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2006/07/27

jugement:出産事故と期待権侵害

大阪地判平成17年7月14日(PDF判決全文

事案は分娩事故で、経過を見守るべき准看護師の過失により臍帯脱出後もしばらく措置が遅れたため、新生児は仮死状態で生まれ、生後数ヶ月で死亡したというもの。
判決は、過失を認めつつ、相当因果関係はないとした。しかし、以下のように判示して400万円の慰謝料の賠償を命じた。

「仮にF准看護師の過失がなければ,Eの低酸素性虚血性脳症の程度が軽減されていた可能性は相当程度存在したと認められるのみならず,そもそも同症の発生自体防止し得た可能性もあったと認めることができる。
もとより,これらの可能性の程度を具体的に認定することは困難であるが,上記5(1)の認定判断に照らし,仮にF准看護師の上記過失がなければ,実際の娩出時間である18日午前3時32分よりも10分以上早く児を娩出することができた可能性は非常に高いといえ,本件鑑定において,「数分早く分娩するだけでも胎児への侵襲は大きく異なったと想定され(る)」とされていることをも考慮すれば,少なくともEの低酸素性虚血性脳症の程度を軽減し得た可能性は,高度の蓋然性には達しないものの,比較的高い割合で存在したものと推認するのが相当である。
 したがって,被告は,民法715条に基づき,上記可能性を侵害したことにつき,慰謝料を支払うべき義務を負うものといえる。」

これに先だって相当因果関係がないことは以下のように認定されている。
「仮にF准看護師が上記義務を尽くしていたとしても,これにより,Eの低酸素性虚血性脳症の発生が防止され,又はその程度が軽減されたことを高度の蓋然性をもって認定することまではできないといわざるを得ない。」
「被告には,E出生後,直ちに,Eに対する蘇生措置を行うのと並行して,本件システムを利用するなどしてEを高次医療機関に搬送するよう手配すべき義務を怠った過失もあるところである。
しかし,本件鑑定によれば,仮にこの義務違反がなかったとしても,Eの低酸素性虚血性脳症が防止されたことも,その程度が軽減されたこともなかったと認めざるを得ず,上記義務違反とEの死亡との相当因果関係を認めることはできない。」

典型的な「あれなければこれなし」テストであり、事実的因果関係の否定を前提しつつ、比較的高い割合による症状軽減の可能性をもって、慰謝料の賠償請求権を認めているわけである。

さてこれは、次のどのような理解に立つべきか?
1)因果関係の立証軽減を図ったもの
2)心証度に応じた割合的認定をおこなったもの
3)条件説的な因果関係とは別個の因果関係を認めたもの
4)損害の内容として、人身損害とは別個の精神的損害を認めたもの

なお、民訴的にはもう一つ、当事者の記述にも少し注目してみよう。いわゆる「AことB」の表示訂正例である。


(追記)裁判所HPの新着判例をチェックするのに便利な裁判所判例Watch(この判決のページ)だが、昨日からトラックバックを受け付けるようになったらしい。

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法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

はじめまして、いつも興味深くこのブログ読ませてもらっています。
今回は医療裁判の話だったので、その雑感を述べさせてもらいます。

判決文を読む限り、医療者側に本件の傷害と死亡に関する因果関係が成り立つ過失は認められないと考えます。
となると裁判所は、

4)損害の内容として、人身損害とは別個の精神的損害を認めたもの

と判断して損害賠償を認めたのではないか、と私は医療現場のものとして受け止めています。
何かしら医療者側に過失がないと医療事故の損害賠償保険が下りない事から、過失との因果関係が認められなくても何らかの理由を付けてこのような賠償を認める判決が増えた気がします。

この事に理不尽さを感じた医療者の多くが、訴訟の危険のある所をさけるようになっています。この動きが医療の崩壊を加速しており、将来に不安を感じております。

今回のような案件には、本来は無過失補償制度を整えて対応すべきだと考えます。

また一方で、この無過失補償制度が医療過誤を繰り返すリピーター医師に恩恵を与えるべきではないと考えます。医療過誤を繰り返す産科医が野放しになっている現状は、多くのまともな医療を行う人の立場を悪くしております。
その為にも、医療事故の原因が利用者の過失によるものか、一定の割合で発生する避けられないものであるのか判定する機関の設置も無過失補償の導入にあたっては大事です。

「無過失補償制度」や「医療事故調査第3者機関の設置」についての法曹関係者の意見はどうなのか聴いてみたいです。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/27 15:55

お久しぶりです。

期待可能性との間に、因果関係が認められたものと推察します。適切な治療を受けることができたにもかかわらず、それを受けられなかったことに対する過失および、因果関係の認定かと思います。

なので、法律構成としては、債権的侵害(委任或いは準委任に基づく善管注意義務違反)と構成するほうが正しいと感じますが、当事者間では、不法行為の主張なので、こんな表現になったのではないでしょうか?

