« news:福井総裁の大もうけに思うこと | トップページ | mid:夏至の薬害肝炎訴訟判決 »

2006/06/20

市会議員のWeb名誉毀損

東京地判平成18年6月7日
判決文PDF
市議会議員が市議会一般質問の内容及びこれに基づく議員の見解を広報し及びウェブサイトに掲載した記事につき、原告らの社会的評価を低下させるものと認定し、記事の大部分について真実性・相当性の抗弁が成立しないほか、市議会議員であることによる免責も認められないとして、名誉毀損の成立を認めた事例

めずらしく、2ちゃんねるの名誉毀損ではない事件である。
事案概要は以下のとおり。
 映画「折り梅」の製作資金について、愛知県豊明市が同映画製作実行委員会を通じて原告会社に補助金を交付した。利益から返還するという条項の履行に関して疑念をいだいた被告は、市議会の一般質問でそのことを取り上げ、その内容等を被告が編集発行する広報誌及びウェブサイトに掲載した。この行為が原告らの社会的評価を低下させるものと認められた。

被告は山盛左千江市議で、そのウェブページは.macのサイトにある。
問題となった折り梅に関する記事は町作り通信47号として現在も同議員のページにある。
また、名誉毀損の指摘を受けてアップした折り梅関連ページもまだある。
名誉毀損だという通告書もある。

さて、これらについて裁判所(藤山コート)は、公共性・公益目的を認めつつ、真実性は大部分について否定し、かつ真実と信じるにつき相当の理由があったことも否定している。
そして議会における発言とその報告文書であるから免責されるべきだという被告側の主張に対しては、
「憲法上、国権の最高機関たる国会について、広範な議院自律権を認め、ことに、議員の発言について憲法51条にいわゆる免責特権の定めがあるからといって、その理をそのまま直ちに地方議会にあてはめ、地方議会議員の発言についてもいわゆる免責特権を憲法上保障しているものと解すべき根拠はない。そうであれば、地方議会の議員が議会内でした発言についてさえ免責される法的根拠がないのであるから、地方議会の外でなされた行為であって、しかも議会における発言を忠実に報告したともいえない内容の記事を掲載した行為が問題となっている本件においては、単に被告が地方議会の議員であることを以て免責される余地はないのであって、被告の主張は採用できない。
また、一般に地方公共団体の議会は当該団体の財務状況を監督すべきものであるから、その構成員である議員もまた地方公共団体の財務上の行為に誤りがある場合にはこれを糺すべき職責を有しており、その前提として疑問点を質すことも職責の一つであると考えられる。
しかし、それらの職責があるとしても、第三者の名誉を毀損することが直ちに許されるものではなく、議員が疑問点を質すに当たっては、既に相当な根拠に基づいて違法行為の存在が認められる場合でない限り、非公開の形式で行ったり、公開する場合には質問内容を単に対象となっている行為の内容とその根拠を問うものにとどめ、自らの判断を交えないものにするなどして、第三者の名誉が害されないように配慮すべきであり、このような配慮をすることと上記の議員の職責とは十分に両立しうるものである。被告の本件行為は、前記4で認定説示したとおり、疑問点について十分な資料や根拠がない段階で、それらの調査検討を怠ったまま、上記のような配慮をも怠り、原告らの社会的評価を低下させる事実を摘示したというものであるから、被告が議員としての職責を有することを考慮しても、その不法行為責任は否定し得ず、その程度も重大なものといわざるを得ない。」

