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2007/04/25

arret:弁護士会懲戒請求をした一般人と代理人弁護士に不法行為責任が認められた事例

最判平成19年4月24日PDF全文

別件訴訟で敗訴し、仮差押えの担保を目的とする損害賠償請求訴訟を提起された建設会社の社長Y1とその代理人Y2が、損害賠償請求訴訟を提起した当事者の代理人弁護士Xに対し、弁護士会懲戒を申立て、それが棄却されると棄却裁決の取消を求める行政訴訟も提起したという事案である。

弁護士会懲戒の理由は、Xが代理人となって提起した損害賠償請求訴訟が宇都宮地裁足利支部に係属すると、被告の代表者Y1(新潟在住)が丸一日掛けて通わなければならず、80歳を越える高齢者で視力も弱いY1に耐え難い負担を負わせることになるので、濫訴だというにある。

第1審は、このような理由にならない理由で懲戒申立てをすることやその後の訴訟提起は不法行為に該当するとして50万円の損害賠償を認容したが、原審は、この懲戒請求等が法律上の裏付けを欠くものだったことは認めつつ、Y1がXに対していだいた不満は法律上の根拠がなくとも全く理由のないものとも言い難いとして違法性を認めず、従ってY2にも損害賠償責任はないとした。

最高裁は、原判決を破棄し、第1審判決を支持して控訴棄却の自判をした。
懲戒請求をする者に対して、「懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように,対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査,検討をすべき義務を負うものというべきである」として調査義務を課した上で、「同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると」判示した。

そして実際にも本件の場合は、Y1自身が足利支部に仮差押え申請をしていたのであって、Xが足利支部に損害賠償請求訴訟を提起することが違法でないことは、法律家でないとしても当然知り得たと評価した。
結局Y1は、法律上の根拠を欠く懲戒申立てであることを普通に知り得たのにあえて請求したのであって、不法行為責任を負うとした。
またその代理人Y2も、上記の経緯を代理人として知りつつ、また法律の専門家として本件懲戒請求が事実上,法律上の根拠に欠けるものであることを認識し得る立場にあったことは明らかで、それにもかかわらず懲戒請求の代理人になったのは不法行為であるとした。

弁護士会懲戒の現場に関わってみると、懲戒申立てのかなりの多くが「事実上および法律上の根拠を欠くもの」であって、むしろ言いがかりに近いものであることは実感させられる。もちろん筋の通った申立てや微妙なケースもないわけではなく、かなり弁護士に落ち度があったり非常識と思われたりするケースもあり、ただ懲戒に値するかどうかというところで絞りが掛けられたりする。
それはともかく、最高裁の一般論を適用してしまうと、かなりの懲戒申立てが不法行為となるのではないかという気がする。

実際、申立てを受けた弁護士の負担を思うと、それは田原裁判官の補足意見でも縷々述べられているが、濫用は厳に戒められるべきことはいうまでもないが、懲戒申立てに当たって「被請求者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について,調査,検討すべき義務を負うこと」が一般人に対しても当然とまでいえるかどうかは、疑問を禁じ得ない。
この事件の解決としてはこれでよかったのかもしれないが、一般論としては、不法行為となる場合が広がりすぎるのを懸念するところである。

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コメント

この事件を離れても,一般的規範として「調査・検討」までは要求していいのではないかと感じます。裁判官の場合も,おかしな人から弾劾裁判を求めるなどという申立がされることがあるそうですが,裁判官本人のところまでややこしい話がいちいちくるということは,あまりないようです。組織が守っていると言えるのではないかと。

しかし弁護士の場合,どんなアホな懲戒申立に対しても自ら相手しなければなりません。酷い場合には弁護士会の選挙で相手方候補の足を引っ張るために懲戒の申立が使われるケースすらありました。こういう「懲戒の申立逃げ」を防ぐには,なんらかの歯止めが必要だと感じます。

とはいえ,まさか担保をたてさせるわけにはいかないでしょうが。

投稿: h | 2007/04/25 00:55

私はむしろ、簡易却下に馴染むような申し立てにはそのような制度的手当がある方が、賠償による抑止を広く認めるよりいいと思います。
今回の最高裁判決が調査義務違反を幅広く認めたと言っているわけではありませんが、そうなる危険は認識しておかないと。

投稿: 町村 | 2007/04/25 07:47

「事前抑制より事後の賠償」という今回の司法改革の理念に沿った判決と思われます(笑)。
簡易却下と簡単に言われましても、申立前にほとんど情報を持たない綱紀委員会が安易にできるものではないです。一見すると主張自体失当の懲戒請求であっても、調査の結果懲戒相当となることは珍しくないですし・・・。

投稿: 通りすがり | 2007/04/26 03:19

安易にできない場合があるのは当たり前です。
でも例えばほとんど同じ申立書を何回も出してくる当事者もいますのでね。

簡易却下を制度的に認めないと、運用ではできないでしょう。

投稿: 町村 | 2007/04/26 12:13

弁護士会の懲戒処分が少ないと
→「国が弁護士を管理するべきだ」

という意見が出てくる。

刑事事件の弁護人を引き受けただけで非難されちゃう
めちゃくちゃな社会

そういう暴論を言い出す評論家もいるはずだ

投稿: 結局 | 2007/09/09 17:42

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