book:著作権法の憂鬱
中山信弘『著作権法』(有斐閣)は、上記表題を冒頭の小見出しに持ってきている。
何が憂鬱なのか、詳しくは本書を読んでいただきたいが、デジタル技術によりパラダイム転換が起こった著作権法の世界は、現在「混沌」と言うべき状況にあり、それが憂鬱の時代に突入しているということである。
著作権法の体系書であるので、天を翔るようなことが展開されているわけではないが、例えば議論のある要約引用が認められるかどうかについては、「認められて然るべきであろう」とされている(P264)し、それが同一性保持権侵害になるかといえば、「要約引用も原則として同一性保持権侵害にならないと解すべきであろう」とされているなど、踏み込んだ解釈論を展開されている。
翻案文化とも言うべき現象についても、前著から引き続いての主張ではあるが、「大衆が改変行為を通して自己実現を図るということは今後急激に増大するであろう」とし、同一性保持権の限定を暗示されている(P390)。
フェアユースについても、ハッキリとは明言されていないが、小さな一般条項から始めるやり方や、各種の例外規定の解釈上でフェアの実現を図るといった方向性が示されており、それでは限界があるので、技術革新について行く早急な立法が必要とされている(P310-311)。
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コメント
中山信弘「デジタル時代の著作権――『著作権法』を刊行して」(書斎の窓570号(2007年12月号))もなかなか興味深い内容でした。
「デジタル技術の発展により、著作権法は…混迷の度を深めている」「著作権制度が生まれたころの予定調和の世界が音を立てて崩れつつある」とのことです。
だいぶ前の記事へのコメントですみません。
投稿: hrkc | 2008/01/17 17:24
書斎の窓、積んでありました。
ご指摘有り難うございます。
投稿: 町村 | 2008/01/18 12:58