投稿: こう | 2006/07/28 03:29

コウ様へ

>適切な治療を受けることができたにもかかわらず、それを受けられなかったことに対する過失および、因果関係の認定

適切な治療とは何でしょうか?
出産管理については過失がない事は認められています。
新生児を高次施設を直ちに送らなかった事が過失と認定ですが、仮に直ちに送ったとしても既に手遅れであり高次施設での治療を受けれなかった事は被害者の不利益に結びついておりません。
仮に「高次の施設に送って治療を受けた」としても被害者の利益にならなかった事案です。
被害者にとって意味のない治療であっても「適切な治療」と法曹関係者は認めて、この治療を受けれなかったことを「期待可能性に反している」という理解で宜しいでしょうか?

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/28 15:29

連続投稿失礼いたします。

>比較的高い割合で存在したものと推認する

判決のこの1文が問題です。
結果が解っている後になって振り返ってみれば、可能性を挙げる事ができます。しかし症状の進行時にはそれ以外の無数の可能性もまた存在しています。医学は生体から得られる限られたデータから診断を推測せねばならないため、突発的な事態にはどうしても後手後手に回る宿命にあります。
比較的高い割合って言われても、かつて新生児を診ていた自分からすると1%にも満たない可能性と考えます。
この辺、現役の新生児科の医師の意見を聴いてみたいところです。

こう様へ
先ほどは名前を間違ってカタカナで入力してしまってすいませんでした。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/28 15:59

こうさん、小児科医さん、こんちには。コメント有り難うございます。

小児科医さんのご指摘の「因果関係が成り立つ過失は認められない」という部分はその通りなんですが、因果関係が認められない過失は会ったと判断されています。

判決文28頁
「F准看護師は,18日午前3時ころの時点で,被告に対し,本件胎児心拍数陣痛図上,胎児ジストレスと思われる所見ないし遷延一過性徐脈と思われる所見が認められる旨の連絡をすべきであったと認められる。
ところが,F准看護師は,上記遷延一過性徐脈の所見を正しく認識することができず,同じく18日午前3時ころ,原告Bのコールを受けて訪室し,ネオメトロの自然抜去を認めて分娩が進行しているものと考えて,助産師にはその旨の連絡をしたものの,被告への連絡はこの段階では一切行
っていなかったのであって,このF准看護師の対応は,原告Bの分娩監視における注意義務違反に当たると認めるのが相当である。」

この「過失」は、仮に適切な連絡をしていたとしても産児の障害回避には繋がらなかったということで、障害および死亡の結果に対する因果関係は否定されました。

しかし、適切な治療を受けるべき期待を損なわれたという点を「損害」と認めるならば、そもそも治療上の注意義務違反そのものを「損害」とするに等しいわけですから、因果関係はほとんど問題となりません。

かくして、適切な治療に対する期待の侵害という風に、損害概念をいじることで救済したものということになります。

この点は、小児科医さんのご指摘通り、後付けの理屈で結果回避の可能性が論じられていても現実的でないという批判を受け入れた上で、精神的苦痛の方に結びつけたわけです。

しかし、こうさん、債務不履行構成の方が不法行為構成よりも馴染みやすいとは必ずしも言えないように思います。

投稿: 町村 | 2006/07/28 16:52

無過失補償制度については、予防接種事故について実現していますね。
また第三者機関による責任認定制度は、厚生省が検討していたり、南山大学の加藤教授も市民による責任認定を提唱されていたりします。

基本的な方向性としては望ましい傾向ではないかと思います。

投稿: 町村 | 2006/07/28 16:58

はじめまして。横からコメント失礼いたします。

小児科医さんへの町村さんのコメントは、大変わかりやすく、且つ納得できるものですが、一つ疑問に思ったことがあります。契約行為において、それが適切におこなわれなかったこと、つまり期待されていた行為がおこなわれなかったことに対する賠償が、契約の代価つまり分娩費用(実費と報酬の合算)よりはるかに高いことには、違和感を感じます。この辺りはどうなのでしょうか。

