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2006/09/26

jugement:19人の発信者情報開示命令

日経新聞より
「サザンオールスターズなどのヒット曲を無断で複製され、ファイル交換ソフト「WinMX」でインターネット上に公開されたとして、大手レコード会社14社がプロバイダー(接続業者)3社に、曲を公開した19人の氏名と住所の開示を求めた訴訟の判決で、東京地裁(荒井勉裁判長)は25日、請求を認めて全面開示を命じた。
 開示を命じられたのはソフトバンクBB(東京・港)やNTTコミュニケーションズなど3社。訴えたのはビクターエンタテインメント(同・渋谷)やキングレコード(同・文京)など。」

このネット版には載っていなかったが、紙の朝刊には小倉秀夫先生のコメントもあった。
「プロバイダーが開示請求になかなか応じないのは、加入者を集めやすくするためではないか。」とのことである。

どちらかというと、通信の秘密に対する総務省のリジッドな解釈に縛られ、身動きがとりにくいというのが真相であろう。
著作権侵害については、極めて熱心な当事者がいるおかげで、ガイドラインに基づく裁判抜きの開示が可能な環境に近づいているといえようが、やはり第三者機関による開示の当否の「判断」と、そのオーソリティが欲しいというのがプロバイダの立場ではないか。

仮処分でも同じことだが、被害者側がプロバイダに開示を求めた場合に、早期の開示判断が下せて、仮に情報発信者が異議をいいたい場合は情報発信者の申し立てて法的措置を取り得る余地を設ければ良さそうである。
現行法は、発信者にノーティスすることを定めているので、これをもう少し発展させることで事態の打開が可能であろう。
やはりADRである。
プロバイダが発信者情報の開示について裁定機関を設け、あらかじめ契約者に裁定に服する旨の同意を取り付けておけばよい。ただし否応なしの同意では通信の秘密の例外として認められるかどうか疑問なので、オプトアウトの機会を設けておく。つまり具体的な紛争が発生して裁定機関が開示を可とした場合には、発信者が異議をいうことで裁定は無効となる。こうなるとプロバイダの判断で開示するか、裁判によらざるを得なくなる。

しかし発信者が自ら進んで異議を述べた場合には、プロバイダは発信者に対して開示を認めない理由の説明を求めることができるし、その範囲内で訴訟追行すればよい。つまり事実上の訴訟担当である。
もちろん発信者がプロバイダに任せておけないというので、訴訟に補助参加したり、自ら発信者情報開示の差し止めを求めたりすることはできる。その場合は実名を明らかにせざるを得ないのだが。

なお、発信者が異議を述べれば裁定が無効になるということについて、それでは意味がないと考える向きもあろう。しかしながら、督促手続でも60万件中異議申し立てが11万件と2割ほどにすぎず、また民事調停の17条決定でも、すぐに統計が出てこないが、異議申し立てはほとんどでないとされていることを考えると、裁定のところできちんとスクリーニングしていればほとんど異議は出ないであろう。
また異議を述べた場合でも、プロバイダが異議者の主張内容に従って訴訟追行すればよいということであれば、プロバイダの負担も重くはならない。発信者がむちゃくちゃなことを言っているのであれば、それはそれで早く訴訟が終了するというものである。

以上は著作権侵害事例に限った話で、名誉毀損・プライバシー侵害については別論としておきたい。

総務省筋がうんと言えば、少なくとも大手のプロバイダは迅速な対応をすることになるであろう。

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法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

ADRと仲裁法附則第3条との関係は、どう考えるべきでしょうか。

投稿: 消費者 | 2006/09/26 09:50

裁定型であっても、訴訟提起が出来なくなる効力のないものであれば仲裁法の適用はないでしょう。

投稿: 町村 | 2006/09/26 10:03

>通信の秘密に対する総務省のリジッドな解釈に縛られ、身動きがとりにくいというのが真相であろう。

>やはり第三者機関による開示の当否の「判断」と、そのオーソリティが欲しいというのがプロバイダの立場ではないか。


これはそのとおりだと思います。
私本人ではないのですが、よその会社の友人がその手の対応に苦慮しているようで、とりあえず偉い人に頼んで他所(の部署)に投げたといっていました。
よくわからん上に、対応悪いと大騒動になっても困る、みたいなことを。

やはり、現場レベル(といっても現場責任者も込みの)で即決してどうこうとは行かないようで、いろいろ面倒なようです。

投稿: サスケット@上海より愛を込めた | 2006/09/26 11:21

最終的にどうなったのは知らないのですが、わたしがプロバイダ責任制限法に関わっていたときに、著作権関係の開示請求について著作権団体が開示請求手続きに入っていることを発信者に知らせてはならない、と決めていました。

