police:ひき逃げ重罰化はひき逃げ抑止に役立つか?
危険運転致死傷の重罰化で、ひき逃げが増えるようになったということから、ひき逃げに対する重罰化を検討しているそうだ。
素朴な感想だが、重罰をおそれて逃げる人に、逃げると重罰が科されると言っても無駄ではなかろうか?
逃げるというのは、罰を受けたくないから逃げるわけで、要するに捕まらないと思ってしまうから逃げる。それなら、ひき逃げに重罰が科されても、もっと逃げることになるだろう。
例えば救護措置を十分尽くせば刑が軽くなると明文化するとか、少なくとも自分で通報すれば自首の規定が適用になることを明確化するとか、逃げるより問題に立ち向かった方が得、と思わせるようなインセンティブを作りだした方が効果があるように思う。
昔、確か教習所で聞いた話だと思うが、踏切でクルマがエンコした場合に、そのまま放置して列車と衝突したら巨額の賠償責任が課せられるが、緊急通報のボタンを押して列車を停めれば、それにより生じる損害について賠償責任は追及されない、だから緊急通報をしなさい、ということであった。
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コメント
想定1>
重罰が怖くて現場から逃げるのをためらう。
想定2>
思わず逃げちゃったけど、重罰が怖くて自首をためらう。
想定3>
そもそも安全運転に努めて酒を飲まないから、何もためらうことがない
想定4>
車も免許もないから関係ない。(。_・☆\ ベキバキ
投稿: ハスカップ | 2006/09/13 17:22
おそらく、「ひき逃げして後から出頭した方が、刑が軽くなる場合(飲酒の事実を立証されず、危険運転致死傷罪の適用を免れる)」を念頭に置いているのでしょう。
まあ、一般的に飲酒運転に対する社会の目が厳しくなったので、重罰化という流れもあるのでしょうが。
投稿: LS生 | 2006/09/13 17:51
目的が「酔っぱらいに運転させない」に絞った方が明快だと思うんですよね。
重罰はその一手段であるわけだけど、沖縄タイムスの社説にこんな一節ありました。
「これぐらいは大丈夫」「家まで近いので」
といった甘い考えが取り返しのつかない事故を生む。
これが実態でしょう。この段階に進む前に止める方向での罰則の新設といった方向が正しいのではないだろうか?
投稿: 酔うぞ | 2006/09/14 10:23
昨今の報道を見ると
>逃げるというのは、罰を受けたくないから逃げるわけで、要するに捕まらないと思ってしまうから逃げる。
のでは無く、LS生さんが書いているように「ひき逃げ」と「飲酒運転」の刑の重さが極端に違うことが原因で「飲酒運転」が重罰という意識があるから逃げて、その後自首するのだと思います。
つまり、自動車が壊れたり、目撃者が沢山いても「飲酒を隠す」時間稼ぎに逃げる、昔なら考えられない行動をする人が多くなったのではないでしょうか
ですから、以下は失当でしょう
>それなら、ひき逃げに重罰が科されても、もっと逃げることになるだろう。
投稿: 通りすがり | 2006/09/14 11:06
LS生さん、通りすがりさん、ご指摘どうも。
昔、酔っぱらい運転を免れるために検問で止められたらその場で酒を飲むという手口がまことしやかに流れ、それを本当にやったところ、捜査されて飲酒の事実を明らかにされ捕まった馬鹿がいたという報道がありました。
それを思い出すと、確かに酔っぱらいの事実を隠すだけのためにひき逃げする輩もいないとは限らないですね。
でも、厳罰化すれば余計逃げるようになるというのも失当だとは思えませんね。とにかくばれないでいられると思ってしまう浅はかな人々のことですから。
それよりも、ゴールデンブリッジをかけてあげる方が、逃げなくなると思います。
投稿: 町村 | 2006/09/15 00:40
立法技術的には、逃げたらもっと罪が重くなるとしたらいいという計算が成り立ちます。
ひき逃げ>酒酔い運転・危険運転致死罪
極めて技巧的ですが、米国の司法取引がこれに近い計算で運営されています。刑事免責(殺人でも!)と引き換えに共犯者の犯行や犯罪組織の全貌を証言するわけです。
黙秘でも厳罰>免責による証言