専門家でないため、頓珍漢なことを言っているようでしたら、ご容赦下さい。

投稿: 公立副院長 | 2006/07/28 17:32

はじめまして

横から失礼します
医学、法律ともに素人なのですが、素人的なコメントをします。

なんとなく、お医者さんの被害者意識が強いような感じがしますが・・・

>期待されていた行為がおこなわれなかったことに対する賠償
というのは一般によくあると思います。
衛生管理が不十分で食中毒を起こした飲食店の賠償額は飲食代ではすまないでしょう。

製造業だと検査ミスでの不良部品を作った場合に損害額は最終製品の値段で請求されることは良くあります(部品の数千倍)。

過失によって生じた損害を補填するのですから、契約時の金額とは無関係だと思います。

本件の訴訟の過失が無い場合、損害を被らない可能性が1%もあれば、被害者の感情としては許せないと思うのは当然のように感じます。

1%でも0.1%でも宝くじが当たる確率よりはるかに大きいですから・・・・

また「期待されていた行為がおこなわれなかったこと」に対する賠償では無く、「期待されていた行為がおこなわれたら助かった可能性が0で無い」ことに対する(精神的な苦痛に対する)賠償のような感じがします。

投稿: 通りすがり | 2006/07/28 19:26

>町村先生
確かに、債権侵害の方がなじみが良いかといわれれば、そうでもないですね。一定の注意義務を負っていることを期待権と考えて、注意義務に違反すれば、因果関係をそれほど問題にすることなく、期待権侵害が成立する、と考えられるので、不法行為と構成しても変わらないと思います。

試験論文的な発想をしてしまいました。

>産科のない病院へ移った小児科医様
>適切な治療とは何でしょうか?
26貢では、Fの分娩監視注意義務違反が認定されていますし、27貢では、高次医療機関への搬送義務違反も認定されていますので、基本的には、これらの注意義務を負っていたと考えられ、これらの措置を行なわなかった不作為に対して、適切な治療(ここでは、広い意味での治療行為及び関連行為を指す意味で使いました)を受けられなかった期待権が存在していたと思われます。

>結果が解っている後になって振り返ってみれば、可能性を挙げる事ができます。しかし症状の進行時にはそれ以外の無数の可能性もまた存在しています。医学は生体から得られる限られたデータから診断を推測せねばならないため、突発的な事態にはどうしても後手後手に回る宿命にあります。

この部分に関しては、同感です。

投稿: こう | 2006/07/28 22:13

先ほどの通りすがりですが、もう1回コメントをします。

ここの議論の内容を見ると素人としては強い違和感を覚えます
>結果が解っている後になって振り返ってみれば、可能性を挙げる事ができます。
これは、助かるかどうか判断出来ないという意味か、助からないと医師が判断したかで変わってくると思います。

例えば、医師が「助からない」と思ったら患者の同意無しに治療を止めることは出来るでしょうか?

小児科医さんの主張が認められるのであれば、「患者が助からないと医師が判断すれば、その後の過失は免責される」ことになりませんか?

法律専門家や医療関係者の判断は知りませんが、小市民的には「助からないと思われても十分な治療を受けさせたいと思う人がいる」というのは当たり前のように感じます。

「治療を受ける権利」、「どのような治療を受けるか選択する権利」は、エホバの証人の無血の治療で良く議論されたように思いますが、患者側にあって医師には無いと思います(無論医師は治療を断る権利はあるでしょうが・・・)

従ってそういう権利を侵害すれば、例え患者の命が救えても、損害賠償を請求される可能性があると素人的には思います

といって医療関係者が萎縮する必要は無く、「患者の同意」の下で過失無く治療をすれば良いのだと思います。

「患者の助かる、助からないを医師が勝手に判断し、助からないと思った場合は過失が許される」ことが医療現場の常識であれば、正しい治療で助かる可能性(0.1%でも)そのものを無くすことにつながると思います。

