article:武本夕香子「法曹人口問題についての一考察」
弁護士のため息ブログにて紹介され、また同サイトにPDF全文が転載されている武本夕香子弁護士の論考(2008.1.12)である。
内容は、弁護士人口が既に多すぎて供給過剰となりつつあり、質を保つために必要なオンザジョブトレーニング(つまりはイソ弁制度)を可能にする1000人程度の合格枠とすべきだというものである。
このようにまとめてしまうと、良くある話なのだが、弁護士のニーズが既に平成12年当時の司法改革審議会によるアンケート調査によっても満たされていたことや、企業内弁護士の採用も見込めないことなどが日弁連の調査をもとに明らかにされている。
ここで用いられているアンケート調査というのは、菅原郁夫・現名古屋大学教授が中心となって行った「民事訴訟利用者調査」であろう。この中で、弁護士へのアクセスを分析した結果はこのファイルの56頁以下にある。
ちなみにこの調査の二次分析が書籍としてまとめられている。
もう一つついでに、同様の調査は2006年版もある。
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コメント
新人教育の問題と,それ以外の問題は分けて考えるべきでしょう。
投稿: kisslegg | 2008/02/19 09:30
新人教育は、実務教育の不可欠の要素ですので、分けて考えるのは難しいです。
ていうか、Kissleggさんのいわんとするところが分からないまま反応してしまいましたが、法曹養成制度論の中で、新人教育(オンザジョブトレーニング)は不可欠の要素なので、それが成り立たなくなるのであれば、他に代わる教育機会が必要です。武本弁護士は、イソ弁制度以外にオンザジョブトレーニングをまともになし得る制度はないと断言していますから、その点で見解が違えば議論にはならなくなります。
この部分は、70校も玉石混淆で教員人材確保も苦労していて、しかも出口に新司法試験がある現状の法科大学院でなしうることと、実務教育を担う機関として構想されたロースクールとの乖離があって、議論を難しくしている点でもあります。
投稿: 町村 | 2008/02/19 09:33
私の短文の趣旨は以下の通りです。
イソ弁制度以外にオンザジョブトレーニングをまともになし得る制度はないかは私は分かりませんし,それに反論も出来ません(するつもりがないという意味では全くありません。喧嘩を売っているのではないですから。)。ただ,かりに何かの事情で法曹の人数を増やさなければならないとしたら(それは法曹だけでは決められない),新人教育ができないということは,法曹増員反対の理由にならない,というものです。
如何でしょうか。
投稿: kisslegg | 2008/02/19 11:02
なるほど、意味はつかめました。
しかし、法曹増員の必要性と可能性とはやはり切り離せないように思います。
別の例でいうと、道路を造る必要があることは否定できなくても金がなければ作れない、あるいは新設のスピードを落とさざるを得ないというようなことかな。
あるいは、震災の後に仮設住宅を急いで造らなければならないけど、材料や大工さんが充分いないから、ペースはニーズに見合うほど急いでできないということ。
投稿: 町村 | 2008/02/19 11:17
新人教育の問題が,増員の大きな制約事情になることは認めます。(現にかなりやばそうです。自分の問題でもあるので非常に切実です。)ただ,それだけでは部外者への説得力が弱いように思います。なぜ欧米や韓国で出来て日本でできないのかと言われたら,あとは延々と水掛け論になってしまうのではないでしょうか。延々と水掛け論になってしまう土俵に「追い込んだ(追い込まれた)」ら,どちらに有利かは明白だと思います。
投稿: kisslegg | 2008/02/19 12:47
企業や自治体がインハウスの必要性をあまり感じていないというのが誤算の一つだと思います。よくアメリカには100万人以上弁護士がいると言いますが、そのうち30万人以上が会社員や公務員といったインハウスだといわれています。アメリカでは法学部がないため法的知識や素養を持つ人材は法科大学院出身の弁護士を採用するしかありません。だから訴訟などを扱う法律事務所以外に一般の企業にもインハウスの需要が十分あります。また公務員についても同様です。
これに対して日本の場合、大学法学部がありなにも弁護士資格を持っていない人でも法学部で一通りの基礎は学べます。また、公務員の場合も採用試験に法律科目を課すことによって法的素養のある人を採用できます。国家公務員上級職は勿論のこと、北海道庁や札幌市役所の採用試験だって憲法や民法や行政法がありますから。
あと、日本は色々な隣接資格もありますし、試験好きのお国柄か法律書や受験参考書、そして大学のような公的教育機関以外に予備校や専門学校が異常に充実しています。公務員試験対策や資格試験対策のためとはいえ日本ほど法律書(学者から見れば薄っぺらい内容かもしれないが基本的な事が要領よくまとまっている基礎的な本)が売れる国も珍しいと思います。芦部先生の憲法の教科書は今でもかなり売れていますし、(本当かどうか知りませんが)司法試験考査委員を務めていた某先生なんて民法の教科書の印税で家を建てたなんて噂が立つくらいです。アメリカでは一般人は法律書なんて読みませんし一般の本屋にも売っていません。要は日本ではその気になればいくらでも一般人・普通の会社員・公務員が法律を学ぶ機会はあるわけです。
結局、日常の法務は法学部出身者を新卒で採用しあとは自前で育てていけばいいのであって弁護士資格も持つ人は必要ない、複雑な法的紛争が起きた時だけアウトサイダーの弁護士に業務委託で依頼すればいいし、その方がコストパフォーマンスもいいということではないでしょうか。調べたわけではありませんが、北海道庁や札幌市役所にインハウスなんていませんよね?(愛知県知事や札幌市長、そして毎度お騒がせの某大阪府知事は弁護士出身ですけどあれはインハウスとはちょっと違うし…)
投稿: ぎゃーす | 2008/02/20 01:27
インハウスローヤーについて、目算がはずれたというのは全くその通りですね。
2004年、つまりロースクール開設当時に将来大きくふくらむだろうとの予測は、弁護士法改正とも相まって大きくふくらんでいたものです。
現に、コンプライアンスを蔑ろにしたため潰れたり、経営が傾いたりしている企業は大小様々ありますから、インハウスでの法的チェックを有資格者にさせること、それもインハウスでありながら法曹倫理の縛りが聞いている存在にさせることの重要性は、それが主テーマであればほとんど争いのないところです。この点が、法曹資格のない法務部員と法曹資格+弁護士資格のあるインハウスローヤーとの決定的な違いかもしれません。
現実に結びつかないというのは、やはりコンプライアンスが日本企業にまだ十分根付いていないという証明だと考えられますし、まだまだ談合がはびこっているように、日本企業の本音は法令順守などばれなければ糞食らえなのかもしれません。
投稿: 町村 | 2008/02/20 17:26