投稿: ハスカップ | 2006/09/15 01:05
町村先生、事故後の飲酒(飲み増し)は最近報道されましたよ。
以下はnews.tbs.co.jp/headlineのキャッシュです。
飲酒運転で事故、直後に酒一気飲み
4日の夜、福岡県の北九州市で飲酒運転で追突事故を起こした男が、この事故の直後に、カップ半分の焼酎を一気に飲むという信じられない行動に出た上で「酒を飲んだのは事故の後だ」と一時、主張しました。そして、現在はこの飲酒運転を認めて取り調べに応じています。
5日夜、北九州市の国道で軽トラックが普通乗用車に追突し、乗用車に乗っていた2人が軽いケガをしました。軽トラックを運転していた男は、この事故の直後に信じられない行動をとります。
この交差点で事故を起こした男は、警察官が駆けつける前に目の前のコンビニエンスストアに走っていって、焼酎を購入しています。そして、買った焼酎を一気に半分ほど飲んだ後、あくまでも飲んだのは事故後に買った焼酎だと主張します。
男は足がふらつくほどの状態でしたが、飲酒運転を認めないため、警察官は、北九州市の農業、村上充宏容疑者(46)を業務上過失傷害の疑いで逮捕しました。
「結局、こういうことで罪を逃れようということに関しては徹底して捜査をしていく」(八幡西警察署 竹ノ下交通管理官)
***********
これ以外にも事故発生後酔いを醒まして出頭したという報道が最近あります
つまり、事故を起こしたことをばれないように逃げたのではなく、酒酔い運転を隠すため一時的に逃げた人が実際にいるという事実があるのです。
繰り返しになりますが、ばれないと思うあさはかさではなく、ばれているが飲酒だけは隠そうとする浅ましい人が多くなったということではないでしょうか?
投稿: 通りすがり | 2006/09/15 10:01
>素朴な感想だが、重罰をおそれて逃げる人に、逃げると重罰が科されると言っても無駄ではなかろうか?
素人の素朴な感想としては、
本来
逃げる = 危険運転致死罪+ひき逃げ
なのに現状では
逃げない = 危険運転致死罪の適用
逃げる = 業務上過失致死+ひき逃げ
の構図となって、逃げる罰則的に逃げることが得になっているいるのが許せないのですが
法学部ではそういう考えは違うと教えているのでしょうか?
法廷で立証できなければ罰はうけないのですよね
それとも町村先生は逃げ得にはならないと考えているのでしょうか?
投稿: 通りすがり | 2006/09/16 11:04
逃げ得だと思って逃げてしまう連中は、そのように罪と罰を冷静に比較考量して逃げる道を選択しているように見えても、所詮は浅知恵に過ぎないので、上で書かれているような報道例では酒を飲んで運転したことが立証されたのでしょう。つまりは逃げても無駄ということです。
法廷で立証する手段は、その現場での呼気のデータが唯一無二で絶対必要というわけではないでしょうから、ひき逃げ犯が出頭してくれば、事故前の足取りを追跡することにより飲酒運転が露見し、立証されることは普通にあり得るでしょう。
上で「事故発生後酔いを醒まして出頭したという報道」が書かれてますが、それが事実として立証できるのなら、結局無駄だったどころか、余計に刑を重くしてしまった例でしょうね。
ただ警察がそのように本腰を入れて捜査していないという現状があるとすれば、それはその問題です。
もちろん、法定刑を重くして、それを宣伝すれば、ある種の人々には抑制的に働くことは否定しませんが、上記の浅知恵を働かす連中にはかえって逆効果かとおもうわけですよ。もちろん死亡事故を起こしてひき逃げしたケースでは、かなりの確率で捕まるのでしょうから、結局は逃げ得にならないですが。
厳罰化は、我々の「ケシカラン」と思う感情にマッチするので、そうだそうだとなりがちですが、犯罪抑止を目的にするのであれば、他にももっと手段がありませんか?ということです。
投稿: 町村 | 2006/09/16 11:51
う~ん
>逃げるより問題に立ち向かった方が得、と思わせるようなインセンティブ
危険運転致死罪が懲役20年
業務上過失致死と道路交通法違反で7年半
現実の刑罰の差に対して「逃げるより問題に立ち向かった方が得」とはどれくらいのことを言っているのでしょうか?