投稿: 通りすがり | 2006/07/29 09:12

公立副院長さん、こんにちは。

>期待されていた行為がおこなわれなかったことに
>対する賠償が、契約の代価つまり分娩費用(実費
>と報酬の合算)よりはるかに高いことには、違和
>感を感じます。

結論的には、通りすがりさんの書かれていることの繰り返しになりますが、賠償根拠は精神的苦痛への慰謝ですから、診療報酬・実費を返せばよいというものでもないでしょう。
しかし、公立副院長さんの書き方を良く読むと、そういう見方もできるなぁとも思います。
例えばマッサージを受ける契約をして前金を払って待ってたら、期待した水準をはるかに下回るお粗末マッサージをするので契約を解除するという場合、払った前金を返して終わりということもよくあるでしょう。
でもその場合でも、理論的には精神的苦痛が生じていれば、その賠償も認められるはずです。ただ常識的に見て、金銭賠償を必要とするような精神的苦痛は発生していないことが多いですが。
出産事故の場合、マッサージの失敗よりもはるかに精神的苦痛が大きいので、診療報酬・費用の返還だけでは済まないということなのではないでしょうか?

投稿: 町村 | 2006/07/29 11:27

通りすがり様

>結果が解っている

今回の場合は臍帯脱出という診断(結果)が、今となっては解っているという意味で使っております。

しかし現場に立つものとしては、臍帯脱出の診断がつく前に、胎児の心拍の変化が起きた時にまずどういう判断が必要か考えてみてくださいと言いたいのです。臍帯脱出の頻度は0.5%以下であり、胎児心拍の変化を見た時にはとうぜん臍帯脱出以外の要因が原因であることが多いです。
つまり診断が確定する前は、いろいろな他の条件も考慮しなければなりません。(胎児心拍の変化で一番多いのは子宮内の胎児が動いた事で胎児心拍を機械が測定出来なくなる事)

午前2時51分、56分の2度の遷延性徐脈は、臍帯脱出に関係ありませんでした。臍帯脱出であればかなり急激に胎児心拍が誰がみても解る徐脈が続く事になります。裁判においても、臍帯脱出の発症時期は「病室から分娩室への移動のどこかの時点」で起きたとされています。

裁判において、臍帯脱出と関係がなかった遷延性徐脈がみられた時点で、その後にたまたま起きた臍帯脱出による児の低酸素性虚血性脳症を防ぐために、ここで報告の義務があるとの認定です。

遷延性徐脈は胎児ジストレスを疑う所見であります。
遷延性徐脈が続いたり繰り返す場合、胎児ジストレスの原因を調べて厳重な監視が必要になります。そして改善が認められない場合や改善の見込みがない場合になって、急速な分娩が必要となります。
しかし初期の段階での軽度な徐脈であれば迅速な判定は医師でも難しいです。また遷延性徐脈と思われたものが自然に改善してしまう事もあります。
今回のように児の死亡という結果が解っている後になって振り返ってみれば、遷延性徐脈の判定もしやすくなるでしょう。

町村先生も指摘された通り、これこそ
>後付けの理屈で結果回避の可能性
と自分は考えております。

妊婦の子宮の中にいる胎児を直接観察出来ない以上、胎児の監視は限られた情報から判断せざるを得ません。ここに医療の限界があります。

>「患者の助かる、助からないを医師が勝手に判断し、助からないと思った場合は過失が許される」

患者を診ている最中に助かるか助からないのか誰にも判断出来ません。結果が解った後で検証してみて、仮に期待されるべき医療が行われても助からなかった場合を問題にしております。
そしてこの判断には「医療事故調査第3者機関の設置」を自分は提案しており、医師だけで判断すべきとも考えておりません。

説明不足で誤解を与えたことはお詫びします。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/29 19:34

通りすがり | 2006/07/28 19:26:43 さま

>衛生管理が不十分で食中毒を起こした
>製造業だと検査ミスでの不良部品を作った場合

これは過失と損害の因果関係が認められます。
検査ミスで見逃された部品と関係ない出来事で製品が起こした事故の場合でも、製品自体は不良品だったのだから損害額は最終製品の値段で請求されることは(部品の数千倍)妥当と通りすがり様は考えていると解釈してよろしいということでしょうか。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/29 19:44

