inlaw:ネットと消費者保護の課題(2)
昨日に引き続き、情報ネットワーク法学会シンポの問題提起を紹介する。
今回は「ネット販売における消費者保護立法の不十分さ」である。
消費者を対象とする電子商取引は、その多くが通信販売に該当するものと思われる。ところが通信販売には、特定商取引法上、クーリングオフの適用がない。その根拠は、通信販売が消費者の主体的な選択により購入申込みをするということから、成熟した購入意思の形成があるという点にある。
しかしながらこうした根拠はネット販売に妥当するであろうか?
類似の問題は、消費者契約法上の勧誘における不実告知等にも見られる。勧誘とは、特定の消費者に直接意思表示をさせるように働きかけることとされ、一般的な広告の段階ではまだ勧誘にはあたらないとされている。しかしながらネット販売においては、一般的な広告が消費者の意思表示を直接に喚起しているのであって、広告の後に対面販売のように内容確認をする機会はないのである。にもかかわらず一般的な広告だということで不実告知があっても取消権の根拠とならないのは、妥当だろうか?
さらに、クーリングオフは認められない代わりに、返品条件を表示しなければならないとの規制がおかれている。表示規制により消費者に選択をさせるという方法は一見公平のようだが、購入しないという選択肢を事実上持たないような場合には、表示がなされていたとしても選択の余地を与えるという意味ではほとんど効果がない。
購入を取りやめる選択肢を事実上持たないという場合とは、寡占・独占の場合にあり得ることだが、それ以外でも、残数僅少の場合とか、期日が迫っている場合とか、購入サイトはたくさんあっても条件はほとんど同じという場合とか、様々な場合が考えられる。そして実際にネットで購入する消費者にとって、価格は比較できても、返品条件に着目した比較というのはあまり現実的ではないように思われる。
反対に事業者にとっては、表示規制は場合により過剰な負担となり、場合により不可能を強いるものともなる。例えば携帯電話による取引では、事業者が消費者に表示するスペースは限られており、通信の量や時間を節約するという観点からも多くの表示を義務づける規制は適切ではない。
実はネット取引に限らず、情報の格差を解消するために豊富な情報を消費者に提供して対等な取引環境を回復しようという方向性は、どうしてもフィクションの上に成り立ってしまう。端的な例が、保険契約で、保険契約を締結する際、あの細かい字で書かれた約款を熟読してすべてを理解した上で契約する消費者はまずいない。そこで最近は重要事項を抜き出してチェックする方式にするなど、工夫しているが、他方で迅速性を重んじる取引形態ではそれすらも形骸化しがちである。
ネット取引が迅速性・簡便性を何よりも大事にしなければならない取引形態であることは、いうまでもない。
また、電子商取引の前提として、通信サービスについての消費者保護も問題を孕んでいる。
通信事業者が提供するサービスには特定商取引法の適用はなく、消費者保護のルールがほとんど存在しない上、提供される役務の内容は高度に専門的であり大量であり、料金プランなども複雑になっている。その上携帯電話であれば、その端末の販売と通信サービス契約とが不可分一体となっており、誰が契約当事者なのかということすらよく分からない状態で消費者が契約させられているという状況にある。
電子マネーについても、いわゆるポイントの財産的保護はほとんど手が付けられていない。カード型電子マネーについてはプリペイドカードと同様に倒産に対する保護があり、今回、オンライン型電子マネーにも拡大されたが、果たして十分かは未検証である。
さらに大きなシェアを有する電子マネーは公的な通貨に匹敵するような通用力をもつが、その運営主体が買収されるなどして特定企業の傘下に入れば、その企業の運営する電子商取引に偏る可能性がある。この場合、電子商取引事業者間の公正競争をゆがめるのみならず、消費者の選択肢にも予期せぬ制約が生じてくる可能性がある。
このように電子商取引分野における消費者保護は、従来の通信販売やプリペイドカードなどの法的枠組みを応用しただけでは十分でない状況が生じているのである。
(以下、(3)に続く)
シンポジウム参加希望の方は、明日までに情報ネットワーク法学会のウェブページから参加登録をしてほしい。それ以後は会場(大阪大学)へ直接来場となる。
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