edu:仕事直結の新大学
asahi.com:仕事直結の授業中心、「新大学」創設へ 中教審の報告案
専門職大学院の次は仕事直結大学か、新しいものが好きだなと思わないでもない。
しかし、学部教育の現実は既にそのような仕事直結というコンセプトに近づきつつあるところが多いであろう。
従来も、学問の種類によっては、いわゆる実学と呼ばれるジャンルがあり、商学部(経営学部)はその典型だし法学部もおそらくそうだ。
私自身は商学部に11年、法学部に11年と、教員としてのキャリアはこの両学部にのみおいてきたわけで、他の学部のことは本当には知らない。しかしイメージとしていうと、実学といえそうなのは、その他教育学部、農学部、医学部、歯学部、獣医学部、薬学部、工学部などが考えられる。工学部がそうなら理学部もそうといえそうではある。
これに対して実学というイメージがないのは、文学部くらいが思いつく。
他方で、大学には昔からリベラルアーツ信仰があり、幅広い教養を取得することを基本的なコンセプトとする学部・大学があり、またかつての教養課程はそういうものとして設計されてきた。従って教養部が衣更えしてできた新しい学部は、概ねこのリベラルアーツのコンセプトを引き継いでいると思われる。
小史的に見ると、昔は学問研究の場であった大学だが、明治初期に作られた時はむしろ実学の場という色彩の方が強かったように思う。
それが、旧制高校とアメリカ占領軍とともにリベラルアーツのコンセプトがやってきた。
教養課程と専門課程との併存のあり方は、いわゆる大綱化とともに混沌とし、今なお曖昧な部分を残している。それと前後して、大学院重点化ということになり、専門教育や学問研究を大学院に移したが、さりとて学部が専門教育をしなくなったわけでもないので、より一層見えにくくなっている。大学や学部によって重点の置き方が違うのであろう。
そして最近は専門職大学院の登場で、少なくともリベラルアーツに徹するわけではない学部教育は、そのコンセプトがますます不明確になっている。
これにさらに学部の教育機能の重視と拡充が求められるようになっていたというのが、現在のところだ。
専門職大学院は学部の上にあるのだが、現時点では学部の専門教育と専門職大学院の教育とが競合し、競争関係にあるようにも見える。法学系でいえば、法科大学院と学部教育の内容は重複し、特に未修者コースは顕著である。
こうした流れの中で見ると、仕事直結の授業を中心にする新大学というアイディアは、学問研究の場とも言えず、専門教育は大学院に吸い取られ、さりとてリベラルアーツに徹することもできない学部にとっては、コンセプトを明確にするチャンスかもしれない。
しかし実際には、進学率が4割以上となった現在、既に多くの大学・学部で職業教育に直結するというコンセプトは取り入れていた。キャリアデザインとかキャリア形成とかいう名称の授業を創設し、エクスターンシップなる制度を導入して単位化し、卒業後の進路を想定した科目設定もかなりなされてきた。
記事によれば「新大学」が既存の各種学校や多様化する大学と競合するという懸念があると結んでいるが、全く新しい教育機関を創設するということであれば確かに抵抗が予想される。しかし実際には母体が必要で、教員の確保という点からいっても、既存の色々な高等教育機関の再編ということにならざるを得ないのではないか。
後は、大学とはあくまで学問研究の場であり、実学教育すら軽蔑するというメンタリティやしがらみ、それと学問の自由・教育の自由が職業教育の場においても貫徹されるべきだという意識、こういう伝統的な発想とどう折り合いを付けていくかだ。
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