根拠の乏しい、しかし疑惑として存在する問題について、議会での取り上げ方や、その一般への公開の仕方によっては名誉毀損となりうることについて、一般論としては否定する余地はない。
そして院内ではともかく、院外での発言が問題となる以上、通常の名誉毀損と同レベルの基準が成り立つと解することにも一理はある。
しかし他方で、議会で何が行われ、どのような発言がなされているかについては、有権者として知る権利がある。本判決は、この知る権利に資する活動を、しかも疑惑追及という非与党の本分ともいうべき内容に関して、強く冷や水を浴びせかけることになった。
実体的な評価としては色々とあるだろうが、被告議員が疑惑を抱いて公の席で糺すに至ったこと、そしてそれが結果的に誤りであったことなど、一連の経緯を明らかにしてこそ、豊明市の執行部に対する政治的評価も、被告議員自身に対する政治的評価も可能になるのである。
被害者に対しては、例えば謝罪と事実誤認を認める広告と、弁護士費用の賠償で調整することで足りるとすべきではないかと思う。

|

« news:福井総裁の大もうけに思うこと | トップページ | mid:夏至の薬害肝炎訴訟判決 »

法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

う~ん、また難しいというかヘンなことになりましたね。

どうしたものでしょうねぇ。

事実での争いでは、「役員への支払」などは根拠無く書いたと確定したのでしょうね。

>被害者に対しては、例えば謝罪と事実誤認を認める広告と、
>弁護士費用の賠償で調整することで足りるとすべきではないかと思う。

そうですね。
それが、どうもいきなり法的手続きのようですね。

わたしは「ウェディング問題を考える会第1回総会」で「いきなり裁判ではなく、最初に交渉するのがビジネス世界では常識だろう。それをネットワーク(社会)にも適用するべきだ」とアピールして結果として、民事刑事とも取り下げて貰いました。

それが2004年春のことだったのですが、2年半経ったら「裁判になるのが常識」のようなことになっているようですね。

こういう風潮はどうしたものかと思いますね。

投稿: 酔うぞ | 2006/06/21 08:17

 「いきなり裁判ではなく、最初に交渉するのがビジネス世界では常識だろう。それをネットワーク(社会)にも適用するべきだ」といわれても、匿名性が高度に保障された現在のネット社会では、IPアドレスの開示→氏名・住所の開示を裁判で早急に行わないと相手がどこの誰であるのかがわからなくなってしまうので、「最初に交渉」なんかしている余裕はないですね。相手がプロキシー等を経由している場合や掲示板等の管理者が素直にIPアドレスの開示等を行わない場合には「いきなり刑事告訴」するより他ない場合も少なくないですし。

投稿: 小倉秀夫 | 2006/06/21 08:53

この例では匿名もヘチマもないですよ。

インターネットだから(匿名もあるから)問答無用で市議会議員(の発言でも)名誉毀損で法的処置にする方がよい、と受け取られても困ると思うのですがねぇ。

投稿: 酔うぞ | 2006/06/21 10:58

 この例についてというより、ネットワーク社会のルールとして、「いきなり裁判ではなく、最初に交渉するのがビジネス世界では常識だろう。それをネットワーク(社会)にも適用するべきだ」なんてことを言い出すことの問題ですね。悠長に交渉などしていると、交渉が決裂した場合に法的救済を受ける可能性が低くなるシステムの元で、そうではない社会の常識を持ち込まれても困ってしまうなあということです。

投稿: 小倉秀夫 | 2006/06/21 11:48

う~ん、小倉さんのご意見は前から存じてますがね、分からないのが

ネットワークは一般社会とは別だ、いうのがこていてきに捉えられているとしか思えないところなんです。

ネットワークだって社会のツールなんだから、いつかは普通の社会の一部になるのに決まっているじゃないですか、そしてそれはクッキリと分けることなんて出来ない。

つまりは程度問題でしょう。
「今は、特別視するべきだ」というのなら分かる。
これが「ネットワークだからずーとと特別」と言うことはあり得ない。

「じゃあ、どうするの?」こそが一番の問題ですよ。
どうします?