今回の件で全面的に賠償の責任がないという意見ではないので念のために。

F准看護師の過失の認定は、「後付けの理屈で結果回避の可能性」であり、賠償の責任として妥当でないと考えます。

しかし、産婦人科医の高次施設への搬送の遅れついては、治療の期待権を犯すものとして
4)損害の内容として、人身損害とは別個の精神的損害を認めたもの
として認められても仕方ないと考えております。
(児が産まれた直後の蘇生処置の最中に搬送しないのは妥当。しかしその後の胎児の状態が悪化してからの搬送は、現在得られている情報に限って言えば遅すぎたように感じています)

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/29 20:07

>過失が無い場合、損害を被らない可能性が1%もあれば

ここも誤解を与えてしまったようなので。
仮に運良く臍帯脱出の確定診断が直ちについた後で、直ちに処置が行えた場合でもです。
認定されたF准看護師過失の時点で、臍帯脱出は起きていません。(通常胎児徐脈は120/分以下です。臍帯脱出が起きた場合は急速に1分当たり20とか30回の徐脈に。一気に胎児心停止に至る事もあります)

過失と認定された状況で必ず医師に連絡するようにしていた場合、臍帯脱出による低酸素性虚血性脳症を防ぐ確率は多めに見積もって
0.005(臍帯脱出の確率)×0.01(臍帯脱出が速やかに確定して助けられる確率)=0.00005(0.005%)未満
となります。
そしてこの疾患を防ぐ為に急速分娩をしなければなりませんが、急速分娩自体もリスクのある事です。
臍帯脱出が起きてすぐに診断が確定しても、急速分娩をしなければ100%児は死にます。急速分娩の合併症(脳性麻痺/胎児死亡などなど)のリスクは1%未満と臍帯脱出に較べれば遥かに少ないですから、臍帯脱出の診断がついた場合は急速分娩は行うべきです。
しかし今回の事案と同程度の状況の妊婦全てに急速分娩を行うとしたら「0.05%リスクを防ぐ為に1%のリスクを甘受せよ」となります。(もちろんリスクバランスが悪くなりますから現実にはあり得ない事ですが)

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/29 20:49

町村さん。コメントありがとうございます。

理論的に精神的な苦痛として、契約の代価以上の賠償が存在しうることはもちろん分かります。ただ日本の債務不履行時の損害賠償は、それによって実際の損害が発生しない限り、そこまで高額になることはないのではありませんか。救済のための方便であることは明白だと思います。

投稿: 公立副院長 | 2006/07/30 11:06

相当程度の可能性の侵害に対する慰謝料なんて,
平成12年の最判以来,裁判実務上完全に定着しているので
今更珍しくも何ともないと思うのですが…?
さらに上記判例及び最判解説を読めば,
被侵害利益が何か,とか,
法的構成(不法行為or債務不履行)についても
しっかり解説されていると思うのですが…?

投稿: ★★★ | 2006/07/31 01:45

小児科医さん、通りすがり(長く居すぎるのですが)です。

色々と説明有り難うございます。
でも、それらの説明は後付ではないですか?

また、論点を整理された方(損害額の件は誤解されていますし、第3者機関等は私の論点の範囲外です)が良いと思います。
確率の計算法も違うように感じますが・・・・

1点指摘すれば、
「治療の期待権」を考えれば「F准看護師過失の時点」で患者側が医師による診察を期待するのは当然であり、F准看護師の役割でもあったはずです。

これは「医師による診察を期待」であって「良い結果をもたらす診察の期待」ではありません。

そしてこれも「治療の期待権」を構成すると思います。こういう問題は多々あると思いますが、今回は偶々「因果関係を構成しなかった」だけであってそういう過失が許されるわけでは無いでしょう。

まあ、結果が重大で「損害額」が大きくなった可能性はありますが、基本的には過失があれば損害の補填が必要ということに尽きると思います。

投稿: 通りすがり | 2006/07/31 02:00

小児科医さん、webを探すと医師が嘆きや患者の声が一杯あって、問題は深刻なのですね。
http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_b5f2.html
http://rumina.cside4.com/

>しかし現場に立つものとしては、臍帯脱出の診断がつく前に、胎児の心拍の変化が起きた時にまずどういう判断が必要か考えてみてくださいと言いたいのです。

それが「医師を呼ぶという」判断をしなかったことが妥当であるという見解になりますか?

>結果が解った後で検証してみて、仮に期待されるべき医療が行われても助からなかった

これを強調されることが、患者側の不信を生んでいるように思います。逆に言うと「助からない患者」に対しても「可能なかぎりの努力をした」ということを求める患者や家族(又は社会)が居るということだと思います。

「臍帯脱出による低酸素性虚血性脳症を防ぐ確率」の計算も変ですよ。

臍帯脱出の発生確率を掛ける必要がどこにあるのでしょう?

