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2009/02/01

court:認知調停の扱いばらつき

毎日jp:無戸籍の子:認知調停、家裁で判断に差…同じ内容なのに

かなり長文のこの記事によれば、ある一人の無戸籍子(法定代理人母親)が現夫を相手方にして、認知の調停を東京家裁八王子支部に申し立てたところ、次のような経過を辿ったという。

母親らによると、9月の1回目の調停でDNA鑑定業者への嘱託書が作られ、費用や日時が決まった。しかし、10月の2回目の調停直前に、裁判官から突然取り下げを求められた。「最終的には私の裁量」と言われ、代わりの手続きを示されることもなかったという。

そして、その後に転居先に近い横浜家裁相模原支部で同様の調停を申し立てた。

すると1回の調停で、前夫との結婚破綻後の妊娠だと判断され、12月にDNA鑑定なしで「現夫の子」と認められた。

さてこの経過に記事では、次のように解説で主張している。

判断に著しいばらつきがあれば、公平な手続きとは言えなくなる。最高裁や家裁は全国の認知の事例を把握・共有し、適用基準や運用上の統一を図る必要がある。併せて民法772条の「300日規定」の抜本的な改正についても真剣に検討すべきだ。

これをどのように理解すべきか?
 上記紹介事例では、八王子支部での扱いが最終的にどうなったのか、必ずしも明らかでない。裁判官の「説得」に応じて取り下げてしまったのであれば、それはそれで手続的には仕方のないことになるが、もし調停申し立てを却下したのだとすると、その当否をめぐって抗告して、ばらばらな取り扱いが統一される方向に向かう。
 多数の独立性をもった裁判所がばらばらの法的判断をすることの是正手段は、このように上訴により事後的に統一することを本来予定している。これは司法サービスを受ける当事者にとって負担の重い話だし、仮に取り下げを迫るという形で独自の判断の押しつけをしてしまえば機能しなくなるので、そのような圧力をはねのける力を当事者が持っていることを予定している。
 しかし、このような事後的救済手段を通じた統一ではなく、事前に判断の統一を上意下達方式で図ることは、裁判官の独立を定めた憲法との抵触が問題となるし、政治的にもこれまでさんざん問題視されてきたやり方である。
 抽象的には、300日規定の下で前夫の子と推定される場合に現夫との親子関係を創設(確認)する調停の適法性も、法解釈に関わり、従って裁判官が独立して良心に従って判断すべきことになる。
 もっとも、今回問題となっている認知調停は、争いのある当事者間で権利義務の決着を付ける事件(争訟事件)ではなく、争いのない当事者間で、必要な法的効果を作り出す事件であり、裁判所が司法作用として行う裁判というよりは、行政庁が行う政策目的に適った手段として行う行政処分に近い性質のものである。
 このように行政作用の性質を持つ事件だとすると、その判断内容も上記の解説にあるように、判断の統一性のために解釈基準を最高裁が提示して、これに従った判断をすべきだということも許されよう。

 なお、判断基準を統一する要請というのは司法作用の典型である裁判にもあり得るし、解釈の幅として許される場合と誤りとされる場合とが存在する。他方、行政作用とされる非訟事件でも、裁判官の独立性が否定されるわけではない。そういうわけで、非訟だから事前の統一が可能、訴訟だから不可能と単純二分論にすることはできない。だが、今回の調停認知による無戸籍子の救済は、政治的な救済を司法が肩代わりして実行しているという面がある。そのような役割を司法が引き受けるべきでないというのであればともかく、そうした役割を引き受けた以上は、統一的判断をすることこそ、引き受けた仕事の責任を果たしたということになるのではないか。

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コメント

最高裁のサイトには、
「婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもであっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母との性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになるので,そのような場合には,前の夫を相手として親子関係不存在確認の調停を申し立てる方法や,子から実父を相手とする認知請求の調停を申し立てる方法もあります。」
とあり、これは、いわゆる外観説に立った説明であると思われます。
東京家裁八王子支部の家事審判官も、この外観説を前提に、「前夫との結婚破綻後の妊娠」というだけでは、「妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である」とはいえず、なお嫡出推定が及ぶので、認知請求は不可と判断したのでしょうね。
外観説の問題点については、武田昌則「嫡出推定制度に関する問題の立法的解決の必要性について」(琉球法学第79号)という興味深い論文があります。
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/123456789/5870/1/No79p49-59.pdf

投稿: curiousjudge | 2009/02/01 14:13

curious Judgeさん、
貴重な情報を有り難うございます。

一読し、勉強いたしました。

投稿: 町村 | 2009/02/01 21:58

個人的な印象ですが、強制認知にせよ、親子関係不存在確認にせよ、(いずれについても審判も判決もあり得るのですが、)裁判官によって結構判断に幅があるように思います。その是非はともかく。

