decision:小向美奈子ストリップ写真の出版差し止め
ネットではなく紙媒体が先であった。
東京地決平成21年8月13日判時2053号65頁
判決文は匿名化されているため、よく分からないところもあるが、ともかく小向美奈子さんのストリップ写真を隠し撮りした出版社が、それを週刊誌に載せたところ、仮処分により差し止め命令が出されたというものである。
原決定は6月19日で、判例時報に載っているのはその異議申立審である。
残念ながら、本件の記事が掲載された週刊誌は既に発売され、発売当日に差し止めを申し立てたというものだから、いわゆる事前差し止めとは言い難いケースである。しかし、将来にわたって出版される可能性があるので、これを防ぐという保全の必要性が認められるとしている。
他の差し止め事案でも参考になることだが、もう使う予定はないと言っているからといって、保全の必要性がなくなるわけではないと判断されていることも注目されてよい。違法行為を行ったものが、もうしませんと言い訳して差し止め判決を免れようとするケースがあるが、そんなのは一蹴されるべきなのである。
なお、本決定は憲法21条の報道出版の自由が民主的国家の礎で基本的人権として尊重されることはいうまでもないとしつつ、「債務者がその出版する図書に債権者の承諾なく盗撮した写真を掲載した記事を載せることは、専ら性的関心に応えることを主たる目的とするものであり、およそ、憲法21条1項の定める出版の自由の保護に値しない行為というほかはない」とまで言いきっている。
しかし、性的関心に応える出版であっても、憲法上の保護が及ぶことは当然ではなかろうか? 成人が同意の上で作成したポルノは、性的関心に応えるために出版されたものとしても、憲法の保護は及んで当然で、だからこそ、わいせつ性の概念やわいせつ判断の明確性などが憲法問題としても問われてきたのである。
表現の自由とて他人の権利を侵害することが無制限にできるわけではなく、また社会的法益に属することにはなるが、社会の善良な風俗に反する程度に至れば、やはり許されなくなる。それは憲法上の価値の衝突から許されなくなるわけであろう。
本件でも、性的関心に応えることを主たる目的とするから憲法の保護が及ばないのではなく、被写体の同意を得ない写真であることや、撮影の方法・手段が適法でないことから、その差し止めが基本的人権の侵害とはならないというべきである。
ここらあたりを間違えないようにしないと、ポルノはすべて悪、性的な表現はすべて悪で、取り締まっても憲法に抵触するものではないというような方向に発展しないとも限らない。現在の世相は、そのような危惧もいだかせるような感じがある。
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コメント
成人のポルノもモデルの虐待だという見解もあって、それだと、表現の自由は後退するでしょうね。
投稿: 奥村徹 | 2009/12/03 14:40
ギリシャ時代の彫刻やルネッサンスの裸婦像それにロダンの彫刻も……XXになるのかな(ノ∀`*)ペチ
投稿: キメイラ | 2009/12/04 23:13