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2009/10/23

arret:名誉毀損と訴え提起の違法性

施設入所者に対する虐待が新聞に報じられた件について、施設が情報提供者である職員に名誉毀損の損害賠償を求めたケースで、この訴え提起が不法行為となるかどうかが主たる争点となった。

最判平成21年10月23日PDF判決全文

事実関係は、特別養護老人ホームの職員の一人が入所者に虐待行為をしていたのに対し、別の職員がこれを内部告発したというものである。内部告発は、最初は施設長に直接口頭で申し出され、施設長の指示で投書箱に情報を入れ、これを元に施設長が虐待行為をしたと名指しされた職員に聞き取りをしたが否定された。
また、虐待を受けた入所者の身体にも外傷はなく、告発した職員と同席で事実確認を求められた際も虐待疑惑について否定したという場合に、施設長はその告発された職員の方を信じたのである。

その後、告発した職員は新聞に情報を寄せ、新聞報道がされたので、入所者家族説明会を開くなど大騒ぎになったが、その場でも告発された職員は疑惑を否定した。

そして施設長は、告発した職員に対して、4ヶ月間も怒鳴ったり緊急職員会議に出席させなかったりするなどの多くの嫌がらせ行為を行った。その一環として、本件名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟を職員に対して起こしたのである。

これに対して被告となった職員側が、訴え提起とその他の嫌がらせ行為とを一体として不法行為とし、逆に損害賠償を求める反訴を提起した。

原審は、本訴を棄却し、反訴は100万円の慰藉料を認めた。これに施設の側が上告した。

問題は、最高裁が以前に訴え提起を不法行為とすることができるかどうかについて次のような一般論を展開していた点である。

「訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」

それで、上記の事実関係の下では、虐待がなかったと思って損害賠償請求訴訟を提起したのは著しく相当性を欠くとまではいえないとしたのである。

さて、ネット関連の事件に詳しい方々は、この事件を読んで直ちに、オリコン対烏賀陽訴訟、それに武富士訴訟などを思い浮かべるに違いない。

武富士訴訟はひどい訴訟であり、そもそもの盗聴事件とかもひどい事件であり、まさしく上記の「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」場合に当たるのだが、本件はいかがであろうか?
施設長の立場に立てば、ウソをついて施設の名誉を汚し、他の職員を貶めていると思いこんでいたとすれば、本件の行動も理解できる。

問題はそのように思いこむことが正当といえるかどうかであり、軽々に思いこんだのであれば、被害者救済という面からいっても当然損害賠償が認められて然るべきである。少なくとも判決文の記述だけから見れば、後知恵ではあるが、軽々に虐待していた職員の方を信じたといわざるを得ない。

しかし後知恵であることは否定できず、その場に立たされたらどう行動したかと考えると、つまり行為規範のレベルでは一概に訴え提起までは非難しにくい。

最高裁は、そういう行為規範のレベルで評価したということで、積極的に評価されるべきなのだろう。

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