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2009/08/03

JURY:CGは証拠か?

毎日jp:裁判員裁判:刺し傷のCG三次元画像、検察側証拠に

裁判員は証拠を見て事実認定することがまず求められる。
しかし、従来証拠として提示されてきた写真が裁判員には衝撃的すぎるとして、代わりにCGを使った写真を使うというのである。

裁判員にとって、専門的な鑑定書は難解で、写真も衝撃的だ。東大法医学教室の吉田謙一教授と医学部5年の瀬尾拡史(ひろふみ)さん(24)は昨年、CGで立体的に傷の状況を再現する手法を開発した。臓器の画像を半透明にして凶器が刺さった様子をイメージしやすくし、動画でさまざまな角度から見られるようにした。CGは実際に模擬裁判で利用されている。

現物を見ずに、それを分かりやすくした別のものを見て判断するというのだが、ここには実に危ういものがある。

たとえ話をすると、一般人が必要に迫られて一般向けの法律解説書を読み、そうかと納得することは責められない。しかしそれを鵜呑みにして法実務に出てこられるときは、間違っているかもしれないという可能性を踏まえてほしいものである。
学生が、一般向けの法律解説書や啓発書を読み、そのままゼミの報告に使ったりすると、先生としてはオイオイちょっと待て、それは正しいのか? 法律の原文はどうなってる? 判例は? と聞くことになる。
法律の文章は確かに一般向けには難解で読みづらく理解しづらい。
しかし、それを分かりやすくした書物は、必ず、不正確さを免れないという宿命を負っているのだ。難解なものを分かりやすくするには、何らかの情報操作が必要である。無駄に難解なのではなくて2000年の歴史的蓄積があって理論的背景があって、それらを理解しないと分かりにくいというものを、それらを理解しないまま分かりやすくしてしまえば、個々の条文がもつ意味はデフォルメされ、本来もっている文脈とか派生的意味とかを切り落としてしまう。

証拠もそうである。証拠写真をCGにより忠実に再現すれば、本物そっくりのものができる。しかしそれでは分かりやすくもならないし、むごたらしいものはむごたらしいままである。分かりやすくするためには、角度を変えてみたり一部を透過してみたりアニメーションをつけてみたり、そしてシミュレーションにしてみたりする必要がある。そのようにすれば、それは想像図であって真実そのものではないが、真実よりも真実らしく見える。そこに証拠に基づかない判断が植え付けられる可能性があるだろう。

このようなリスクを回避するのは、弁護人のチェック機能に期待するしかなく、弁護人は争いある事実をCGにより「立証」することに対して異議を述べ、間違った判断を導かないと考えられる限りにおいて同意すればよい。この弁護側の同意がなければ、CG立証は許されるべきではない。

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コメント

やはり、そういう手法が出てきましたか。
≫そこに証拠に基づかない判断が植え付けられる可能性があるだろう。
誰かの手が入るってことは、常に「評価」が入るってことを無視するんですかね?それとも、気付かないのでしょうか・・・

投稿: 603 | 2009/08/04 01:41

他の利益との衡量なんでしょう。

可視化の話とも共通しますが、真実を明らかにする最善の方法が裁判員の理解を妨げるのであれば、次善の策を考えるということで手を加えるわけです。そこに潜む危険性を適切に除去するのが、手続法の役割ということでしょうか。
可視化についていうと、取り調べの適正さを明らかにする最善の方法が全部録画だとして、それが被疑者の供述を妨げるというのが警察・検察の言い分で、だから手を加えるというわけです。しかしこの点では、全部録画で妨げられるのが「供述」ではなく「供述強要(それも人には見せられない程度の)」ではないかというのが、私の意見ですけど。

投稿: 町村 | 2009/08/04 09:25

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