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2006/12/26

オリコンvs.烏賀陽弘道

「オリコン」が烏賀陽個人を被告に5000万円の損害賠償訴訟by UGAYA ジャーナル
オリコンが自分たちに都合の悪い記事を書いたジャーナリストを潰すべく高額訴訟を起こすby 津田大介氏
事実誤認に基づく弊社への名誉毀損についてby オリコン
「ライター烏賀陽弘道氏への提訴」についてby オリコン社長
オリコンのプレスリリースに対する疑問と今後の争点by 津田大介氏

以上の問題について思うのだが、名誉毀損だとして訴えを提起された被告が言論弾圧だというのは方向違いの過剰反応という気がする。

武富士の場合は、故意に、正しく言論封殺を意図して、提訴したのだろうが、名誉毀損訴訟はすべからくそのような性質を共通して持っているものだ。つまり、言論による攻撃に対して、言論による反論ではなく法的手段による、司法権力を通じた反撃を加えるものだから。
加えて、名誉毀損訴訟は通常の訴訟よりも被告に負担が重い。社会的評価の低下を原告が主張立証すれば、被告は公共性・公益目的・真実性・相当性を主張立証しなければならないから。 
さらに、損害額を高く設定されれば、それに応じた弁護士費用がかかることも事実だ。もっともこの点は小倉弁護士なら旧基準通りの着手金を要求しないということなのだが、いずれにしても日常的な金銭感覚からすれば高額な着手金が必要であることは間違いない。

しかしながら、言論により他者に批判を加える活動をする以上、これに対する司法を通じた反撃があり得ることは覚悟しておくべきである。
言論は自由だが、言論には責任がつきまとうということ、これは中学の時から習ったはずだ。
そして裁判を通じた救済も、オリコンのような大企業であれ個人のジャーナリストであれ、保障されて当然なのである。

ただし、この事件についておかしなことがないわけではない。
・記事中のコメントについて、コメント主が責任を負うか記事執筆主体が責任を負うのか、これは微妙なところがある。事実としてどこまでコメントが忠実に作られ、コメント主の意図が反映されているかという経過にもよるし、この事件では確かに烏賀陽さんの意図通りのコメントが掲載されたようだが、それでもそのコメントは記事全体の中で効果的に配置されているのだ。問題となる記事の全体のトーンこそが問題とされている事件なのに、個別のコメントだけを取り上げるのは、失当ではないか?
・また上記の社長のコメントも、それならほかにやり方があっただろうと私でも思う。裁判を受ける権利は万人に保障されるべきだが、いたずらに高額の請求を突きつけてブラフをかませる権利があるわけではない。名誉毀損の高額化に着手金がらみの意図をもった代理人の意向かもしれないが、30万円程度の請求に謝罪広告をメインとするというやり方の方が、ずっとスマートで、原告の企業イメージを損ねることも少なかったのではないか?
・それ以前に、言論メディアとしての存在でもあるオリコンが、自己主張の場を裁判に求めなければならなかった理由というのが、やはりよく分からない。上記の通り、法的に非難されるところはないとはいえ、戦略的にはどうなのか? どうもこのあたり、間違った訴訟社会になってきているのではないか、弁護士だって裁判だけではなく交渉による問題解決を求めることも重要な仕事の一つではないかという思いを禁じ得ないのだ。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

 請求額として30万円というのはいかにも安すぎるように思いますが。
 あまり安すぎると、「色々いいたいことはあるが、時間と費用の無駄だから放置しておいた」みたいな開き直りができてしまうので、ある程度痛みを感じる程度には請求額を高めに設定しないと、当該記事が事実無根であったことを示すという目的を十分に果たせないおそれがあるというべきでしょう。

投稿: 小倉秀夫 | 2006/12/26 14:15

>以上の問題について思うのだが、名誉毀損だとして訴えを提起された被告が言論弾圧だというのは方向違いの過剰反応という気がする。

 町村先生がご指摘の武富士事件があるので、過剰反応される方が出てきても止むを得ない感じがします。民事損害賠償請求制度を、高額訴訟で恫喝して発言者に沈黙の泣き寝入りを強いる言論弾圧の世界は避けたいですし。

>ある程度痛みを感じる程度には請求額を高めに設定しないと

 民事損害賠償の制度趣旨は損害の公平な分担であって、私的制裁ではないと思いますが違うのでしょうか(事実上の私的制裁機能や不法行為抑止機能があるとは思いますが)?
 それに原告に高額請求にしてもらわないと、弁護士先生はそれなりの成功報酬を得られないという不満はあるでしょう。小倉先生なら本件で幾らぐらいが相当とお考えですか?