証拠隠滅になるからというのですね。

これではプロバイダ等は身動きが取れないわけで、実質的にプロバイダ責任制限法は機能しない。

まして即決などとはほど遠い、という状況でした。
何を解決するのがプロバイダ責任制限法なのかよく分からないです。

投稿: 酔うぞ | 2006/09/26 14:18

今現在の私の興味は、権利侵害が明白であるか、相当の理由で誤信して開示した者が免責されるか?どの場合に免責されるか?です。

明らかに権利侵害が明白だと思っても、なにかあって明白性が否定されれば困るということで裁判所の判決が無ければ開示しないプロバイダが多いですし。

裁判所の判決が無ければ、開示義務を負わないというのが実務となるのはかなり問題と思っています。

投稿: Toshimitsu Dan | 2006/09/26 20:19

>明らかに権利侵害が明白だと思っても、なにかあって明白性が否定されれば困るということで裁判所の判決が無ければ開示しないプロバイダが多いですし。

 ISPの現場では,虚偽の理由を申し立てたり、権利侵害と称する掲示板のHTMLファイルを偽造したり、最近はアクセスログすら偽造して開示請求する方の増加に頭を悩ませています(泣)。

>裁判所の判決が無ければ、開示義務を負わないというのが実務となるのはかなり問題と思っています。

 ご趣旨は判るのですが、ウエのような偽造書類(不実記載電子データ)を使ってまでなんとか特定の会員の住所・氏名・生年月日・メアド(電話番号)を開示させようとする方が続出しているので、どうしても公権的判断に委ねざるを得ない現場の実情がございます。

投稿: 某ISP現場担当 | 2006/09/27 18:02

でもそういう偽造や虚偽申立が判明するのであれば、サクっと却下すればよいのでは?

デリケートな、あるいはよく分からないものは、お困りでしょうけど。

それにしても、やはりなんか攻撃してやろうとして実名を突き止めようとする連中は無視できないくらいいるわけですね。

投稿: 町村 | 2006/09/27 18:12

>某ISP現場担当様

ご事情大変だとお察しします。

私見ですが、やはり、権利侵害の被害は結構深刻な場合がありますから、偽造の可能性があるから発信者情報開示は裁判所の決定無しでは認めないとよりも、相当な理由があって誤信して開示してしまった場合はISPは免責されるというほうが良いのではないか。でも、どのような場合に免責を認めるかはあまり議論されて無いのではないか?と考えてのことです。

通常のプロバイダ業の方には、満足とは言えませんが、立場の違いだなと納得できるような対応をしていただいております。私のコメントは特段ISPを批判する趣旨ではないのですが、言葉の趣旨が間違って伝わったのであれば、申し訳ありません。

超個人的には、弁護士法23条の照会くらいは応じていただければ、ありがたいところです。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: Toshimitsu Dan | 2006/09/27 23:10

 その昔、某ISPのヘルプデスクでアルバイトをしていたとき、当時は会員情報開示問題の最前線はヘルプデスクでした。中には「ヘルプデスクの担当者が会員情報を教えないから」と担当者の自宅を突き止めて押し掛けて玄関先で怒鳴り声で情報開示を強要した非会員様もいらっしゃいました。
 そのころから、ヘルプデスク担当者は、実名を名乗ることが禁止され、匿名のハンドル(だけど苗字2文字の一見実名偽装w)を名乗ることが義務付けられました。今なら「匿名の陰に隠れる卑怯者」義務でしょうw。
 あのころは、「過ぎたるは及ばざるが如しだと思います。」という程度の投稿が「名誉毀損の人権侵害だ。本人の住所と氏名を教えろ。これは憲法違反だ。訴えるぞ!」という方が6ヶ月間粘っていらっしゃいました。(担当者が1人辞め,後任が自律神経失調症で入院しました)。
 確か、ライバル会社数社のヘルプデスク担当者の懇親会があったとき、このような問題児の話題となり、「同一人物がアチコチのISPやサーバレンタル会社へ投稿者情報の教示を強要している」「変造した掲示板のプリントアウトや偽造したリモホやIPアドレスまで送りつけてくる」「最後は会社やヘルプデスク担当者を恫喝する」ということがわかり(ウチもウチも!、ウチにも来てる人だ!、ウチも偽造証拠を掴まされたのノリ)、同病相哀れむ話で盛り上がって(下がって?)しまいました。
 この体験から会得したことは、安易な条件での開示は2次災害を生む(弱小ISPの安易な会員情報開示が今で言うストーカー事件となって刃傷沙汰になった有名な例がありました)ということです。
 だから現在ご苦労されている「某ISP現場担当」様が裁判所の判決がないと開示しない--おそらく最悪の場合は人命に関わるので責任が持てないという趣旨だと思います--というのも理解できます。
 この人命最優先のご時勢ですから、そして桶川ストーカー殺人事件もあったことですから、安易な会員情報開示がストーカー殺人事件に発展したら、免責条項で法律で問題のなく免責があっても、世論やマスコミは絶対にISPや現場担当者を「免責」してくれないと思います。
 そして、自分が会員情報を開示したことで人の命が奪われる事態に至ったら、その担当者は一生苦しむことになると思います。
 長文失礼しました(オジギ。
 某ISPの現場担当者様の苦悩を拝察して。

投稿: ハスカップ | 2006/09/27 23:53

追記:

