consumer:学童保育と国セン
inokenblog経由で知ったニュースでは、いわゆる学童保育(法的には放課後児童何々施設という名称)について国民生活センターが調査を行い、種々の不備が指摘されたとのこと。その報告書概要がウェブ上にある。
もちろん、学童保育所とその利用者である児童と保護者との関係は、事業者と消費者との消費者契約関係にあるので、その角度から調査し、消費者法的に評価することは正しい。
しかし、なんとなく違和感を禁じ得ないのは、学童保育の元々の出自が「共同保育」にあったからだ。共働き世帯や片親世帯など、子供が学齢期前は「保育が欠ける」故に保育行政の対象となってきたのに、小学生に入ったとたん、その放課後が無防備になるという不合理を埋めたのが、親同士の共同学童保育であった。
私自身の個人的な経験に照らしても、自分の子供が学童保育適齢期だった頃は、文字通りの共同保育で、親がグループになって指導員さんをお願いして放課後の安全な遊び場を作ったという、そういう存在であった。
それではあまりに手薄で、親の負担が重すぎる一方、指導員さんの待遇もあまりに不十分なままであったことから、なんとか行政のバックアップをお願いしたいということで、ようやくできたのが放課後児童健全育成という法的枠組みであった。
それと軌を一にして進行していたのが、保育行政の民営化ともいうべき動きで、従来保育所は福祉行政として行われていたところ、親との契約により利用してもらう体制への転換があった。それまでは保育に欠ける幼児を、福祉の施策として入所措置していたので、基準は自由にならないし、金を払うから預かってほしいといってもダメだったが、その代わり予算は自治体が全面バックアップしていた(無認可保育所はとりあえず除く)。それが自由化により設置主体も拡大し、入所措置ではなく契約による入所ということになると、自由度は増す代わりに必ずしも行政のコントロールは届かず、施設や人員の基準も、ある意味で民間なみとなった。
要するにサービス業と消費者の関係に近づいたわけである。
それでももともと福祉行政のもとにあった施設が大部分の保育所は、営利に走る新規参入業者と同じようには動かず、質の高さを追求する気概があるし、その基盤もある。
ところが学童保育は、もともとが親の共同保育であり、法制化前から行政の補助は多少あったが、その水準はお寒いものであった。法制化後の財政事情はよく知らないのだが、一時的に好転はしても財政事情を考えるとそう飛躍的なバックアップがあったとは考えにくい。要するにまだ親同士が共同で施設を借りて指導員さんを雇って、という体制が根本的に変わったとは考えにくいのだ。
いわば、C2Cなのである。
そこに、消費者契約法を一足飛びに適用したらどうなるか?
消費者契約法はB2Cの関係で、資力も情報も違う格差を前提として、consumerの地位を強化するための是正法である。共同保育のつもりでやっている運営者には、ビジネス扱いされることに対する違和感は非常に強いであろう。
上記の報道でもあるが、報告書でやり玉に挙げられているポイントの「契約書」交付と納入金不返還特約も、意識になかったり、財政基盤が利用者10人前後の小規模な学童保育で、一人が欠ければ運営の手数も打撃を受ける。その上納付金を返さなければならないとなれば、それだけで財政が崩壊しかねないのである。
そのような学童保育が存在していること自体が問題だということなのかもしれないが、そうかといって規模を大きくするために集約するなら、子供が通学路から何キロも離れたところに行かなければならない。小規模多数は安全な環境の宿命なのである。
また上記報告書でもふれられているが、公立や公設の学童保育では、保育時間が硬直的になったりする弊害もあり、それでは何のための学童かという疑問も起こるのだ。
そういうわけで、上記報告書の要求は消費者行政的には当然のことばかりなのだが、それを学童保育にそのまま要求するのは無理難題、杓子定規と映るだろうなと思うのだ。
解はどこにあるか?
小規模な共同保育は契約構成によらず、合同行為として社団構成にできないだろうかと考えるのだが、それは脱法行為に過ぎないような気もするし、結論は出ていない。
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