arret:著作物の無断改変につき、黙示の許諾が認められた事例
職務で講師を務めた人が作成した講演資料について、その後任者が改変して利用した場合につき、黙示の改変許可・複製許可があったとして同一性保持権侵害も複製権侵害も認めなかった事例である。
「著作者が,第三者に対し,必要に応じて,変更,追加,切除等の改変を加えることをも含めて複製を黙示的に許諾しているような場合には,第三者が当該著作物の複製をするに当たって,必要に応じて行う変更,追加,切除等の改変は,著作者の同意に基づく改変として,同一性保持権の侵害にはならないものと解すべきである。」
この著作者は後任者に対して電子データを交付し、その利用についても改変についてもなんらの留保をつけていなかった。ただし、資料の内容自体は著作者自身が過去に発表した著作物を利用するなど、オリジナリティは認められるケースであった。
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コメント
はじめまして。興味深い判決の紹介ありがとうございます。
私も会社で講義資料(社内向けですが)を作っているので、たいへん参考になります。
判決文を読みましたが、具体的な状況(5年間続けて講義するという依頼があり、3年後に異動のため後任者に引き継いだこと)に基づいて複製及び改変について黙示の許諾があったと認めており、また、改変の内容についてもひとつひとつ黙示の許諾の範囲内かどうかを検討していることが分かりました。
ところで、この判決をブログで取り上げられたのは、何か新しい論点を含んでいるということでしょうか?
投稿: ほし | 2006/10/21 23:36
著作権法をきちんとフォローしているわけではないので、そちらの方面の専門家に聞きたいところですが、業務として行った対外的講演の資料が講演者自身の著作物となるのかどうか、同一性保持権者による黙示の改変の許諾ということを正面から認めた判決は珍しいと思いました。
判決自体は常識的な内容だとおもいます。
投稿: 町村 | 2006/10/22 01:19
なるほど、著作者の認定や、同一性保持権者による黙示の改変の許諾を認めた点が珍しいのですね。
前任者が作った資料を再利用する場合には、気を付けたいと思います。(もっとも、会社の業務として作った資料なので、会社の著作物の筈ですけど。)
お返事ありがとうございました。
投稿: ほし | 2006/10/24 18:20
この事例の当事者(控訴人)です。本人訴訟のハードルは高いと痛感しております。自己責任の時代ですから裁判制度そのものも一般に開かれた簡易な仕組みなどに改革して欲しい思います。
本件は、企業側から講師の指示が出る前に事前の打診が非公式に私にあり、著作の構想(企画)ができた段階で講師を非公式に承諾し、その後に正規のルートで業務の指示が来たものです。著作に関する発意・企画とも私が行ったものであり、職務著作の5項目の用件を満たしていないのであるから、当然、私の著作です。
本訴訟に対する原審・控訴審とも裁判所の判断に対する平等性に疑問を持っています。本件の著作権は控訴人(私)に帰することになりましたが、双方とも証拠もない部分で当事者双方が主張している部分について、被控訴人側の主張のみを認めている点があり、黙示的許諾とした点が不服であり、上告受理申立を平成18年10月30日に行いました。
訴訟を通じて感じたことですが、法曹界とは特権階級的意識があるように感じております。誰でも力量があるものは自らが自由に訴訟が簡便にできるような仕組みなるよう願うものです。
投稿: 矢部好雄 | 2006/11/12 19:14
>上告受理申立を平成18年10月30日に行いました。
この続きが知りたいです。本人訴訟って確かにハードル高いですよね、でも知り合いに数千万の高額な本人訴訟を起こして、個人相手と企業相手の両方で勝訴した人がいますし、ニュースでも国や地方公共団体相手に勝訴するケースがあります。
裁判官も人間なので判決が出るまでは勝つか負けるかわかりません。絶対に勝つだろうと思っていたら、敗訴というケースもあります。以前本人訴訟起こされた時は、判決が出るまで不安になりましたね。
職務上作成したのだから著作権は勤務先となり、講演資料であれば公表された著作物。データーを交付、つまり著作物(美術品とかで)を渡すと著作権も相手に渡るから?だから黙示的許諾とされたのかな?
裁判官が著作権法の解釈をできないと摩訶不思議な判決が出ることがありますね~
投稿: あすか | 2013/11/08 00:46