arret:オンラインバンキングと仮差押
最判平成18年7月20日(PDF判決文
Y会社は、A銀行のオンラインバンキングサービスで、従業員Bの未払い給料と退職金を12月28日付けでC銀行のB名義口座に振り込んだ。その振込指示は12月26日になされたが、その同じ26日に、Bの債権者XがY会社を第三債務者として、Bに対する給料・退職金の1/4を仮に差し押さえる仮差押命令を取得し、翌日27日にBとYとに送達した。
しかしもうオンラインバンキングで振込指示はしてしまったので、取り消せないので退職金債権などは存在しないとして、そのままA銀行からC銀行のB名義口座への送金がなされてしまった。
後日、XはBの退職金債権等を本差押えし、Y社に支払えという取立訴訟を提起した。
Y社はもちろん、もう払ったと弁済の抗弁。
さあどうなるだろうか?
原審は、振込指示をした後に取り消すことは通常できないし、振込指示をしたことで現実に送金がなされるという信頼もあるので、振込指示より遅れた仮差押によっては弁済禁止効は生じない、つまりもう弁済したという抗弁が成り立つと判示した。
しかし最高裁は、次のように判示した。
「取引銀行に対して先日付振込みの依頼をした後にその振込みに係る債権について仮差押命令の送達を受けた第三債務者は,振込依頼を撤回して債務者の預金口座に振込入金されるのを止めることができる限り,弁済をするか
どうかについての決定権を依然として有するというべきであり,取引銀行に対して先日付振込みを依頼したというだけでは,仮差押命令の弁済禁止の効力を免れることはできない。そうすると,上記第三債務者は,原則として,仮差押命令の送達後にされた債務者の預金口座への振込みをもって仮差押債権者に対抗することはできないというべきであり,上記送達を受けた時点において,その第三債務者に人的又は時間的余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情がある場合に限り,上記振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することができるにすぎないものと解するのが相当である。」
要するに、振込指示を撤回することがまだできたし、それを知っていたのだから、本件ではまだ弁済が完了していたわけではないとして、仮差押えの効力を認め、会社に二重払いをせよと命じたわけである。
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コメント
はじめまして。いつも楽しく読ませていただいております。
本件は,白黒どちらか明快な判断を示すべき事案だったと思いますが,「第三債務者に人的又は時間的余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情がある場合」などという極めて曖昧な基準が示されたことに少々驚いております。
投稿: Montjeu | 2006/07/21 18:33
債権の(仮)差押えっていうのは,第三債務者にとっては,ただでさえ,はた迷惑な話(自分にとっての債権者と,その人間に更に債権を持っている人間との関係のとばっちりがきている)だけです。
そこに輪をかけて,差し押さえが来たら振り込み依頼を必ず取消にしろという「第三債務者にとって何の足しにもならない余計な仕事」まで一律にやらせるのは妥当ではない,ということでしょうね。何の手続もしていない段階であれば,支払を止めてプールしておけばいいので,手間はかかりませんが。
投稿: h | 2006/07/21 21:00