「逃げるより問題に立ち向かった方が得」と思うというのは結局刑罰の差によって犯罪者の動向が変わるということと同値ですね。
ただ、危険運転致死を業務上過失致死と道路交通法違反の併合より軽くすることは「犯罪抑止を目的」に合致するのでしょうか?
>「事故発生後酔いを醒まして出頭したという報道」‥
福岡の3児死亡の報道では
交通事故に詳しい高山俊吉弁護士は「危険運転罪の判例では多くがアルコール濃度0・5ミリグラム以上の酒気で適用されてきた。・・・
となっていて危険運転罪の運用において事故直後のアルコール濃度が非常に重要視されます。
ひき逃げだと分からない場合、立証は非常に難しいと思います。
投稿: 通りすがり | 2006/09/19 12:02
関係する事例があったので
http://www.kik-izoku.com/kik-news/n-23-2.htm
判決によると、岩崎さんの三男で専門学校生だった元紀(げんきさん)=当時19歳=は昨年1月23日夜、バイクで多摩市内の都道を走行中、名古屋市内の元会社員(37)=危険運転致死罪などで懲役8年確定=運転のワゴン車に追突され、頭などを打って死亡した。
<中略>
また、元会社員は事故直後、コンビニエンスストアで日本酒のカップ酒を買って飲み、事故後に初めて酒を飲んだように装っていた。
<中略>
元会社員は偽装工作により、当初は飲酒運転の刑事責任を問われなかった。しかし、岩崎さん夫婦が検察に上申書を出し、署名運動を続けた結果、危険運転致死罪が追加された。
事故後コンビニで酒を買って飲酒運転から逃れる人は結構いて、被害者が上申書を出さなければ偽装が有効ということですね。現実には得をしている人が居て、その情報が運転者に伝わっているのでしょう
これで懲役8年というのはどうなのかな・・・
町村先生なら刑を軽くしろと言われるのでしょうが・・・
投稿: 通りすがり | 2006/09/22 12:12
これも結局はばれた例なので、ひき逃げの方が得だった例ではないでしょう。
それにしても、どういうところから、私なら刑を軽くしろというだろうと思われるのですか?
厳罰化の抑止効果に疑問を呈するのと、特定事件の量刑に対する評価とは全然別のことですが。
投稿: 町村 | 2006/09/22 13:07
>これも結局はばれた例なので、ひき逃げの方が得だった例ではないでしょう。
えっ、「ばれる」ために上申書と署名活動が必要な事例だと思いますが・・・
交通事故に関しては「死人に口なし」の傾向があることは良く知られています。
通常、法律によって社会正義(死語かな)を実施するのであれば、公権力以外の私的な活動で刑が変化するのは良くないでしょう。
>それにしても、どういうところから、私なら刑を軽くしろというだろうと思われるのですか?
これまで書かれた内容から「危険運転致死罪の量刑が重い」からこういう「浅ましい」人が出ると考えておられると思います。
そもそもの「危険運転致死罪」の量刑を軽くすれば、当然本件の量刑も軽くてよいということになると思います
投稿: 通りすがり | 2006/09/22 18:04
ひき逃げは「負傷者の救護を怠り、道路における危険を防止する等必要な措置を講じていないことから道路交通法(事故における負傷者救護義務)違反」
つまり、普通は「事故における負傷者救護義務」があると教わる。
ところが町村説では
「救護措置を十分尽くせば刑が軽くなると明文化するとか、少なくとも自分で通報すれば自首の規定が適用になることを明確化する」
つまり義務を行うことで刑が軽くなるということは、刑そのものを軽くするという主張だと思いますが、違うのでしょうか?
投稿: 通りすがり | 2006/09/22 18:28
いやいや、結局ばれた事例でしょう。
被害者のアクションがなければ警察・検察が動かなかったという点が問題なら、ひき逃げの法定刑以前にそちらの方を問題視すべきなのでしょう。
個別事件の量刑と法定刑の問題は一応別物ですし、そもそもこのエントリではひき逃げの法定刑を重くしても抑止効果が生まれるかどうかは疑問だということを言っているに過ぎないので、具体的にどこからそのように読まれたのか興味があります。
投稿: 町村 | 2006/09/22 18:47