arret:児童ポルノを作るのに淫行したら、二つの罪
極めて法技術的な話だが、児童ポルノのビデオを作成するのに、未成年の女の子と自分でエッチして、それをビデオに撮ったら、エッチしたこと=淫行(児童福祉法違反)と児童ポルノ製造罪の両方に触れる。
この場合に、どちらかの罪しか成立しないのか、それとも両方の罪で罰せられるのか(併合罪)?
この問題に最高裁が答えを出した。
答えは併合罪ということである。
刑法54条には、「一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する」という規定があり、これを観念的競合と呼んでいる。
児童ポルノ製造過程で淫行を行ったのは、まさにこれに該当するように見える。が、最高裁は次のように判断した。
本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。
一般的にいって、観念的競合なら重い方の罪だけが成立するのに対して、併合罪なら両方が成立する。ただし単純に両方の刑期が足されるのではなく、重い法の刑の長期1.5倍までが限度である。
ともかく、観念的競合よりは併合罪の方が刑が重くなる可能性があるので、最高裁の上の判断は、児童ポルノ+淫行についてより重罰となりうる解釈を採用したということである。
この事件では、さらに併合罪になれば家庭裁判所の管轄を外れるのではないかという点が争われていたのだが、その点は最高裁がその程度の法令違反なら「原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない」と判断した。
下記、奥村先生の見解によれば、「まあ、細かいこと言うな」ということだ。
ということで上告は棄却されたが、また新たな判例が、奥村徹弁護人の関与の下で生み出されたというわけである。→奥村弁護士の見解参照。
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コメント
両罪成立するとして、観念的競合か併合罪かということです。実務家の感覚としては併合罪なんですが、確定記録の閲覧で、観念的競合とする実務が流行っていることがわかったので、それはおかしいと主張していました。
自白の実刑相当事案なので、手続にもこだわることにして、一審から管轄を問題にしていていました。自信がないのか(控訴して欲しくないからか?)、同種事件ではかなり軽い量刑になっています。
弁護人からの併合罪の主張は(一見すると処断刑期が延びるので)勇気が要りますが、最決でも不利益主張とは言われていません。よく調べれば、有利に使えることもあるということです。
他の高裁は併合罪なのに、札幌高裁は児童買春罪と3項製造罪を観念的競合にした判決もあって、どこ見て判決書いてるのかと思います。
投稿: 奥村徹(大阪弁護士会) | 2009/10/27 11:15
事案の詳細は、小樽支部管内なので、当時の新聞記事をみればわかります。営業的な児童ポルノ製造ではなく、趣味の撮影でした。
ちなみに、控訴審で観念的競合を主張したのは、ハッカー検事です。
起訴検察官や一審の小樽支部、原審の札幌高裁は、東京高判h17.12.26(第9刑事部)を下敷きにしたと思われますが、その部も最近併合罪説に転向しました(東京高判h21.10.14第9刑事部)。
この辺の事物管轄の混乱は、少年法37条の廃止にも影響したと思います。
投稿: 奥村徹(大阪弁護士会) | 2009/10/27 11:25
上記事案の判例が最高裁で併合罪に統一されたのは奥村先生の功績だと思います。争点オワタ\(^o^)/
投稿: キメイラ | 2009/10/27 12:50
まだねぇ、強制わいせつ罪(撮影行為)と製造罪との関係が残ってるんですよ。
これも、併合罪の判決と観念的競合の判決が混在しています。
これは観念的競合になるはずです。だって、撮影行為はむかしからわいせつ行為だから。
投稿: 奥村徹(大阪弁護士会) | 2009/10/27 13:08
>まだねぇ、強制わいせつ罪(撮影行為)と製造罪との関係が残ってるんですよ。
そうですかorz 強制にわたらないワイセツ行為は犯罪じゃないけど,強いて撮影行為すれば確かに・・・。
投稿: キメイラ | 2009/10/27 16:14
強制と言っても、よく出てくるのは176後段で、
1 13歳未満の児童のパンツ脱がしてケータイで撮影し、わいせつ行為をした。
2 1の機会に、陰部露出した姿態をとらせて、ケータイで撮影して、3号ポルノであるminiSDカード1枚を製造した
」
という態様です。
かなりの率で実刑になりますが、併合罪にされてても誰も文句つけてない。
撮影したら、ふつうなんかの媒体に記録されるから、今回の判例でも、観念的競合だろうなと。
投稿: 奥村徹(大阪弁護士会) | 2009/10/27 17:27