問題は過失と認定された状況で必ず医師に連絡するようにしていた場合(=医師が現場に居た場合)と実際の場合(=医師が現場に来るまでに時間がかかった場合)で「助けられる確率」が変化するかどうかです。

裁判では「「助けられる確率」が低いため、因果関係があるとまでいえないが、確率は低下したと認定している」としたと思います

なお「0.05%リスクを防ぐ為に1%のリスクを甘受せよ」は意味不明です。臍帯脱出の確率は0.5%とのこと、臍帯脱出が起きたら助からない(確率99%以上)のですから、0.5%と1%のリスク比較であって、分娩過程に異常があったらその差はもっと小さくなるでしょう。
それを説明した上で患者側が判断すれば問題ないと思います。

ご主張は大まかには理解できますが、素人に対する説明(コミュニケーション)としては拙い点が多いように思います。

投稿: 通りすがり | 2006/07/31 16:04

とおりすがり様
説明が拙い点はお詫びします。
それでは再度説明をさせていただきますね。

>過失と認定された状況で必ず医師に連絡する

過失と認定された状況で、「必ず医師に連絡する」ことが「現在の医療レベルで必ず求められている」事が証明されていません。

判決文からの引用です。
>>本件胎児心拍数陣痛図上,胎児ジストレスと思われる所見ないし遷延一過性徐脈と思われる所見が認められる旨の連絡をすべき

正確には、胎児心拍数陣痛図上認められたのは「遷延性一過性徐脈と思われる所見」だけです。そして必ず医師に連絡を入れるべきタイミングというのは「胎児ジストレスが疑われる」と判断された時です。
「遷延性一過性徐脈と思われる所見」と『胎児ジストレスが疑われると判断すること」の二つの間には、大きな違いがあります。
「遷延性一過性徐脈と思われる所見」とあるように、まだ遷延性一過性徐脈であるという判断がこの時点で確定出来ていません。
ここから妊婦のお産の進行状況、監視装置の状況などを確認するなどする必要があります。そのうえで上記の所見がやはり「遷延性一過性徐脈」をきちんと記録された所見であると判断されて、「胎児ジストレスを疑う必要条件の一つが満たされた」事になります。
「遷延性一過性徐脈と思われる所見」と「胎児ジストレスを疑う所見」をこの裁判では混同しています。
「裁判で過失と認定された時点」では、「医師への必ず連絡を入れる」ことに対する妥当性が認められないと自分は考えます。
「必ず連絡を入れる事に妥当性がある」のなら、「臍帯脱出の発生確率をかける」ことは「臍帯脱出による低酸素性虚血性脳症を防ぐ確率」を計算する上では無意味です。
しかし「必ず連絡を入れる事の妥当性がない」のなら「臍帯脱出の発生確率」はF準看護士の過失責任を問う上で無視すべき要因ではありません。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/31 17:51

「後付けの理屈で結果回避の可能性」について誤解があるようなので。

裁判所は最終的に得られた結果から「後方視的にみて理屈をつけている」と意味で使っております。

例えばイチロー選手の所属するマリナーズが延長10回で負けたとします。
この試合で以下のことが事実認定がありました。

1;9回裏にツーアウトからイチローが出塁したが、盗塁に失敗してアウトになった。
2;10回表に相手に点が入る。
3;10回裏にノーアウトからマリナーズに2本続けてヒット。
4;しかし得点出来ずマリナーズは負けた。

これらの事実認定より、
「イチローが盗塁を試みて失敗しなければ、続く打者に2本のヒットがでてマリナーズは9回裏にサヨナラ勝ちをしていた。したがってイチローの盗塁を試みた判断は間違いであり、チームに敗北という重大な損害を与えた。したがってイチローはマリナーズに罰金を支払わなければならない」
事実認定から導きだされたのこの判断の問題点は
「ツーアウト1塁の時点でイチローは何を考えるべきなのか」
を考慮していない事です。後方視的に事実認定された結果だけから理屈を付ける事の欠陥はここにあります。

