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2009/12/18

JAL静岡県知事の意趣返し

知事さんのやることとは思えないというのが第一印象である。確かに、今後発生する部分の支払いを拒絶するのなら、正当なことかもしれない。しかし、赤字路線開設を迫った側としての責任は、全く感じていないのだろうか?

Nikkei.net:(12/17)静岡知事、日航への運航支援金を拒否 日航は反発

日本航空が静岡空港の路線から来年度に撤退する問題で、静岡県の川勝平太知事は17日、日航の西松遥社長に対し、福岡線の平均搭乗率が7割を下回った場合の運航支援金の支払いを拒否すると通知した。今年6月に就航した路線にもかかわらず、一方的に運休を通知してきたことなどが理由。

JALが静岡空港を見捨てるというから、それなら運航支援金の支払いには応じられないというわけだ。運航支援金なるものは、いわゆる搭乗率保証とも呼ばれるが、静岡県のホームページに以下のような解説がある。

搭乗率保証制度 Q:日本航空の福岡線における搭乗率保証制度については、保証額が大きく膨らみ、県の財政を圧迫するおそれがあるのではないか。また、他の航空会社に対してはどのように臨むのか伺う。 A:搭乗率保証制度は、新幹線との競合がある中で、開港時から1日3便もの経営資源を投入することに伴う航空会社のリスクを軽減するために特別な優遇措置として実施するものである。なお、運行支援金の支払いに一定の歯止めをかけるため、開港後の実績により、必要に応じて需要喚起策や運行規模の見直しなど、所要の措置を検討する。福岡線以外の路線については、路線ごとの特性に応じて、それぞれ対応を協議する。

これだけでははっきりしないが、運航支援金なるものは一方的な恩恵というわけではなく、日本航空と静岡県との間の契約に基づいて給付されるものであろう。

従って、上記知事の発言は、この契約を解除するというものである。そんな解除権があるのかということだが、中日新聞記事では次のような知事の発言が報じられている。「(日航が)静岡撤退を一方的に通知しておきながら、運航支援金を請求するのは民法上の信義則違反に当たる」

確かに継続的な契約関係では、その維持を支える原理として信頼関係があり、信頼関係が失われれば契約関係からの離脱を認める必要がある。信義則違反というのは、そういう意味に理解できる。
しかし、これで可能となるのは、今後の運航支援金発生分に限られる。静岡福岡便というのはこれまでも搭乗率70%を下回る状態で推移してきただろうから、これまでの期間について、運航支援金の債権が発生しているであろうし、その部分については今から出さないということは、法的には難しいだろうと思う。思うと歯切れ悪いのは、運航支援金がいつの時点で発生するかが今ひとつはっきりしないからだが、日本航空側から見れば、日々の運航ごとにその搭乗率実績から自動的に発生すると解釈するだろうから、そうだとすれば、すでに債権は発生している。
また、そのように解釈しなければ、リスクを静岡県が背負ったとはいえないので、搭乗率保証の趣旨にも反するだろう。

そういうわけで、静岡県が正式に解除(解約)を通告した時点以降の運航支援金は支払わないという趣旨であれば、知事のいうことはまことに正当といえようが、これまで発生した運航支援金も払わないと言い出すのだとすると、これはもう高輪プリンスホテルなみの駄々っ子ぶりと言わざるをえない。

のみならず、これまで赤字路線でも開設しろと強要してきた地方自治体や利権国会議員たちは、年金受給者と少なくとも同程度の追加負担をしてでも倒産回避に努めなければならないはずだ。
というのも、赤字となることが明らかにも関わらず路線開設をして巨額の支出をしたとなれば、日航が法的倒産処理に至った場合に民事・刑事の両責任がかかってくる可能性がある。このことは拓銀の歴代頭取が実刑判決確定という憂き目を見たことを思い起こせば、分かりそうなものである。
まあ、バブル期の不動産企業に比べれば、地方空港に公共的価値があり、その振興のために金を出したということであれば、再建の見込みのない企業に漫然と融資を続けたというよりは心証が悪くないともいえる。しかしその結果が倒産ということであれば、民事責任は免れないであろう。

そのように考えると、赤字覚悟の路線開設を迫ってきた自治体としては、撤退に文句をいえた立場でないばかりか、JAL支援のための追加負担すら考えてしかるべきなのである。

採算のとれない交通機関を必死で誘致しようとしている自治体も、経済的に引き合わない部分の負担は結局誘致した者が負うのだということを覚悟して、誘致するかどうかを決めるべきだ。

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