Koree-net:いわゆる祭りでプロバイダが放置責任
お隣韓国の話。
CNET Japan: ポータルはメディアか?!悪質書き込み放置事件で議論沸騰
記事によると、元恋人の一人Bが別離を苦にして自殺し、その母親が元恋人相手のAを非難する書き込みをAのSNSサイトに行った。これがネットに広まり、NHN、Daum Communication、SK Communications、Yahoo! KOREA などのサイトの掲示板などでAに対する批判的書き込みが急激に増え、Aの名前や連絡先など個人情報までが露出した。
これがメディアに取り上げられて、さらにA非難がエスカレートしたので、Aが上記の4社を訴えたというもの。
裁判所は「ポータルサイトはA氏にとって不利な評価(記事)が公開されればA氏の名誉が毀損されることを分かっていながらも、ネチズンの書き込みによって批判できるようこれを放置した」という理由で、ポータルサイトの責任を厳しく認定し、1600万ウォンの賠償を命じたというわけである。
この事件、韓国およびCNET Japanではポータルがメディアかという問題として議論されているようだが、これは韓国法がメディアに特別の規定をおいているからのようだ。
日本で考えるなら、そもそもポータルという限定は適切ではなく、掲示板サービスおよびニュース二次販売を行っている多くのプロバイダが、恋人に自殺された人に対する非難とプライバシー侵害の書き込みが大量にされている場合、少なくとも自社サービスに関する限りは、削除義務を負うという判断とまとめられる。
問題は、このAが被告プロバイダ各社にどのような要求をしていたか、賠償請求より前に、具体的に消して欲しいメッセージを特定して削除要求したのか、あるいは自分に関するすべての書き込みというような概括的な要求をしたのか、という点が一つ。
もう一つは、Aに対する祭り現象のどこをどうとらえて不法行為と構成し、プロバイダにどのような行為を要求するかということだ。
後者を言い換えると、個別のメッセージ一つ一つの名誉毀損やプライバシー侵害をとりあげて、その違法性を判断して不法行為責任があるとし、その判断をプロバイダにも求めて削除を要求するというのが伝統的な考え方だが、そのやり方は被害者にとっても不十分だし、プロバイダにとっては過大な要求となってしまう。
そうではなくて、集団現象としての祭り全体が、その対象者にとっては大きな苦痛となるのだが、その点を法的にコントロールする方策は、残念ながら見えていない。
例えば、「氏ね」「人間のクズ」「人殺し」といったメッセージであれば、さくっと消せばよいので問題はなさそうだが、「Aさん、あなたはひどい人ですね。 Bさんに悪いとは思いませんか」なんてメッセージを多数人が集中的に繰り返し繰り返し、殺到し、それに「勝手に死んだBがアホ」などという反論が書き込まれ、あたかもAが書いたかのように受け取られて非難がエスカレートするというパターンだと、Aに対する名誉毀損になるのかならないのか、微妙である。おそらく個別のメッセージだけ見ていけば、どれも名誉毀損とはいいがたいということになってしまう。
仮に明らかな名誉毀損など違法性が認められるメッセージがあったとして、それを削除しても、全体としての被害救済にはならないかもしれない。
また実社会にも、わざわざAの身元を調べて電話をかける奴というのが現れるものだから、ネット上の被害だけではすまない。
結局、津市のため池で幼児がおぼれ死んで両親が隣人を訴えたという、世に言う隣人訴訟の時に起こった現象がネットを媒介として頻発し、あのとき法務省人権擁護局が出した見解が、裁判を受ける権利に関する部分を除けば、よく当てはまる状況なのである。
ちなみに隣人訴訟についての法務省見解は、元愛媛大学、現広島修道大学の矢野先生の講義資料(PDF)に簡単にではあるが、取り上げられている。
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コメント
韓国のように国民総背番号制(全住民登録制)と直結した実名強制確認投稿制度でも、このような事態が防げなかったという先例的外国判決となりそうです。
個々人のモラリティーの向上運動も大事だと思う今日このごろです。
投稿: ハスカップ | 2007/05/30 23:25