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2009/11/30

arret:住居侵入被告事件最高裁判決

最判平成21年11月30日(PDF判決全文

今日のニュースで取り上げられていた判決がもうサイトに載っている。
本判決の主要争点は、果たしてビラ配布のためにマンション共用部分に立ち入った行為が住居侵入罪を構成するか、そして構成するとして、これを処罰することは憲法21条の表現の自由に対する侵害として憲法違反となるかという2点である。

このうち前半の、住居侵入罪成立の部分については、以下のように判示している。

本件マンションの構造及び管理状況,玄関ホール内の状況,上記はり紙の記載内容,本件立入りの目的などからみて,本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであることは明らかであり,被告人もこれを認識していたものと認められる。そして,本件マンションは分譲マンションであり,本件立入り行為の態様は玄関内東側ドアを開けて7階から3階までの本件マンションの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと,法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできず,他に犯罪の成立を阻却すべき事情は認められないから,本件立入り行為について刑法130条前段の罪が成立する

これに先立つ事実関係では、玄関ホールが管理人により監視下に置かれていたことや、張り紙として「チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます。」と黒色の文字で記載されたはり紙と,B4判大の黄色地の紙に本件管理組合名義で「当マンションの敷地内に立ち入り,パンフレットの投函,物品販売などを行うことは厳禁です。工事施行,集金などのために訪問先が特定している業者の方は,必ず管理人室で『入退館記録簿』に記帳の上,入館(退館)願います。」という張り紙が目立つところに貼られていたという事情が指摘されている。この部分が前半の、被告人の認識にもかかってくる。
後半は、立ち入った場所がかなりの奥までということで、玄関脇にあるメールボックスであればともかく各階廊下まで行った場合ということを重視している。
そういうわけで、今後政治ビラのみならず、寿司屋を代表とする出前ビラや、各種宣伝ビラが立入禁止マンションの奥深くまで入って撒かれたら、住居侵入としてどしどし告訴・告発しよう。

理論的により重要なのは、憲法21条の表現の自由との関係だが、最高裁はこの点を正面からとらえて、ビラ配布に受許侵入罪を適用しても表現の自由を侵害するものではないとした。
その論理は、ビラ配りも表現行為の一つとして憲法上保護されることを認めつつ、公共の福祉のため必要かつ合理的な制約を受けるとし、他人の権利を不当に侵害する手段を用いてなされる表現行為は許されないという。
ここで引用しているのは、昭和59年12月18日の最高裁判決(刑集38巻12号3026頁)、すなわち「駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約20分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法35条及び刑法130条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法21条1項に違反しない。」とされた事例である。
 #細かいことだが、本判決には上記の59年判決の頁が3206頁と記載されているが、これは間違いである。ウェブ上の誤植なら直せばよいが、判決文自体が間違えているとすると、更正決定が必要となるのではあるまいか?

 以後、判決の中で本件ビラ配りも表現行為の手段ではあるが、それにより管理組合の管理権侵害になるのみならず、居住者の私生活平穏の侵害にもなることから、「本件立入り行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない」と結論づけている。

 この憲法判断は、価値判断の問題であり、賛否が分かれるところであろう。ビラ配りがどうしても必要なやむを得ざる表現行為の手段だというのであれば、表現の自由の保護範囲に入るべきだと言うことになるし、他に同様の効果を生じさせる手段があるのであれば、他人の権利侵害を招く方法を処罰しても憲法違反とはいえないであろう。
 例えば現代ではウェブページを使っていくらでも低コストで表現行為ができるのだから、あえてビラ配りをしなくてもよいと言うこともいえるかもしれない。しかしビラは各個人の住居に届けられて見てもらえるところに妙味があるのであって、ウェブページに書くという以上の効果が認められるから、やはりその自由は認められるべきだという議論も成り立つだろう。
 また、現在のところプライバシーの尊重は極めて重大な価値ということになってきているので、表現の自由とプライバシーとが衝突する場合には、プライバシーが優先するということもあり得るかもしれない。ことに内容面はともかく、手段面では、一方的な情報の押しつけに対してノーという権利を認めたものという評価も可能である。
 このように見ていくと、刑事処罰の是非という一ひねりが付け加わっているが、いわゆる囚われの聴衆問題にも関係する論点を秘めているというべきであり、興味深い。

参考文献・サイト

janjan:なぜビラ配りが犯罪になるのか!「守れ言論、活かそう憲法!」参加報告
村野瀬玲奈の秘書課広報室:東京・葛飾ビラ配布弾圧事件 最高裁上告審判決を前にして

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