投稿: 酔うぞ | 2006/06/21 12:09

 ネットワークの特殊性が弊害をもたらしているのであれば、その弊害を除去するように対処法を改めるというだけのことです。

 掲示板管理者やISPが「捜索差押令状を提示されなければ発信者情報は開示しない。アクセスログ等は長期保存せず、さっさと消去してしまう」というのであれば、「最初に交渉し、それが決裂した場合には司法的救済を求める」という通常のルールが使えない以上、「いきなり裁判、いきなり告訴」という現状のネットワークの特殊性に配慮した対策をとらざるを得ない。それだけの話です。

投稿: 小倉秀夫 | 2006/06/21 13:16

>「いきなり裁判、いきなり告訴」

 確かに話し合いで解決するという民主主義の基本的常識に欠けた好戦的態度で芳しくないですね。本人訴訟が得意な訴訟マニアじゃないんだから、不意打ちは当事者の感情的対立を招きやすく紛争解決を無駄に遅らせる弊害があります。いわゆる「日本の常識」が米国訴訟社会型へ移行しないことを願うところです。

投稿: ハスカップ | 2006/06/21 13:48

 ISP等に長期のログ保管義務を課したり、共通IDシステムが採用されていつでも発信者がどこの誰であるかを知りうる状態が確保されているのであれば、「最初に交渉をし、決裂した場合に裁判」という手順が可能になりますね。

 でも、酔うぞさんは、そういうシステムをISP等にとらせることに反対されていたのではなかったですか?

 すると、「最初に交渉をし、決裂した場合には泣き寝入り」をネットワーク社会の基本ルールとして確立すべきだというお考えだということなのでしょうか。

投稿: 小倉秀夫 | 2006/06/21 14:05

 技術に疎い自称「IT専門家」(文系人間?)の方が「匿名」「匿名」「匿名」と騒がれているようですが、TCP/IPの基本が解っていれば説明不要のとおり、TCP/IPの匿名性は一般人(と2ちゃんねら~逸範人)が思っているほど高くないですよ。むしろ最終的にバレバレになります。
 これを暴く技術が製品化されるだろうと思っていたら、結局でましたね。ここです。
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2006/06/09/12274.html
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2006/05/25/12079.html

投稿: PIPCT | 2006/06/21 14:08

>TCP/IPの匿名性は一般人(と2ちゃんねら~逸範人)が思っているほど高くないですよ。むしろ最終的にバレバレになります。

 最終的にバレバレになるのは、いずれの場合も管理された記録が残っている場合だけです。だからこそ「ISP等に長期のログ保管義務を課したり」すればいいわけで。

 どっちかというと、技術的問題ではないですね。

投稿: | 2006/06/21 14:50

 マスコミ報道によれば、京都府警はネットを流れているWinnyパケットの解析だけで正犯を検挙したみたいですから、あれだけ匿名性に配慮して暗号化もなされているWinnyネットですら、ネットワーク流通パケットの解析だけで匿名性を「解除」できるようになったのでしょう。

小倉秀夫さん>

>匿名性が高度に保障された現在のネット社会では

 なんか意味不明です。定義と根拠(できればソース付き)を示していただきたく思います。技術的に見て、現在のTCP/IPを基本プロトコルとするインターネットでは、匿名性が「高度に保障された」なんてことはどこにもないし、そんなことを言う人はいないですよ。

投稿: アキュレート | 2006/06/21 15:09

>最終的にバレバレになるのは、いずれの場合も管理された記録が残っている場合だけです。

 ログもない匿名串を刺したハッキングでも警視庁はハッカー逮捕してますな。ご存知? 「ログの保存がないと……」というのは幻想。Winnyはログなんかない独自仕様のP2Pネットワーク。
 匿名だ!ログだ!と空騒ぎする前にセキュリティテクノロジーの飛躍的進歩に目を向けて。せいぜい、某銀行等のATMのように指紋掌紋認証等のバイオメトリックスを導入すれば、共通IDとかいう変な素人設計のシステム導入なんか不要だと理解できる。

投稿: 通行人 | 2006/06/21 16:00

 だいたい自分が管理するBBSやブログやサーバなんだから、そこへアクセスしてきたパケットのヘッダを分析すればどこのルータからパケット飛ばして来た奴かは一発でわかるから、「匿名」とか言うのはなんでかな?IPアドレスをWhoisで調べればルータ管理人も容易に特定できるし。