「遷延一過性徐脈と思われる所見」の発生時刻と「胎児ジストレスを疑って連絡を入れるべきであった」という時刻に時間差があります。所見があって、その所見だけで判断するのは、すぐにできない事を裁判所が認めている訳です。
この間に分娩の進行という新たな状況の変化があります。
このお産の進行という状況の変化に、あらたなリスク管理が更に生じます。
このように状が変化していく中で、リスク管理の優先順位もかわり、判断もそれにあわせて替わるのです。
「過失と認定された状況で必ず医師に連絡する」というのは、「過失と認定された状況の経過中の医療者の判断」の妥当性を検証する必要性を否定しています。

状況の変化に応じてのリスク管理を否定した(必ず医師に連絡など)場合、リスクバランスを崩れます。
それが
「0.05%リスクを防ぐ為に1%のリスクを甘受せよ」
につながっていたのですが。

解りにくいようでしたら、また説明のしかた考えますので。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/07/31 21:30

う~ん

小児科医さんは「裁判所の認定」が間違っているという主張をしたいわけですね。

素人としては
「医師と准看護師の能力差は大きいので准看護師で判断がつかない事態が起きれば医師を呼ぶ必要がある」、
「妊婦の監視をしている医療関係者は出産の危険性を熟知しており、少なくとも医師を呼ぶ呼ばないの判断は出来る」
「医師がそばに居たら臍帯脱出による低酸素性虚血性脳症を防ぐ確率が増える」
と思いますがどうなのでしょうね

「後付けの理屈で結果回避の可能性」に関して私は誤解していませんよ。

誤解されているのは、小児科医さんが「因果関係」拘っているからです。
「期待権」ということから「医師がそばに居たら臍帯脱出による低酸素性虚血性脳症を防ぐ確率が増える」と期待するのは違っているのかな?

それから
>「遷延性一過性徐脈と思われる所見」と『胎児ジストレスが疑われると判断すること」の間・・・ですが、そもそも「遷延性一過性徐脈と思われる所見」を准看護師が認識できていないのではありませんか?

「異常があったら連絡するよう言われている」准看護士が「自分で判断できない異常」を見逃したことが過失だと思います

それから説明の方法より、リスク計算が間違っているのをどうにかしてください。0.05%なんて数字は小児科医さんの計算で出てこない(0.005%とか0.5%はあるにしても)です。

そういうところは患者に説明するときに不信感を生む原因となります(変なたとえ話より論理的に筋の通った話をするべきです)

投稿: 通りすがり | 2006/08/03 11:27

要するに「患者側は、どのような状態になれば医師を呼ぶことを期待して良いか=期待して良いか」ということです

小児科医さんの回答やたとえ話は、悪く取れば、専門的な話にすり替えようとしている、意味の無い例えと比較している、と取られないですか?

准看護師がどの時点で判断をすることが期待できたかは「後でのケーススタディで判断する問題」であってそのこと自体問題は無いでしょう。

「結果回避の可能性」は医師がそばに居たら結果が回避されたかどうかということです。一般的には、医者には迷惑かもしれませんが、素人は医者がそばに居れば安心です。

小児科医さんは何を言いたいのでしょうか?
監視装置のデータからは異常を示すデータは読み取れないというのでしょうか?異常と判断するのは医学的におかしいというのでしょうか?
准看護師にそこまで要求できないというのでしょうか?

こういう例えはどうですか?
富豪の家の安全対策として家の門の監視を頼まれた人Aさんが「異常があれば警察へ連絡してくれ」と言われていました。ある夜、監視装置に正体不明の画像が一瞬現れましたが、すぐ消えたため警察に連絡しませんでした。
その数分後に壁を乗り越えてどろぼうが進入しました。

警察が着ていれば、被害にあわなかったかもしれません。警察がつくのが遅れて来ても意味がなかったかもしれません。

さて家の主人はAさんをどう思うでしょうか?

投稿: 通りすがり | 2006/08/03 13:02

>監視装置のデータからは異常を示すデータは読み取れないというのでしょうか?異常と判断するのは医学的におかしいというのでしょうか?

