e-filing:裁判の電子申請
電子申請というと、無駄遣いの象徴のような取り上げ方をされている昨今だが、e-filingの利用が世界的にも進んでいる主要な分野として、訴訟手続がある。
もともと、訴訟というのは情報流通の場である。
従来は法廷を中心とするリアルな空間に関係者が一堂に会して、当事者からの主張立証、裁判所による疑問点の質問(釈明)、そして大小様々な判断の伝達がなされる。
また、法廷と当事者の間では、訴状、答弁書、準備書面、上申書、証拠申出書・説明書、その他様々な文書が提出され、呼出状や判決書といった文書が送達される。
こうした情報流通は、いうまでもなくITあるいはICTを活用することで迅速かつ容易になることはいうまでもない。
また裁判所に訴状以下すべての訴訟書類をデジタルの形で提出することは、受け入れる裁判所の側でもデジタルデータの形で当事者の申立て、主張その他の情報を取り入れ、記録システムを構築し、期日管理にも応用し、ルーチンワークを自動化し、訴訟の効率化・迅速化につながる。
さらに、法廷にICTが入ることにより、公開主義・口頭主義の実質化という効果も期待できる。
以上のような効果は、既にアメリカやシンガポール、オーストラリアなどで先進的に用いられていることから経験的にも知られているが、利点はこれにはとどまらない。
裁判の利用者である一般市民や企業にとっても、電子ネットワークを通じた各種申立てが可能となるので、例えば公民館から裁判に参加することができたり、企業内ネットワークを通じて参加することができたり、文字通りのユビキタスな裁判空間が現出する。
#裁判がそんなに身近になってほしくないという感想も出てきそうだが。
土地管轄の問題、そして国際裁判管轄の問題なども、電子ネットワークを活用した手続が一般化すれば、その重要性をかなり少なくすることができる。
現実の課題は色々ある。
セキュリティの確保がその最たるものだが、その他には裁判官も弁護士も、事務手続を切り替えることには抵抗が大きく、徐々に進めて行くには事務手続の重複に耐え難いものがある。
また公開が実質化されると、これとプライバシーとの緊張関係が先鋭化する。
当事者本人を巻き込んだユビキタスアクセスということを考えるのであれば、上記であげたような公民館に機械を設置しなければならず、それも裁判に使うというだけではほとんど意味がなく、医療相談、行政相談など様々なパブリックサービスと組み合わせる壮大なシステム構築が必要となる。
このように、裁判におけるICT利活用が裁判の高度化というだけでなく、利用者にとって使いやすいシステムにするという志を高く持つと、様々な難問が予想される。
この難問を克服するには時間がかかるだろうことはいうまでもないが、それでも一歩一歩、実験的な試みや特定分野での実務導入などが積み重ねられていくことが必要だ。
#例えば、アメリカなどで先行した破産事件に導入するなどである。
実践を積み重ねてこそ、進歩が期待できる。
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