国センADR結果概要より、豆柴事件
昨日、記者説明会で二回目のADR結果概要が公表されたはずだが、マスコミの興味は早くも失われたらしく、ニュース検索しても出てこない。
その発表された中に、ネットトラブルがあった。
インターネット通信販売での子犬の引渡しに関する紛争「詳細情報PDF」の13頁からのものだ。
ネットで子犬(柴犬)を注文したところ、前払いで売却代金とワクチン代を振り込んだが、引渡前日になって体調不良を理由に引渡日が延期となり、1ヶ月たっても引き渡してもらえないという。そしてキャンセルを申し出たら、犬代の3分の2または全額をキャンセル料として差し引くと言われたというのである。
自己都合キャンセルだというのが売り主の言い分だ。
申立ては8件あり、これらのうち7件までが一様に引渡前日に体調不良が発生したというものであり、センターでも相手方に出席して説明してほしいという説得をしたが、応じてもらえなかったという。熊本の業者なので、出席に応じられないというのはまあ無理もないかもしれないが、電話での応答もなされなかったということである。
ところが、続報。この業者は「星の雫」という個人事業者だが、先月熊本県から営業停止の行政処分を受けていた。特商法違反である。
毎日新聞サイトから時事の雑報であるので、実名を除いて全文転載しよう。
星の雫(しずく)=法人登記なし(熊本県菊池市)ペット通信販売業
10月20日、熊本県が6カ月間の業務の一部停止を命令。インターネットを通じ小型の柴犬(しばいぬ)を通信販売する際「すべて血統書付き」などと表示していたが、血統書は根拠のない自作書面だった。低価格と誤認させる誇大広告もあった。小型柴犬は「豆柴」「すず柴」などと呼ばれ人気を集めている。全国の消費生活センターには4~9月に計46件の相談があった。
国センADRにかかった事例は、消費者が儲け話に騙されたというのではなく、通常の電子商取引として申し込んで、結果、代金をとられてしまったケースである。
実は、熊本県の報道発表には、このケースも処分理由に含まれていた。
3 当該事業者は、ホームページ上に、商品の引き渡し時期について「なるべくお客様のご希望日」と表示していますが、実際には、引渡し予定日の直前に、子犬の病気を理由に引渡しを遅延し、若しくは引き渡していないことから、当該表示は、著しく事実に相違する表示でした。
4 当該事業者は、ホームページ上に、購入申込み後キャンセルした場合のキャンセル料について「お客様の取り消しの事情とご予約いただいてからの日数により、3分の1から全額」と表示しています。
しかしながら、実際には、消費者からのキャンセルの理由は、子犬の病気や著しい商 品引渡しの遅延という、一般的に事業者側に責任があるものであり、消費者側からキャンセルを申し出るよう仕向け、結果的に一切返金していませんでした。
にも関わらず、あたかも、消費者が自己都合によりキャンセルを申し出た場合にのみキャンセル料が発生するかのように表示しており、当該表示は、著しく事実に相違する表示でした。
5 当該事業者は、実際は販売困難又は販売不可能である子犬をインターネット上に掲載し、一般消費者がこれを購入できると誤認するおそれがある表示をしました。
この被害者たちのBBSも立ち上がっている。それによると、「自分を攻撃したり非難するようなメールは「名誉毀損で訴えます」と返信してくる」と言うことも書かれている。
さて、この場合に法的にはどうなのか?
手がかりとしては、民法534条の特定物売買における危険負担の条文がある。
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
今回のケースに当てはめてみると、子犬を指定して買った場合、その子犬がプリーダーの責任によらずに死んだり病気になったりしたときは、買い主はそれでも購入代金を払わなければならないというわけである。
ただし、これは子犬がプリーダーの責任によらないで死んだり病気になったり怪我をしたりしたケースであり、今回のように体調不良の場合には当てはまらないし、当てはまる場合でもブリーダーが注意義務を尽くしたかどうかは問題となる。
体調不良を理由に引渡を拒み、現状での引渡を求めても応じないということであれば、もはや危険負担の問題ではなく、単なる債務不履行ということになるだろう。買い主は契約を解除した上で、代金の返金と損害賠償を請求できるものと考えられる。
大学の民法の授業では、ここで話は終わりだし、民事訴訟法の授業ではこれをもとに訴訟上の議論が展開される。しかし実際の事件では、返金すら実現困難で、ADRも無力さを浮き彫りにしてしまう。
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