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2007/09/19

jugement:通信社配信記事の名誉毀損

東京地判平成19年9月18日(読売新聞記事

共同通信社の配信した医療事故報道で、「原告が基本的なミスを犯して患者死亡という結果を引き起こした事実を報じたもの」が、共同通信社自身のウェブページに掲載されたほか、上毛新聞社、静岡新聞社、秋田魁新報社によって紙面に載った。

読売サイトによれば判決は以下の通り。
まず共同通信社については、当時の警察当局の記者会見や東京女子医大の報告書などの取材結果から、「事故の原因が原告にあると誤信する理由があった」として、賠償責任はない。
その記事配信を受けて掲載した地方紙については、「定評のある通信社からの配信を受けたことだけを理由に、記事が真実と信じる理由があったとはいえない」と指摘。さらに、共同通信の定款施行細則で、配信記事には配信元の表示(クレジット)を付けると規定されているのに、3紙がそのクレジットを付けず自社が執筆した記事のような形で掲載していることを踏まえ、地方紙の賠償責任まで否定できないとした。

この判決は最高裁判決を踏襲したものと解されているが、それでは正当化できない。元の最高裁判決をよく読んでみると、本件とは事案が違うのだ。

ここで引用されている最高裁判決は、最判平成14年1月29日PDF全文
以下のように判示している。
「新聞社が通信社から配信を受けて自己の発行する新聞紙にそのまま掲載した記事が私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とするものである場合には,当該記事が取材のための人的物的体制が整備され,一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもって,当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があったものとはいえない。」

事案は、あのロス疑惑の三浦氏について、大麻を自宅に隠し持っていたとの報道を通信社が配信し、これをスポーツ紙が掲載したというものである。この最高裁判決を読んでみると、微妙な言い回しをしていることに気がつく。

いわく、
(1) 今日までの我が国の現状に照らすと,少なくとも,本件配信記事のように,社会の関心と興味をひく私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とする分野における報道については,通信社からの配信記事を含めて,報道が加熱する余り,取材に慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られる
(2) 取材のための人的物的体制が整備され,一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信記事であっても,我が国においては当該配信記事に摘示された事実の真実性について高い信頼性が確立しているということはできない
(3) 現時点においては,新聞社が通信社から配信を受けて自己の発行する新聞紙に掲載した記事が上記のような報道分野のものであり,これが他人の名誉を毀損する内容を有するものである場合には,当該掲載記事が上記のような通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもってしては,記事を掲載した新聞社が当該配信記事に摘示された事実に確実な資料,根拠があるものと受け止め,同事実を真実と信じたことに無理からぬものがあるとまではいえない
(4) 仮に,その他の報道分野の記事については,いわゆる配信サービスの抗弁,すなわち,報道機関が定評ある通信社から配信された記事を実質的な変更を加えずに掲載した場合に,その掲載記事が他人の名誉を毀損するものであったとしても,配信記事の文面上一見してその内容が真実でないと分かる場合や掲載紙自身が誤報であることを知っている等の事情がある場合を除き,当該他人に対する損害賠償義務を負わないとする法理を採用し得る余地があるとしても,私人の犯罪行為等に関する報道分野における記事については,そのような法理を認め得るための,配信記事の信頼性に関する定評という一つの重要な前提が欠けているといわなければならない。
(5) なお,通信社から配信を受けた記事が私人の犯罪行為等に関する報道分野におけるものである場合にも,その事情のいかんによっては,その配信記事に基づく記事を掲載した新聞社が名誉毀損による損害賠償義務を免れ得る余地があるとしても,被上告補助参加人において本件配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由がなく,かつ,被上告人らの不法行為の否定につながる他の特段の事情も存しない本件においては,被上告人らが本件配信記事に基づいて本件各記事を掲載し上告人の名誉を毀損したことについて,損害賠償義務を免れることはできない。