投稿: 萎縮効果 | 2006/12/26 22:49

せっかく町村さんが30万とか具体的な数字言ってくださったんだから小倉さんにも是非ずばり数字をあげていただきたいですね。「安すぎる」だけじゃなくて。
つかこういうのこそ「弁護士100人が勧める請求額」みたいなのできないものですかね。
小倉さん以外にもいろんな弁護士の方の「私ならこのくらい」というのを聞いてみたいですね。

投稿: U-me | 2006/12/26 22:54

しかし、社長さんのコメントには次のように書かれていますが。
>我々の真意はお金ではありません。個人攻撃でもありません。
>上記のとおり、烏賀陽氏に「明らかな事実誤認に基づく誹謗中傷」
>があったことを認めてもらい、その部分についてのみ謝罪をして
>頂きたいだけです。その際には、提訴をすぐに取り下げます。

謝罪広告の請求だけでも足りる位ではないですか。

投稿: 町村 | 2006/12/27 00:23

 「取材には万全を尽くしたと確信しているが、応訴の負担を考えて、敢えて争わないこととした」との意見表明をされた上で欠席判決で謝罪広告をもらっても、当初の意図は果たせない虞があります。だから、謝罪広告1本の請求とか、損害賠償としての請求額を30万程度で抑えるような請求は、実務上はほとんどしていないと思います。

 で、現在の慰謝料相場からいっても、被告が真実性の証明に失敗すれば認容額はもう少し上に行く可能性が高いわけですし、被告側は当該記事の掲載によってそれなりの利益を受けているわけですから、請求額を30万円以下に抑える合理的な理由はないように思います。

 名誉毀損訴訟の場合の請求額は基本的には当事者の意向に従いますが、2〜300万円くらいを請求額として掲げるのがいい線ではないでしょうか(結果的にいくら認容されるかはともかくとして、1000万円くらい請求額として掲げても特に高いとは思いません。)

投稿: 小倉秀夫 | 2006/12/27 01:06

小倉さんの言うのが一般的にその通りであることは認めますが、社長さんのコメントとは齟齬してますね。
それに謝罪広告を命じられれば、その金銭的負担は個人にとってかなり大きいですから、痛みを与える効果もないことはないです。

投稿: 町村 | 2006/12/27 10:23

 相場だとしても一般のサラリーマン(公務員リーマンも)には慰謝料数百万円はおいそれと都合できないので深刻な脅威です。全国紙への謝罪広告だとしても150~600万円は必要です。
 訴訟の威嚇力に怯えるサラリーマンの言論が萎縮することは請け合いでしょう。下手をすれば訴訟を起こされたことを企業外非行として懲戒処分(懲戒解雇・懲戒免職)を受ける危惧すらあります。
 下手をすれば離婚~家庭崩壊の可能性もあります。これこそ言論の萎縮的効果ではないでしょうか?市井の民はフリージャーナリストのように闘う気力も能力も費用負担も欠乏していますから。

投稿: ハスカップ | 2006/12/27 15:32

ちなみに話題の法律事務所オーセンスでは、着手金最低額が42万円(税込み)だそうです。
これが高いとはいいませんが、個人がいきなり負担せよといわれたら大変な額であることは間違いないですね。

投稿: 町村 | 2006/12/27 17:17

 「市井の民はフリージャーナリストのように闘う気力も能力も費用負担も欠乏して」いるから、市井の民に対して訴訟を起こすことは罷り成らん、市井の民に何を言われても泣き寝入りをせよというお話をされたいのですか?>ハスカップさん。

 「裁判制度を利用した紛争の法的な解決」がそんなにお気に召さないのならば、弁護士を増やす意味などないではないかという気がしますが>町村先生

投稿: 小倉秀夫 | 2006/12/27 18:00

>「市井の民はフリージャーナリストのように闘う気力も能力も費用負担も欠乏して」いるから、市井の民に対して訴訟を起こすことは罷り成らん、市井の民に何を言われても泣き寝入りをせよというお話をされたいのですか?>ハスカップさん。

 いいえ違います。普通に呼んでください。Q.E.D.

