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2009/11/28

law滝井繁男・元最高裁判事の講演

law滝井繁男・元最高裁判事の講演
法社会学会の関東研究支部シンポ「event:最高裁は変わったかシンポジウム」として紹介したイベントに、滝井繁男・元最高裁判事の講演を聞きに来た。

違憲審査機関としての役割を最高裁判事が常に意識しながら仕事をする態勢にならないのは日常的な裁判実務に追われているからだという。

司法行政でも、裁判官会議では想像以上に時間をかけているとはいえ、裁判官として何か仕事をしたとか変えたとか、言えるような仕事は出来なかったという。

上告制限も、新民訴で仕事のやり方は大きく変わらなかったという。
原判決破棄の事件数も、新法下の方が増えている。

刑事につき、審理のあり方も80年代の死刑から再審でひっくり返った事件以降、検討が続いている。
平成19年の泉・涌井判事の意見対立にみられるように、事実審理に最高裁がどこまで関与するか議論がある。これが今年の痴漢冤罪事件でも再現され、少数意見だった泉判事の立場が多数意見となった。ここには大きな変化がある。

憲法判断としても、在外邦人の選挙権の問題や国籍法の問題など、法令違憲判決が最近目立っていることに、司法積極主義への変化(積極主義という言葉は滝井元判事が使ったものではないが)を感じさせる。ただし、今後その変化が定着するかどうかは不透明だという。

裁判官の自己認識として、個対個の争いを裁くことが本来の仕事だという認識が根強い。これに対し、憲法判断が求められる場合の一般的な性格、普遍的な価値対立、波及効などを、裁判官が自分の仕事ととらえていない傾向があるのではないかという。また最高裁の判断が他の事件に影響を及ぼすこと自体に躊躇を覚えているという傾向があるのではないかともいう。
こうした意識レベルでの傾向が、滝井元判事の最高裁で感じた意識であり、この意識が残っている以上、今後は不透明だという。

法令解釈のレベルでも、貸金業法の解釈や不法行為解釈
文書提出命令の拡大傾向には、訴訟というものの公共的性格を重視した司法制度改革審議会の意見書の影響があるという。

個別意見の増加も、望ましい傾向ではあるが、裁判官の時間圧迫要因であるので見通しはそれほど明るくない。

最高裁の変化の要因は何か?
 中の人としては、最高裁判事の発言が多くなったということに変化が見られるのだが、その要因は何か?
 司法裁判官の消極性・中にこもる傾向が、司法制度改革審議会意見書の衝撃により変わったのではないかという。内閣に設置された会議体であそこまでいわれたのも、大きく響いたという。

 司法行政面での変化も、まだ明確な結果に現れてはいないが下級審裁判官選任過程には新しい仕組みが現れた。
 全く手がつけられていないのが、最高裁判事の選任過程であり、司法制度改革審議会意見書の趣旨が及んでおらず、昨晩の三人の決定過程にも従来のあり方からなんらの変化も見られないと批判する。

 最高裁判事の選任過程も含め、最高裁のあり方を変えるには、それについての国民的な議論が必要だという。憲法判断や法形成についての積極性を求めるには、それがいいのかどうかの議論が必要だという。
 個人的には、裁判官・検察官出身の判事が過半数を占めていること、定年後の職であること、そしてキャリアを積み上げた人であること、こういう人々が過半数を占めていることから、最高裁の判断について変化を求めることが困難になっているという。
 調査官についても、最上級審の裁判官補佐としては極めて優秀だが、憲法審、法形成をもたらすような裁判に調査を行う役割としては、調査官では十分でないという。
 最高裁判例解説についても、裁判官が全く関与しない文献であるのに、確固たるデファクトスタンダードになってしまっている。本来の解説者としての役割を逸脱している例も見られる。貸金業法上の書面についての解説や、足利事件の原最高裁判決の解説など、判決の文言からは出てこないし、合議で議論された内容ではないことが書かれていて、そのようなものが過度にスタンダードとなっては困るという。

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コメント

最高裁判事自身が、調査官や調査官解説についてどう考えているのかがわかって大変興味深いです。

投稿: かおる姫 | 2009/11/28 17:09

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