videoによる取り調べ過程にリップサービス
取り調べ過程の一部をビデオで撮って、自白の任意性や信用性の立証の武器にしようという検察の動きについては、可視化への第一歩としては評価する声も(弁護士からさえも)ある(参照NEWS:取り調べの瑕疵化?)が、裁判所からさえも不十分で決定的な証拠とはいえないとの判断が示された。
毎日.jp:取調べDVD:「証拠価値を過大視できない」東京地裁
このブログでtrial:取り調べのご都合可視化が証拠になるとして取り上げた事件の判決である。
ただし、結論的には自白の任意性は認められたのであろうし、警部補の証言の信用性を支えるという形で証拠価値も認めたのであろうから、まるでリップサービスなのだが、それでも検察側には「この程度の判断にとどまるとは思わなかった。今は試行錯誤の時期だ」と、戸惑いも広がっているそうである。
この事件、被告人が例によって捜査段階で自白し、公判で否認に転じるというおきまりのパターンである。
判決はDVDについて「自白から1カ月後に10分余の間、自白した理由、心境を簡潔に述べたものを撮影したに過ぎず、自白に転じるまでの経緯を撮影したものではない」と指摘。「調書の任意性についての有用な証拠として過大視することはできず(取り調べた)警部補の証言の信用性を支える資料にとどまる」としたのである。
これに対して毎日新聞は「DVDを使った自白の任意性の立証に高いハードルを課したといえる」などと書いているが、どこが高いハードルなのか?
要するに、強いられた自白ではないことを立証するには、取り調べの全過程をビデオで録画し、少なくとも弁護側にはそれを開示して検証させることが必要だし、それで足りるわけである。
まさか今時VHSで録画するからテープがかさんで無駄などというつまらぬ言い訳はするまいと思うが、他にハードルらしきものは見あたらない。
強いていうなら、こういう可視化をされると、被疑者を長期間壁に向かって立たせたり、自叙伝を踏みつけて威嚇したり、踏み字させたり、傘でこづいたりといったことができなくなるという程度のハードルは発生するが、今の取り調べではそんなことはやっていないんじゃなかったっけ?
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コメント
これ、逆の立場にならないものですかね。
悪魔の証明しているようなものですし、有効にするには弁護側が撮影して「この部分に問題がある」と使用するところじゃないかと。
投稿: サスケット | 2007/10/14 14:21
ちょっと私が誤解しているかもしれませんが、弁護側が撮影できるのであれば問題はなさそうです。しかし、立ち会いすら認めない警察・検察の取り調べに、撮影ができるのは取り調べだけですから。
投稿: 町村 | 2007/10/14 17:29
逆の立場でうがった見方をすれば、ふてぶてしく否認して被害者の悪口雑言を捲し立てている捜査段階の映像が公判で出されて、被告人質問で反省の言葉を述べているのは刑事責任を軽くするための方便である……と使われないかと危惧します。
投稿: ハスカップ | 2007/10/14 23:52
うーん、私は、そういう使い方もアリだと思いますが。別に表面的な反省の態度でやり過ごそうとする連中を丁重に扱わなければならない理由はないと思います。
投稿: 町村 | 2007/10/15 00:09