decision:発信者情報開示の仮処分
読売online:神奈川県立高11万人の情報流出、発信者の氏名開示命令
東京地決平成21年2月26日とちょっと前の決定だが。
日本IBMが申立人で、開示された情報に基づいてさらなる情報発信禁止の仮処分を申し立てて認められたという。
同社は昨年12月、流出した生徒の名前、住所、授業料の振替に使う口座番号などの個人情報を取り込み、交換ソフト利用者が見られる状態にした人物について、接続業者に対し、氏名などを開示するよう求めた。だが拒否されたため、2月9日、「営業上、知り得た秘密の保護が必要」として、東京地裁に仮処分を申し立てていた。 さらに同社は、開示された人物に対して、情報の再発信の禁止を求める仮処分を申し立て、東京地裁は3月6日に禁止を命じる決定をしたという。 (中略) 情報の流出は、同社が口座振替用システムを作る際、開発にかかわった下請け業者の社員のパソコンが、ファイル交換ソフトを介して情報を流出させるウイルスに感染したために起きた。
現在、日本IBMのサイトには一言も触れられていないが、上記記事にはいくつか疑問というか注目点がある。
まず、仮処分により発信者の氏名住所までも開示が認められたのは、記事でも述べられているように初めてであろう。総務省は消極的な解説を逐条解説で書いていたが、積極説に従ったということか。今回の事案も、積極説が指摘していたように情報流出などの不法行為が拡大中の場合に、それを緊急に止める必要があるという意味で保全の必要性が認められる事例のようである。
第2に、開示を求めたのが個人情報流出の被害者である情報主体でも情報保有者でもなく、むしろ加害者側ともいうべき口座振替用システムの提供事業者であるという点だ。その理由は「営業上、知り得た秘密の保護が必要」ということで、なかなか理解が難しいが、口座振替用システム開発に関連して預かった情報だから営業秘密ということであろうか。
この点は、ちょうど個人情報を流出させてしまったTBCが積極的に発信者情報開示や差止めに動いたのと似ている。
第3に「県教委と接続事業者(プロバイダー)に対して仮処分を申し立てた日本IBM」という表現だが、ひょっとしたらこれは「接続事業者(プロバイダー)に対して県教委と共同で仮処分を申し立てた日本IBM」という意味か? 県教委を仮処分相手方にするのはどう考えてもおかしい。
ともあれ、ネット上の不法行為に対しては、プロバイダの責任を追及するのではなく、不法行為者自身を追及するというのが本来の筋であり、その方向を拡大する一例として注目である。
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