 著名な弁護士先生も常連様でいらっしゃるようですので連投を失礼します。
 大学同期の弁護士と呑んだときに私のISPアルバイト体験を話したら、「本人訴訟といって弁護士を立てずに自分で民事訴訟を起こす人の中には、相手方弁護士に恨みを向けて、弁護士の車をパンクさせたり弁護士事務所に無言電話や脅迫電話をかけて何ヶ月も嫌がらせする御仁がいるよ。どこの業界にもそういう問題児がいるんだね。ウチも電話では事務員に偽名を名乗らせようかな。」と慰められました。

投稿: ハスカップ | 2006/09/28 00:20

>ハスカップ様

かなり様々な経験を体験されたと推察いたします。興味深く拝見いたしました。

開示を認めるべきではない事案もあると思います。他方、現実に侵害情報による被害に苦しんでいる人も多数います。

安易に開示すれば問題です。他方で安易に開示を拒否するのも問題なような気がしています。慎重にすることが大切ですが、だからといって裁判所の決定が無い限り開示しなくても良いとつなげることはそのへんで少し問題だと感じているのです。

権利侵害に対しては速やかに救済され、他方で、発言者の権利が不当に侵害されないような制度とは何だろうかと考えているのですが、難しいところです。

今後とも、ご指導いただければ幸いです。

投稿: Toshimitsu Dan | 2006/09/28 02:52

 被開示者との関係でISPを免責するだけなら、約款にその旨を入れておけば済むことですね。さすがに、故意・重過失がある場合までは免責されないでしょうが。名誉毀損等の場合でしたら、当該発言が一般に開示請求者の社会的評価を低下させうる事実を摘示していると見られうるものであって、当該発言者に対して照会を行うも、真実性の抗弁を基礎づける資料の提出を受けられなかった場合であれば、故意・重過失とまでは認定されないでしょうから。
 

投稿: 小倉秀夫 | 2006/09/28 09:22

>小倉先生
実は、そのあたりを含めて予稿を作成中です。またの機会にご笑覧ください。

投稿: Toshimitsu Dan | 2006/09/28 09:31

>被開示者との関係でISPを免責するだけなら、約款にその旨を入れておけば済むことですね。

 それは個人情報保護法の施行でそんな簡単に済むといえなくなったと伺ってますが?

投稿: 某ISP現場担当 | 2006/09/28 10:20

> Toshimitsu Dan 先生

>実は、そのあたりを含めて予稿を作成中です。またの機会にご笑覧ください。

 弊社監査・法務部も先生の論文に期待を寄せております。IT法務の専門家の見地から業界一般に向けたご指導ご鞭撻がいただければと思います。よろしくお願いします。

投稿: 某ISP現場担当 | 2006/09/28 15:46

某ISP現場担当さま
個人情報保護法第23条によれば、あらかじめ本人から同意を取っていれば、第三者に個人情報を開示しても問題ないとされていますから、約款に書いてあれば個人情報保護法上の問題はないでしょう。

むしろ、約款に同意してもらえるかの問題ではないでしょうか。

投稿: 消費者 | 2006/09/28 16:13

>消費者様

 約款解釈や法律上の解釈はご指摘のとおりだと思いますが、「約款に書いてある」で突っぱねられれば、現場は苦労しないのです。「俺は個人情報保護法23条の同意をした覚えはない。自動同意条項(看做し同意条項)は一方的に企業に有利な看做し規程で権利濫用だ。少なくとも錯誤無効だ。」くらいで争ってくる会員様はフツーに存在します(当否は別としても、法律上の紛争の存在はそれ自体がコストアップになります)。
 ガチガチのリーガルイシュー(プロブレム)で解決しないところが、会員保護管理(ユーザーフレンドリー)問題の根幹にあります。企業法務のベテラン弁護士先生なら、そこまで配慮した慎重な文言選択(約款起案)のリーガルアドバイスをしてくれます。「約款改定すれば簡単に問題終了」では、法理論としては正しくても、残念ながら現場では「実務で使えない」意見に過ぎないのです。
 また、リーガルリスクのリスク低減(コスト低減もある)という点からも、「約款で突っぱねる」ことはリスクコントロールの観点では最悪の手(二次リスク三次リスクを派生する)と思われます。
 企業は、それ自体が生き物ですし、理性的で合理的な判断にしたがう顧客ばかりを相手にしているわけではないのです。誠に残念ですが。

 この問題の解決は、壇先生や町村先生や落合先生のようなIT法務の専門家の研究成果に期待しております。どうぞよろしくお願いします。

投稿: 某ISP現場担当 | 2006/09/28 16:50

>この問題の解決は、壇先生や町村先生や落合先生のようなIT法務の専門家の研究成果に期待しております。どうぞよろしくお願いします。

 私は特にプロバイダ責任制限法や個人情報保護法は不勉強なので、町村先生、落合先生、特に熱心にご研究されている壇先生の研究成果に期待しております。ご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。我々IT法律実務の素人にとって、変なバイアスやハッタリがかかっていない弁護士先生や大学教授先生のご研究は珠玉の宝なのです。

PS:元当社従業員だった期待の修習生が2回試験で留保になって落ち込んでます。orz

投稿: ハスカップ | 2006/09/29 00:46

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