投稿: ハスカップ | 2006/12/27 20:37

新聞やテレビでの名誉毀損裁判は記者や番組ディレクターでは無く、所属する会社に対して"も"行うのが普通だと思いますが?
この件は、ライターではなく編集部や出版社に対しても起こすべきでは無いですか?
ただ、この件に関しては編集部や出版社がライターを庇わなければ原稿が集まらなくなるだろう気はします

投稿: sakimi | 2006/12/27 20:47

>「裁判制度を利用した紛争の法的な解決」がそんなにお気に召さないのならば、弁護士を増やす意味などないではないかという気がしますが

横レスすいません。さすがに見逃せません。
弁護士は、事案の解決のため「やむをえず」裁判制度を利用するのではないでしょうか?
「裁判制度を利用した紛争の法的な解決」をよしとしない(≒「お気に召さない」)弁護士だって自分を含めて五万といます。

たとえ訴訟の件数が増えないとしても、今後弁護士が増加する意義はいくらでも見つけられるかと。

投稿: 一弁護士 | 2006/12/27 20:49

すいません誤字訂正です(オジギ。

誤:呼んで
正:読んで

追加すると「字義通り普通に読んでください。」という意味です。他意はありません。

投稿: ハスカップ | 2006/12/27 20:52

>「裁判制度を利用した紛争の法的な解決」がそんなにお気に召さないのならば
これは私にいっているわけではないですよね。世間の一般の人は、日本人に限らずアメリカ人も、裁判制度の利用は好きじゃないですから。それでも頼りがいがあってアクセスも容易だとなれば、裁判を利用するようになります。

sakimiさん、
今回のケースは記事を書いた人を訴えたわけではなく、コメントを寄せた人を訴えたわけで、ライターを訴えるよりもっと普通じゃないようです。
ただ、この訴えられた人は、何度もオリコンがデータを操作していると公言していたみたいなので、ねらい打ちにしたのでしょう。

投稿: 町村 | 2006/12/28 00:24

 >「取材には万全を尽くしたと確信しているが、応訴の負担を考えて、敢えて争わないこととした」との意見表明をされた上で欠席判決で謝罪広告をもらっても、当初の意図は果たせない虞があります。

謝罪広告さえださせればそれで終わりです。
 あとからいくら言い訳しても、信じるのは一部の信者だけ、
 こういった連中は何があってっも信じるので無視すれば良い。
 例)植草(痴漢)教授の信者はいまだに政府による陰謀論を唱えている。

投稿: 蜃気楼 | 2006/12/28 01:33

>この訴えられた人は、何度もオリコンがデータを操作していると公言していたみたい

町村さん、すみませんが、これは事実誤認の可能性が高いと思われます。この人は「何度もオリコンがデータを操作していると公言していた」ということはありません。彼の著作、ウェブ記事を調べていただければお分かりになると思います。少なくともこの件に関して彼が公の場で書いたのは2003年のAERAの記事のみです。そして、メディアに載った二度目が今度のコメントです。そのほかにTV、ラジオ等で何を語っていたかは裏が取れません。しかし、そもそもそういったメディアにはほとんど出演したことがないライターですので、「何度も公言」(一体何回どういったメディアで語ったら「何度も公言」となるのかは私にはよく理解できていませんが)とはとても考えられません。

投稿: rflip | 2007/01/07 23:25

rflipさん、こんにちは。
ご指摘ありがとう御座います。
「何度も公言」というのは、どこかのサイトを読んで、そう表現するに至ったのですが、そもそもミスリーディングですね。津田大介さんのブログを読み直しても、ご指摘の通りの経緯のようです。

しかし、それならなおのこと、なぜコメントを寄せた人を被告にするのか、不思議です。

投稿: 町村 | 2007/01/12 21:07

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