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2009/11/18

jugement:特許侵害訴訟の提起は不法行為となるか?

大阪地判平成21年11月12日判決全文PDF

いわれなき訴訟を提起されて被告よばわりされると、感情的にも傷つくし、特許侵害で訴えられれば商売にも差し障りがある。そこで特許侵害訴訟を提起したことが不法行為として損害賠償義務を生じるかという問題である。

この問題には、実は最高裁判決があって、特許侵害に限らず、判断基準が定着している。
この判決でも一般論として引用している。

最判昭和63年1月26日PDF判決全文

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,同訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる

これに照らしてこの大阪地裁の事件でも判断しているが、大阪地裁の事案でちょっと変わっているのは、別件訴訟が二つの特許侵害に関するもので、そのうち一つは請求放棄により終結しているが、もう一つはまだ係属中である。
上の最高裁判決は敗訴確定判決を受けた場合の判断基準だが、請求放棄でも同じか? 確定判決でなくても同じか、というわけである。

簡単な方で、請求放棄でも同じかというと、請求放棄は調書に記載されて確定判決と同一の効力を生じるとなっているので、請求棄却の確定判決と同じと解してよい。ただし、その場合は裁判所の判断が示されたわけではないので、「既判力」があるかどうかは争いがあるし、まして特許侵害があったかどうかの事実判断は全然されていない。それでも同じに考えてよいかということが少し問題となる。
結論は同じで良さそうである。要は、棄却確定判決から自動的に損害賠償請求が認められるのではなく、事実的法律的基礎が欠けるのに敢えて訴えたという事情がないと不法行為にならないというのだから、確定判決でも請求放棄でも、この点を実質的に審理判断しなければならないのは同じである。

これに対してまだ係属中の特許侵害訴訟について、別訴で訴訟提起を不法行為として請求するのは問題がある。両者の訴訟物はもちろん全然異なるが、判断の内容は、どちらも特許権侵害が成立するかどうかの実質判断であり、その点は重複する。
最近の有力な傾向によれば、二重起訴の禁止の趣旨が単に訴訟物の同一・既判力の抵触というだけでなく、審理判断の重複により実質的に矛盾した判断がでる可能性を排除するということにもあると解されている。これに従えば、特許権侵害の有無を実質的に判断する訴訟が二つ同時並行して審理されるのは二重起訴禁止に触れるという解釈もありそうである。
仮にそうだとすると、別件訴訟の反訴として請求すればよいのであって、訴訟を別に提起する必要はないということになり、却下となるかもしれない。

本判決は、そうではないという判断を示した点に特徴があり、議論の対象になりそうである。

もう一つ、本判決の特徴として、上記の判断基準のうち「通常人」について、特許侵害の技術的事項の成否判断については当業者が想定されるから、その業者レベルの判断能力に照らして「容易に知り得たかどうか」を判断するとしている。当然のことのようではあるが、時々迷うことのある解釈の一例である。

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