はい、そのとおりです。
監視データだけでなく、機器の状態を確認するなどの必要があります。
このデータだけで異常と判断する前に、データが正しくとれているのか確認する必要があります。


>「富豪の家の安全対策として家の門の監視を頼まれた人Aさんが「異常があれば警察へ連絡してくれ」と言われていました。ある夜、監視装置に正体不明の画像が一瞬現れましたが、すぐ消えたため警察に連絡しませんでした。
その数分後に壁を乗り越えてどろぼうが進入しました。
警察が着ていれば、被害にあわなかったかもしれません。警察がつくのが遅れて来ても意味がなかったかもしれません。
さて家の主人はAさんをどう思うでしょう」


たとえ話ありがとうございます。
でも常識的には、正体不明の画像が何かをまず確認するのが先ではないでしょうか。
それにこの判例の場合についていうならば、このたとえだけでは不正確です。
『正体不明の画像が現れました。
正体不明の画像が監視カメラに現れた時に、監視人が見回りに行ってみていない事もあるため、アラームが鳴るように設定されています。
しかし、このような正体不明の画像(胎児心拍監視装置に記録されていた「遷延一過性徐脈と思われる所見」に相当するところ)は、監視カメラのもつ技術的な問題のためにしばしば問題のない画像でもアラームが鳴ってしまいます。。そのためこのような画像が出ていた時は、必ず人間が現場を確認して(「妊婦のお産の進行状況、監視装置の状況などを確認するなど」)異常があれば警察に通報するのがAさんの直接の雇い主である警備会社の内規でした。
しかし確認に行くまえに、後に別のカメラにはっきりと不審と思われるものが映っており、警備規則によれば、そちらの確認の方が警備の優先順位が高いため従って先に対応しました(妊婦よりコールがあってお産が進行していると判断し準備をしました)。
この間に、別の泥棒が侵入しました。
結果からいって最初の正体不明な画像と、泥棒とは関係ないことが判明しました(『胎児ジストレスと判断出来たかもしれない時期と臍帯脱出には関係がなかった』)。
しかし、正体不明なものが映っていた時点で、警察に通報していたら泥棒の侵入は防げたかもしれません。
警備規則で定められていた事(「遷延性一過性徐脈と思われる所見」が現れた場合だけでは、通常すぐ医師に報告しない事)の是非はどうでもいい。正体不明なものが映ってアラームが鳴っていた時点で警察に通報していたら泥棒の侵入は防げたかもしれない。Aさんは警備会社ともども富豪の「防犯の期待権」に反したという理由で賠償を命じられました」
さて、この賠償をどう思いますか?

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/08/15 21:48

通りすがり様  | 2006/08/03 11:27:43

>0.05%なんて数字

失礼しました。
0,005%が正解でしたね。
ご指摘ありがとうございます。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/08/15 22:32

議論していて、一般の方々に「現在の分娩監視装置の技術レベル」が理解されていないのではと考えました。

残念ながら「現在の分娩監視装置の技術レベル」では「胎児の予後を予見することは不可能」ということです。

これは多くの文献で指摘されている事です。

「Am J Obstetr Gynec 174巻1382頁,1996年」でも「分娩監視装置を使用する場合と産科医の定時的聴診だけで胎児の状態をモニターする場合とを比較すると,胎児の予後に差はない」,「分娩監視装置を使用するほど母親の死亡率は上昇する」という結果が出ています。
分娩監視装置が発する擬陽性の所見ゆえに不必要な医療行為が行なわれる結果,母親の死亡率が上昇するからです。

では分娩監視装置を使用する意味は何でしょうか?

まず第一に、分娩監視装置を使用したほうが訴訟のリスク上、得策と考える医師は多いからです。
(今回の判例のように、分娩監視装置をつける意味の全く関係のない疾患についてまで後付けで結びつけられるのは、医療者側にとっては想定外の出来事です)

第二に、夜間や診療中で忙しい場合に「産科医の定時的聴診」などの妊婦の診察が出来ないことが多いため、その代替え手段として使っています。ですから「分娩監視装置に異常所見が記録されアラームが鳴った場合」は「擬陽性であるか否かを確認する」のが先であり、またその確認作業をする前に他に更にリスクの高い要因が発生していれば、確認作業は後回しにして対応するのが正しいリスク管理です。

以上の事をふまえ
「分娩監視装置が発する所見が「たとえ陽性であっても緊急性がない」異常所見の場合、擬陽性の所見ゆえに母体のリスクをかえって高める可能性とのバランスを考えれば、ここで直ちに産婦人科医を呼ぶ選択は医学的には間違い」
と自分は考えます。

投稿: 産科のない病院へ移った小児科医 | 2006/08/18 13:22

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