arret:職業上の秘密が利益考量にかかるとされた事例
NHK記者がアメリカ連邦地裁で行われているディスカバリーの司法共助として、日本の裁判所で嘱託尋問を受けた。その際、取材源の秘密を理由とする証言拒否が許されるかどうかが問題となり、原原審、原審とも証言拒否を認めた。
許可抗告に対し、最高裁は証言拒絶権を認める原審決定を是認した。
問題は、職業上の秘密が暴かれると職業遂行のために重大な不利益をもたらすかどうかに加えて、審理の必要性や代替証拠の有無などとの利益考量にかかるかどうかであった。
これまでの裁判例では、その点があいまいで、利益考量にはかからないとする松本説や伊藤眞説などがあったが、本判決は次のように判示して、上記利益考量によることを明言した。
やや、傍論的ではあるが、というのも利益考量の結果証言拒絶を認めなかったわけではなく、重大な利益が損なわれる上、ディスカバリーの段階であるから審理の必要も大きくないという趣旨の決定であるが、一応は結論に結びつく理由となっており、先例価値を有するといってよいであろう。
以上の点について、拙稿・判批・月刊法学教室241号(2000年9月)158-159頁
「ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合においても,そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく,そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そして,保護に値する秘密であるかどうかは,秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるというべきである。」
(中略)
「取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。」
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