DV:訴訟当事者の情報を相手方に秘匿すべき場合
Inokenblogによれば、DVの保護命令に対して抗告するため裁判所で記録を謄写したところ、その中に相手方の住所、携帯電話番号などが記載されたままであった。
その結果は、元夫が女性の子どもの周辺に姿を見せたり、携帯電話にメッセージが残されたりしたほか「居所も連絡先も知られたからまた逃げるのか」と書かれた手紙も届いたという。
元記事は中国新聞ニュース。問題の裁判所は東京地裁。
Inokenblogで指摘されているように、訴訟当事者が抗告などの訴訟行為をする場合に、相手方の住所氏名
を抗告状に記載するので、それが分からないと困る。
しかし保護命令ということの性質上、つきまとって暴力(物理的にも精神的にも)に及ぶことが予想されるのであるから、それを防がなければならないというのが法の趣旨である。
ということで例えば離婚調停などでも、DV配偶者とは同席させなかったり、待合室を分けたり、退出時間をずらして一緒にならないようにしたりといった工夫がなされているところである。
東京地裁の書記官は、うっかりミスとはいえ、こうした努力により積み上げられた当事者の裁判所に対する信頼を台無しにしてしまったという責任を感じるべきだし、東京地裁所長代行の「訴訟が提起されているので、コメントは差し控えたい」とか言うコメントも、まるで無責任の極みである。
この問題は、以前から興味があった「民事訴訟におけるプライバシー」の問題にも関わるし、話は大きく飛ぶが、発信者情報開示請求訴訟の中で当の発信者の手続関与の途を開いていくために必要な、「匿名による参加」の問題にも関わる。
仮に、抗告状に「当事者の氏名及び住所」を記載しなければならない(配偶者暴力に関する保護命令手続規則7条)としても、当該情報を裁判所が把握している以上、抗告状には記載せずとも有効な抗告状と扱って不都合はないはずである。そして当該情報を抗告人に知らせることが具体的に弊害を生じさせる性質のものであれば、そのような取り扱いをすることは裁判所の義務となるべきなのである。
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