lawyer:昨今の弁護士年収
asahi.com:新米弁護士の3割、年収500万円台以下 満足度も低下
ちょっと記事の数字の取り方が、低年収化を強調する形になっていてミスリードなところがある。
やや長めに引用しておこう。
新米の弁護士の年収は500万円台以下が約3割にのぼり、弁護士になって良かったと思う人は6割止まり——。登録後5年以内の大阪の弁護士に対する弁護士グループのアンケートで、若手の業務環境が悪化している実態が浮かんだ。法曹人口の急増に伴う就職難や競争激化が背景にあるとみられる。 アンケートは昨夏、大阪弁護士会の会員グループ「春秋会」が03〜07年に就職した若手弁護士692人に実施。29%の200人から回答を得て今年2月に結果を会員に知らせた。 就職した初年度の年収が「500万円台以下」と答えたのは回答者全体の19%。07年の就職組では28%を占め、03〜06年の就職組の平均13%の2倍だった。一方、「800万円以上」は全体では16%だったが、07年組では8%にとどまり、03〜06年組の平均21%を大きく下回った。 「弁護士になって良かったか」との問いに「はい」と答えたのは全体で66%。03〜05年組では68〜78%だったのに対して、06年組が63%、07年組が60%と、年を追うごとに満足度は下がっていた。 また、働き始めた現状については、「給料が少ない」(07年組)▽「薄利多売で、質のよいサービスが出来ていない」(06年組)▽「公益活動をする余裕がない」(同)など不満が目立った。
法科大学院の既修1期生が、ストレートに合格したとして07年就職組ということになる。
このアンケートには、まだその後のロースクール卒業生・弁護士の実態が反映されていないのだが、年収は低下することはあっても上昇する要素は見あたらない。ので、もっと事態は悪いかもしれない。
とはいえ、最低のカテゴリーが500万円以下ということについて、一般人の皆さんからは違和感があるだろう。
ちなみに、今回の司法制度改革、特に法曹人口の増大についてモデルとなったフランスの、弁護士の年収調査が2001年頃行われ、報告書は公刊されている。
こちらに載っているのでご覧いただきたいが、60頁以下にある。当時はまだフランで、しかも極端な円高の時だったので、確かに円表示は低すぎるきらいがあるのだか、 フランス全国の弁護士年所得平均が541万円、パリでは655万円という数字が出ている。
少し前のユーロ高の為替相場だと、その倍くらいにはなるかもしれない。
そして平均所得は、1990年をピークに年々下がり続けているというデータも出ている。
法曹人口を増やしてフランス並みにするということは、平均年収が下がるということなど当然に分かっていて、それでやったのが司法制度改革なのである。
もちろんそれがよいかどうかは別の問題であり、弁護士が弁護士業界として担ってきた公益活動、とりわけ刑事弁護やリーガルエイドが危機に瀕するということは当時から指摘されてきた。
これに対しては、そもそもが手弁当でやるのがおかしいので、きちんとペイするような制度をこしらえるべきだという反論が可能で、それは司法支援センターと国選弁護料の倍増という形で現れたが、今度は法務省管轄下におかれることや、スタッフ弁護士の待遇の問題(特に任期や兼業)、倍増してもそもそも安すぎるという国選弁護の問題、コピーなどの必要経費の請求を認めないので必要な弁護活動を切り詰める方向にインセンティブが働くという問題など、様々な問題が山積している。
その先にはさらに、隣接士業との関係や企業内弁護士の待遇活動等、さらに議論すべき問題があり、当分は全体像が見えにくいまま、個々の問題(例えば年収の低下とか)だけがクローズアップされることとなるだろう。
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コメント
ただ、新人弁護士の所得水準の低下を第1に気にしなければならないのは法科大学院の側なのではないかと思っているのですが(だって、法科大学院を卒業して法曹資格を取得するまでの時間と費用に見合う収入の増加が見込めなければ、法科大学院への進学希望者が減少することが予想されるわけですから。)。
なお、フランスの場合、もともと労働者の平均所得が日本のそれよりはかなり低い(年間労働時間が少ないですし、子供の教育費がただ同然である分、ピーク時の所得が少なくて済む構造ですし)ので、日本の弁護士の所得水準がフランスのそれに額面レベルで近づくと、法科大学院もばたばた潰れるのではないかという気がします。
投稿: 小倉秀夫 | 2009/04/20 14:56