« history自民党の歴史は日本の現代史 | トップページ | univ.また経歴詐称して大学院設置申請 »

2009/07/21

jugement:対抗言論の法理により発信者情報開示請求を棄却した事例

東京地判平成20年10月31日(Westlaw Japan 文献番号 2008WLJPCA10318031)

「原告は,まず本件ブログ上での反論を行い,それが効果を上げない場合に初めて,同項に基づく発信者情報開示請求を行うのが妥当であると考える。」
このように述べて、反論を何らしていない原告の発信者情報開示請求を棄却した事例である。

事案は、同僚の車が当て逃げされ、そのナンバーを控えていたことから判明した修理工場を当て逃げ犯人と決めつけたブログ記事について、修理工場からヤフーに発信者情報開示請求をしたというものである。

ヤフーは色々反論し、特に違法性阻却事由があると主張したが、これは認められなかった。
ところが、松田浩養裁判官は、プロバイダ責任制限法4条1項1号の要件を満たすのに、反論が困難だったり反論が功を奏しない場合であることを要するという。

単に権利が侵害されただけではなく,それが「明らかであるとき」とは,どのような場合を指すか検討するに,これは,当該インターネット上で,虚偽の言論により,名誉など自己の権利を侵害された者が,当該発言に対し,同じくインターネット上で反論をして名誉の回復を図ることが不可能ないし著しく困難な場合を指すと解すべきである。    ウ すなわち,インターネットに限らず,一般に,ある虚偽の言論により自己の名誉等を侵害されたと判断した者は,当該言論が虚偽であることを指摘したり,その言論が根拠に乏しいことを指摘することはできる(以下「反論」と総称する。)。そして,この反論に応じて,当初の言論をした者が,指摘された発言を訂正したり,さらには謝罪したりすれば,当初の言論に接した者も,当該言論によって,一旦その対象者への評価を低下させたことがあったとしても,当該言論が虚偽,少なくとも正確ではないものと認識し,その言論の対象となった者への評価を回復させることになる。このことは,仮に,当初の言論を行った者が,反論にあって謝罪等をせず,特段再反論をしない場合も,これらの言論に接している第三者は,当初の言論を行った者が再反論をしない状況から,反論された言論が不正確なものとであると判断することが通常であり,時には再反論できない当初の発言者に対する評価を低下させる結果となることさえあろう。  また,当初の言論を行った者が,反論にあっても直ちに訂正等をせず,再反論を行い,反論を行った者との間で意見の応酬となる場合も少なくないといえる。しかし,そうした言論の応酬ないし交換の中で,特に,第三者は,どちらの言論が正しいのか,少なくとも不正確ではないのか判断し,発言者双方への評価を下すことができる。これは,発言の応酬の中で,一方が有効でない反論に固執してしまった場合も同様といえる。  このように,虚偽の言論により名誉等を毀損された者も,有効な反論の機会を有していれば,自力で自己の名誉等の回復を図ることができる。  すなわち,そうした状況にある限り,名誉等の「権利を侵害されたことが明らかであるとき」には該当しないというべきである。

例の平和神軍一審判決にも影響を受けている模様である。

斬新な解釈だが、私見によれば、名誉毀損されたものに反論という行為の負担を課すことは、明文の規定がない以上無理であり、反論しないことをもって不利に扱うことは先行する行為義務がないのに行為しないといって批判する矛盾をおかしている。

ただし、多くのブロガーの感情に訴えかけ支持される見解かもしれない。

|

« history自民党の歴史は日本の現代史 | トップページ | univ.また経歴詐称して大学院設置申請 »

法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

インターネット上では,ある虚偽の言論により自己の名誉等を侵害されたと判断した者が,当該言論が虚偽であることを指摘したり,その言論が根拠に乏しいことを指摘してみても,あまり意味がないことを松田裁判官は理解されていないようですね。

投稿: 小倉秀夫 | 2009/07/22 02:01

小倉先生も大昔には似たようなことをおっしゃってましたよね。
時代はすっかり変わってしまった。

投稿: 町村 | 2009/07/22 12:47

 実際の被害者からの相談を受け、実際にそこで何が行われているのかを調査・分析していると、そういう認識にならざるを得ないということだと思います。そういう意味では、法律実務家って、事件を受信するごとに従前の見解が変化していくものなのだと思います。悲惨なケースほど、学会等で発表できないので、研究者の方々にはご理解いただけないのが心苦しいのですが。
 

投稿: 小倉秀夫 | 2009/07/22 20:54

 弁護士に依頼して訴訟を起こして,リーマンには多額の経費とタイムコストを注ぎ込んで,FBやPTSDという2次被害の嵐に遭って敗訴となる(弁護士は確実儲かるが)なら,最初から放置プレイにした方がトータルコストは安く上がる。勝訴しても上記多額のトータルコストや加害者(ニートとか)の支払い能力も考慮すれば費用倒れが予見されるため(弁護士壇先生が御苦労された事案),放置プレイがコストパーフォーマンス等の計算合理性で推奨される。
 それを見越して実名匿名を問わず罵倒嘲笑を常用するXX者には有効な対策がないのがガンでしょう。壇先生には勇気づけられました。m(_"_)m

投稿: キメイラ | 2009/07/23 00:00

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: jugement:対抗言論の法理により発信者情報開示請求を棄却した事例:

« history自民党の歴史は日本の現代史 | トップページ | univ.また経歴詐称して大学院設置申請 »