arret:介護サービスと文書提出義務
介護サービス事業者が介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送する情報を利用者の個人情報を除いて一覧表にまとめた文書が,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例
事案は、介護サービス事業者の取締役が独立して競業行為を行い従業員を引き抜いたので、元の事業者がその元取締役に対して損害賠償を求めたというものであり、提出を求められた文書はオンラインで介護給付費を請求する際に自動的に生成される、顧客103名に関する「サービス種類別利用チェックリスト」である。
原々審は96名分の上記文書の提出を命じたが、原審は「本件リストは,相手方が指定居宅サービスの利用者について介護給付費等の請求内容を確認,記録するために作成しているものであり,その作成目的,記載内容,作成経緯等に照らし,専ら相手方内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,外部に開示されると個人のプライバシーが侵害され,相手方と利用者及びその家族との信頼関係が損なわれ,相手方の事業の遂行に重大な支障を来すおそれがある」などとして提出命令を取り消した。
最高裁は、本件文書が実質的に審査支払機関に伝送した情報の控えとしての性質を有するにほかならないとし、従ってその内容は第三者へ開示することを予定していた文書であるから、自己専用文書には当たらないと判断した。
また職業の秘密に関する提出拒絶の主張に対しては、「本件対象文書は本案訴訟において取調べの必要性の高い証拠であると解される一方,本件対象文書に係る上記96名の顧客はいずれも抗告人において介護サービスの利用者として現に認識されている者であり,本件対象文書を提出させた場合に相手方の業務に与える影響はさほど大きなものとはいえないと解される」と判示した。
つまり、秘密としての要保護性と本案訴訟における取り調べの必要性との利益考量を前面に出して結論を導いている。
この決定に基づけば、事業者が行政庁に対して提出する文書の写しは、一般に、自己専用文書とはならないということになろう。そうなると、残りは職業の秘密に関する文書かどうかが問題となる。
これも、本案訴訟において取り調べの必要性が高いことが認められると、提出拒絶事由として認められるのはかなり厳しい、限られた場合となるのではないか?
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