長々と引用したので、もうここまで読んでくれる方はほとんどいないだろうが、最高裁判決はまず(1)において、ロス疑惑報道の時代の犯罪報道が、通信社配信記事も含め、信頼の置けるものではないという認識を示している。
そのような信頼の置けない報道であれば、それを信じたとしても免責されないのは当然であろう。それが(3)であり、また(4)は犯罪報道以外の分野で配信記事を信頼することが免責要件になるかもしれないけれども、やはりロス疑惑の本件では駄目だといっている。

本件医療事故報道も犯罪報道としてなされているので、最高裁のいう「社会の関心と興味をひく私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とする分野における報道」には当てはまるところだが、ロス疑惑当時の報道と異なり、報道被害に関する認識がかなり行き渡り、また被害救済の仕組みも曲がりなりにもできており、なによりもロス疑惑報道のようなリンチ的集中豪雨的報道は悪いことと言う認識は一般化している現状では、(1)(2)の信頼性が確立しているとはいえないという前提条件は最高裁判決当時と同一とはいえない。
最高裁はわざわざ(3)冒頭で「現時点においては」と注記しているのであり、現在の通信社配信報道の信頼性、あるいは少なくともこの件の信頼性について個別に判断すれば、最高裁の判断枠組みからも別の結論が出てくる可能性がある。

さらに、(5)によれば、最高裁判決は通信社自身も、真実と信じるについて相当の理由があったとはいえない事案であった。これに対して本件では通信社自身の名誉毀損は「真実と信じるについて相当の理由があった」という理由で否定されているのである。

このように見てくると、本件は最高裁判決の射程をはずれたものと位置づけられる。

そこでこの判決に対する評価だが、事実と異なることを報道され名誉が傷つけられた被害者には気の毒だが、通信社配信記事について常に独自取材をして裏をとらないとならないというのでは、地方の住民の知る権利にも支障を来す。少なくとも本件では、通信社が単なる発表ジャーナリズムと堕していたわけではなさそうなので、それを信頼して記事を載せることは、真実と信じるにつき相当の理由があると判断すべきであったと思われる。

ということで判旨反対。


追記:なお、上告審判決が出ている。一応、上記の私見に沿うものであった。
最判平成23年4月28日民衆65巻3号1499頁PDF判決全文

新聞社が,通信社からの配信に基づき,自己の発行する新聞に記事を掲載した場合において,少なくとも,当該通信社と当該新聞社とが,記事の取材,作成,配信及び掲載という一連の過程において,報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは,当該通信社が当該配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるのであれば,当該新聞社が当該配信記事に摘示された事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載したなど特段の事情のない限り,当該新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に摘示された事実を真実と信ずるについても相当の理由があり,以上の理は,新聞社が掲載した記事に,これが通信社からの配信に基づく記事である旨の表示がない場合であっても異なるものではない。

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コメント

「ロス疑惑当時の報道と異なり、報道被害に関する認識がかなり行き渡り、また被害救済の仕組みも曲がりなりにもできており、なによりもロス疑惑報道のようなリンチ的集中豪雨的報道は悪いことと言う認識は一般化している現状」というところに事実誤認がありそうな気がします(cf.朝青龍騒動)

投稿: 小倉秀夫 | 2007/09/19 16:31

三浦さんに関するあることないことの報道量に比べれば、朝青龍など可愛い扱いに思えます。少なくとも庭で大麻を栽培しているとは報じられていませんし。

投稿: 町村 | 2007/09/19 17:23

 これは単に配信記事にクレジット入れてないからアウトという判決ではないでしょうか。入れてればセーフということと思います。

投稿: rijin | 2007/09/19 19:29

いやいや、著作権の問題ではないので、クレジットを入れるかどうかで真実と信じるについて相当の理由があったかどうかの判断が左右されることは、普通はないでしょう。

投稿: 町村 | 2007/09/19 20:04

 もちろん、事案が違いますから、報じられている「ないこと」の内容は異なりますが、それってそんなに重要なことではないように思いますが。

 要は、少なくとも自社のクレジットで報道を行う場合は、通信社からの配信記事は、記事を作成するにあたって参照する情報源の一つという位置づけに過ぎないことになるのであって、それのみに依拠して記事を作成した場合には、真実と信じるべき相当性があったとは言えないという話でしょう。裏付け取材を省略して経費を節約した側が、そのことによるリスクを引き受けるべきという、ある意味当然のことをいっているような気がします。

