BarExam:6月24日の規制改革会議議事録
一部で評判のすこぶる悪い規制改革会議だが、マイミクさんのご紹介で先月24日の法務・資格TF議事録(PDF)が出ているのを知った。
曰く、
○福井主査 仮に3,000人の目標年次においてふさわしい能力の者が、今年は特別できが悪くて300人しかいなかったというときに、10分の1の300人を合格者にするということは少し考えにくいのではないですか。
○佐々木参事官 我々としては、300人であれば300人でしょうし、6,000人ならば6,000人なのではないか,と申し上げることになります。
○福井主査 一応、政府の方針は司法試験委員会としては勘案されるわけでしょう。
○佐々木参事官 勘案はしますけれども、質を低下させるということはできない,質を維持し確保しながらの増員というのが閣議決定の内容と考えているわけです。
この問題については、このブログでも再三取り上げてきた。
2005.3:news新司法試験の合格者数
ここでは「司法試験委員会は「試験結果で当然変動する」としているので、優秀で合格水準に達しているという受験生が多くなれば、上限を超えることもあり得るのに対して、そのようなレベルの受験生が乏しければ、下限にも行かないという事態だって否定されていない」と指摘していたが、今回は福井主査のしつこい追及に参事官もはっきり答えたのが注目である。
昨年の報道(LS:司法試験合格者数の推移)では、2008年の合格者目安を2100—2500人としていた。これもまた上限・下限を意味するものではなく、上限の目安、下限の目安にすぎず、極端な話200人しか合格しないかもしれないし4000人合格するかもしれず、それは答案の質に依存しているというわけである。
それでこそ、資格試験である。
しかし現実にはそうなっていないこともまた認めざるを得ない。
合格者数が目安の中で増加してきていると言うことは、合格レベルに達する答案が経年的に増えていることを意味するのではなく、数の目安に併せて合格レベルの方を動かしているからである。福井主査もそのような趣旨の指摘をしたところ、佐々木参事官は次のように答えている。
「もともと、この合格者数の概数の目安は,新司法試験が始まってから設けられたものですが,この目安の幅の中に新司法試験の合格者数は収まっています。それはたまたま、そういうような資質の方が目安の数程度おられたということではないでしょうか。」
これに対して福井主査から「それはかなり苦しい説明ではないですか。やはり、建前としてはそうおっしゃらざるを得ないというお立場はわかりますが、政府として掲げた目標に合わせて、ひょっとしたらペーパーテストの出来、不出来で言いますと、うんと少なかったときよりは、多少は見劣りする答案も多数混入しているにしても、一定の割り切りの下に必要な能力自体の下限が下がった、という一種の政策判断をしながら合格者を出されているのではないですか。」と返されている。
かつて、フランスの法曹実態調査に行ったときにフランスの法学教授から言われたことが忘れられない。
「弁護士試験は能力を見る資格試験であって競争試験ではないのだから、合格者数を誰かがコントロールすることなんてできっこない。」
佐々木参事官の上記の答は、これと似ているようで、前提となる現実がまるで違うものだから、苦しいのは当たり前であろう。
別の箇所で、認証機関から不適合を食らった法科大学院に関連して、福井主査は司法修習でのパフォーマンスで低い評価が下された修習生が不適合法科大学院出身者に多いのかどうかを問題としている。
○福井主査 ・・・研修所でのパフォーマンスで本当にこの学生は厳格な修了判定を経ているのだろうかという懸念のある学生といいますか、研修生がいるわけですね。そうすると、そういう不安のある修了認定を濫発しているかもしれない法科大学院が、不適合とされた5校に多いというのであれば、研修所の評価と認証評価機関の評価は一致している、ないし大体齟齬がないことになるはずですね。
もし、これが一致していないとすると、恐らく、ここから先は研修時の評価が正しいのか、認証期間(ママ)の評価が正しいのか、2つのうち1つだと思うんですけれども、直感的には研修所でなさっておられるような実務家として最低限必要だという知見に関する教育の歴史と伝統のある評価はそれなりに重みのあるものですから、それと齟齬のある認証評価機関の基準なり、その運用があるということは、むしろ基準の設定者や運用者の方に問題があるかもしれない、という仮説を支持することになる可能性が大きいと思います。そこは、法務省、最高裁で協力して分析いただければ判明することですので、至急、現時点でわかる情報の精査をしていただけませんでしょうか。
これに対して佐々木参事官はプライバシー侵害となるとか、司法試験合格率の方で法科大学院の質が分かるとか、言を左右にして頑強に抵抗し、最後は要望を持ち帰ると引き取っている。
合格者数の問題は、とかく利害関係に絡んだ議論を引き起こしがちであるが、法曹としての基礎能力が最低限備わっていると判断できるレベルの知識・考え方・スキルを問うのが司法試験の目的であり、それをクリアするような勉強をできるように環境を整えるのが法科大学院の役割である。
そしてそのような環境を整えているかどうか、様々なチャンネルから検証をすることは当然のことであり、法科大学院としては厄介でも、仕方のないことではないか。
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