかがまるごと引き受けるにせよ分散して買取られるにせよ、維持してもらわないと、かなり不便で、しかも競争が減少して価格の下方硬直性が生じ、明るい未来とは言えないように思います。
その意味で、JASを引き受ける前の日本航空の国内路線くらいは維持できる再生案が最低限度だと、利用者サイドとしては思います。
アジア方面の国際線ネットワークと成田・羽田・関空の発着枠だけが狙いだと思われるどこかの外資に頼るのは、危険だなと。
投稿: 町村 | 2010/01/08 08:37