litigation:訴訟と和解の政策形成機能
公害訴訟は、単に被害の賠償による救済を目指すだけでなく、良好な生活環境と企業活動等との調和点を探る機能も有している。
その実例が以下の報道に見られる。
トヨタ、医療費助成協議に応じる意向 都排ガス汚染訴訟
「東京都内のぜんそく患者らが国と都、自動車メーカーなどに損害賠償などを求めた東京大気汚染公害訴訟をめぐり、トヨタ自動車は12日、都が提案している新たな医療費助成制度案の協議に応じる考えを東京高裁に伝えたことを明らかにした。」
「都の案は、原告に限らず、都内に1年以上住む18歳以上の気管支ぜんそく患者が対象で、入院食事費を除く医療費の自己負担分を助成する。現在の概算で年約40億円となる費用は、国と都が3分の1ずつ、首都高速道路公団(現・首都高速道路)とメーカーが6分の1ずつ負担する仕組みだ。」
注目されるのは、医療費助成の対象を原告に限らず「都内に一年以上住む18歳以上の気管支ぜんそく患者」と広くとっているところである。
判決による解決では、訴訟当事者にしか効力が及ばず、また訴訟物の範囲内でしか判断できない。従って法的権利義務があるかないかに終始し、今後の対策とか法的義務の範囲を超える助成制度の構築といったことを「判決」で命じることはできない。
これができるのが「和解」のメリットで、同種の広がりを持った解決は薬害エイズ裁判などでも見られた。
また、「和解」による直接の制度構築だけでなく、この種の訴訟が原動力の一つとなって、公害等の健康被害に抜本的な対策が施されることもある。例えば予防接種副作用の被害について数多くの損害賠償請求訴訟が提起され、その結果を踏まえてできた予防接種健康被害救済制度や、スモン訴訟や薬害エイズ訴訟などの成果も吸収している独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)などが挙げられる。
追記:続報
ディーゼル車の排ガスが原因として、ぜんそく患者らが国や東京都、自動車メーカー7社に損害賠償などを求めた東京大気汚染訴訟の控訴審で、都が和解への解決案として東京高裁に示した医療費助成制度について、トヨタ自動車など7社すべてが協議入りに同意したことが12日、分かった。
企業が資金拠出する異例の助成制度に対しては7社間で温度差があるが、都案を軸に負担額など具体的な条件を詰める協議が本格化する見通し。今後は制度に否定的な国の対応も焦点。
7社はトヨタ自動車、日野自動車、いすゞ自動車、日産自動車、日産ディーゼル工業、マツダ、三菱自動車。
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