投稿: えだ | 2009/02/02 20:55

このケース、婚姻中に妊娠しているので、300日規定の推定(民772条2項「婚姻中に懐胎したことの推定」)ではなく、民772条1項の推定(夫の子であることの推定)を受けるんですよね。そして、民772条2項の推定を覆す方式は特に定められていないのに対し、民772条1項の「夫の子であること」の推定を覆す方式は民774条の嫡出否認の訴えによることになっている。それを認知の訴え(調停)でやるというのは、どうなんでしょう。第一認知できるのは「嫡出でない子」(民779条)に限られていますから、そもそも却下すべきものではないでしょうか。
前夫に何も知らせずに、身分関係を変えてしまうというのは、どうかと思います。知らせたくない理由を「前夫の暴力」などと言いますが、本当は慰謝料の問題ではないかと思ってしまいます。

投稿: 元銀 | 2009/02/04 01:39

元銀さん、

300日規定と772条1項の関係について混乱があるようですが、条文をもう一度見てみましょう。

第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

つまり、
1項「婚姻中に懐胎」−推定→夫の子
2項「婚姻解消後300日以内に出産」−推定→「婚姻中に懐胎」(以下1項の推定が続く)
このような構造になっており、1項も2項もそもそも婚姻中に妊娠している場合を前提にしています。
婚姻解消後に妊娠しても、解消後に300日以内に出産すれば、2項の推定を受けますが、それは法の予定するところではなく、その推定は反対証明により覆されるべきものでしょう。

後半の、1項の推定を受ける場合は嫡出否認だけだというのも、2項推定から結局1項の推定に行きますから、2項推定だって同じことです。だからこそ、問題となっているわけで。

で、嫡出否認しか定められていないで、認知できるのはおかしいのではないかという御説に対しては、curiousjudgeさんが紹介してくれた最高裁のサイトの説明(上掲)をご覧下さい。

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_07_18.html

嫡出親子関係を法的婚姻状態に結びつけている法の規定に対し、外観説であってもとにかく事実状態による是正を認めたわけですが、それならば科学的に親子関係の存否が立証できる場合一般に広げないのはなぜか、疑問となります。
特に子の福祉という観点から早期の親子関係確定が必要というのなら、子の福祉に適っていない嫡出親子関係推定を幅広く覆すことでもよいのではないかという考え方が出てきそうですが。

投稿: 町村 | 2009/02/04 09:59

意味が通じなかったようですね。おっしゃるように離婚後300日以内に生まれた子は2段階の推定を経て夫の子と推定されるのですから、嫡出を否定するには「婚姻中に懐胎したこと」か「夫の子であること」のどちらかを否定すれば良いことになります。そして「婚姻中に懐胎したこと」を否定する方式は民法に特に定められていませんから、任意の方式で良く、「市役所の戸籍係に妊娠時期の証明書を提出する」方法でも良いことになります。一方「夫の子であること」の否定には民法774条775条により「訴え」という方式で否定することになります。問題は夫しかその訴えの原告適格がないことです。

そこで解決方法の1つとして外観説の登場で、「夫の子でないことが明白なら嫡出推定を受けない」ということになるのですが、行政処分の取消訴訟と無効の関係に似ているような気がします。外観説の問題点は、「夫の子でないことが明白」なら、なんら訴訟手続きも経ずに、誰でも親子関係を否定できると言う点です。婚姻中の夫婦の子に対し、第三者が「夫の子でないことが明白」として認知届を出した場合、どうなるでしょうか。歯止めとして「権利の乱用」の法理が出てくるようですが、うまく線引きできるとも思えません。行政訴訟とのアナロジーでこれから発展していくのでしょうけど。

私は外観説に反対で、原告適格を広げる(被告となることが予定されている母と子にも原告適格を与える)とか、民773条の類推適用(女性が婚姻継続のまま別の男性と内縁関係に入ったことを民773条の「再婚」とみなし、父を定める訴訟を容認する)とか、民772条の嫡出推定で婚姻の実質的破綻を婚姻の解消とみなすとかが現実的な解決方法だと思いますがね。

それでこのケースに戻ってみると、婚姻中に妊娠している訳ですよね。それで外観説で「前夫の子でないことが明白」として、対世的に嫡出推定を否定し、男性との認知調停を容認している訳ですが、ちょっと守備範囲広すぎじゃないですか。これでは婚姻中の夫婦の子に対して別の男(実父)が「夫の子でないことが明白」として認知をするのを防げなくなりませんか?

投稿: 元銀 | 2009/02/04 21:17

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