投稿: 小倉秀夫 | 2007/09/19 22:10

地方新聞は情報がなくても我慢しろってか。東京もんの傲慢さには辟易するな。

投稿: 地方民 | 2007/09/19 23:21

 「裏付け取材をする、裏付け取材を省略して誤報をしたら責任をとる」とそれだけのことをすればよいのであって、報道を我慢する必要はありません。誤報の責任をとらされたら利益が吹っ飛んでしまうほど通信社の配信の誤報率が高いのであれば、なおさら裏付け取材をする義務が生ずるものと思われます。

 

投稿: 小倉秀夫 | 2007/09/20 08:48

まさに単純な話ですね。
その結果は全国単一の新聞社しか毎日の報道はできなくなるわけだ。
海外ニュースを扱おうと思ったら世界中で裏付け取材しないと結果責任が来ますか。

単純すぎて複雑多様な現代社会には通用しないでしょう。

投稿: 地方民 | 2007/09/20 09:58

全国単一の新聞社しか、裏付け取材ができないのですか?

投稿: 小倉秀夫 | 2007/09/20 10:33

全国単一新聞でも,西アジアやアフリカの紛争地域や戦闘地域の裏付け取材は困難なのが実情です。

投稿: 増すゴミ | 2007/09/20 11:38

ていうか、取材を手分けしてやろうっていうことでできたのが通信社なんだよ。

投稿: 横入り | 2007/09/20 12:28

 裏付け取材をすると採算が合わないので裏付け取材をしないということであれば、その結果誤報したことの責任はとって然るべきですね。そこは、紛争に巻き込まれないようにどの程度事前にコストを負担するか、または、紛争に巻き込まれた後に事後的にコストを負担するかという選択になります。
 
 もちろん、メディアとしては、裏付け取材することなく、その結果誤報を垂れ流しにしても一切責任をとる必要はない、名誉毀損の被害者がただ泣き寝入りすればよいということになれば、万々歳だろうとは思うのですが。

投稿: 小倉秀夫 | 2007/09/20 13:39

でました、小倉流イヤミと当てこすりの捨て台詞!

投稿: 大統領 | 2007/09/20 13:42

という当て擦りですね。

投稿: 小倉秀夫 | 2007/09/20 14:22

というか、全国単一新聞や通信社の実情や実態を裏付け調査して意見を述べるのがいいと思います。

投稿: 通行人 | 2007/09/20 15:16

…いや、だから、配信元のクレジットを入れず、配信記事の一部を材料として自社記事を書いたというのであれば、ウラ取りの責任が生じる、逆に言えば、配信元のクレジットを入れておけば、自社でウラ取りする必要はないという判決だと思うんですが…。

 違いますか?

 それに、もう11箇所(…たぶん)も転勤して歩いていて思ったのですが、地方紙の存在価値って、全国ニュースや海外ニュースにはないでしょう。また、全国紙でも読めるようなニュースは、配信元が書いてあっても気にならないんですが…。

 地方紙の人って、そんなこともわからないで商売してるんでしょうかね?

投稿: rijin | 2007/09/20 18:06

 単なるクレジットの付け忘れだったという笑話かも。
 全国ネットのTV報道を見て記事を書いてた人がいたし。そういうおおらかさ?が地方紙にはあります。
 もっとも地方紙経営者にとっては笑えない笑話でしょう。

投稿: ハスカップ | 2007/09/20 20:48

この判決がrijinさんのおっしゃる内容だという可能性はもちろんあります。
そうかもしれません。

でも、クレジットを書けば免責されるというものでもないと思うのですよね。
要は、真実と信じるにつき相当の理由があったと言える程度に、確からしい情報内容およびソースであったかどうかということですから。

投稿: 町村 | 2007/09/20 22:11

ご意見を読ませていただきました。
本件判決に対する裏付けになる法理をご理解されていないようですので、私のブログをお読みください。
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_b9e8.html
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/3_abf9.html

投稿: 紫色の顔の友達を助けたい | 2007/09/28 16:57

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