 匿名串ったって、GCHQがやったように
HTTP_CACHE_CONTROL
HTTP_CACHE_INFO
HTTP_CLIENT_IP
HTTP_FORWARDED
HTTP_IF_MODIFIED_SINCE
HTTP_MAX_FORWARDS
HTTP_PROXY_CONNECTION
HTTP_SP_HOST
HTTP_TE
HTTP_VIA
HTTP_X_FORWARDED_FOR
HTTP_X_LOCKING
辺りをうまく叩いて擬似応答パケットリターンすれば、CLIENT_IP を吐かせることが出来るから、匿名串は本当の意味で匿名であるわけがない。

投稿: アキュレート | 2006/06/21 17:34

 警察ならば、匿名プロクシーを経由した誹謗中傷者を摘発してくれるというのであれば、「匿名さんに誹謗中傷されたらひとまず刑事告訴」というのは悪くない手法だと言うことですね。

 例えば、この町村先生のブログのコメント欄で匿名さんが匿名プロキシー経由で私を誹謗中傷したり、私の名義で私が言ってもいないことを投稿してみたりということがあった場合に、その匿名さんと私との間の交渉が決裂するまでの間、当該発言者を特定するための情報を町村先生が保管して下さるとともに上記交渉が決裂したときに速やかにこれを開示して下さるとともに、当該情報をISP等にもっていったときにその氏名・住所等を特定する資料を当該ISP等が保有していれば、「最初に交渉、決裂したら裁判」ということが可能になります。

投稿: 小倉秀夫 | 2006/06/21 17:45

>小倉秀夫氏

"匿名性が高度に保障された現在のネット社会"というのは間違いですよ.ギリギリと技術的に詰めたら,申し訳ないけどコレ出鱈目ですよ.
書いてある内容からすると変な法律屋に間違ったことを教わって信じているみたいだけど,TCP/IPの教科書くらいは自分で読んで確認とった方がいいよ.

投稿: VUPstar | 2006/06/21 17:48

>警察ならば、匿名プロクシーを経由した誹謗中傷者を摘発してくれるというのであれば、「匿名さんに誹謗中傷されたらひとまず刑事告訴」というのは悪くない手法だと言うことですね。

 申し訳ない。ゴメン。俺は技術屋だから法律のことはわからない。ITに詳しい弁護士さんに相談してみて。ただネット上は貴方のようにIT技術に疎いのに、ITに強い弁護士を詐称している法律屋がいるから注意して。

投稿: アキュレート | 2006/06/21 18:06

小倉さん

>現状のネットワークの特殊性に配慮した対策をとらざるを得ない。

へい。了解です。
「今の状況限定」で一般論ではないと理解しました。

投稿: 酔うぞ | 2006/06/21 19:37

> 警察ならば、匿名プロクシーを経由した誹謗中傷者を摘発してくれるというのであれば、「匿名さんに誹謗中傷されたらひとまず刑事告訴」というのは悪くない手法だと言うことですね。

一般人はまず警察に相談するのが妥当でしてよ?
事が起きたらまず刑事告訴なんて、そのような特殊例を殊更持ち出してあたかも常識でござい、なんて吹聴されると、まさに「天皇陛下を中心とした神国日本の武によりアジア太平洋地域に共栄兼を築くことこそが真の平和への道」と叫ぶようなものでしてよ?
「ふつうそういうことは考えない」というレベルでは同一水準じゃなくってかしら?

もう少し世間一般の常識を身につけていただきたいものですわね。オトナとしてのマナーですわよ。
あまりにも素っ頓狂なことばかり申されても皆様お困りですわよ?笑っていいのか嗜めるべきなのか、文字だけではなかなか判別がつきませんもの。

もし小倉君がまだ子供なら、会話のマナーを大人になるまでに身に付けて頂戴ね。

投稿: sugary | 2006/06/22 00:40

> 警察ならば、匿名プロクシーを経由した誹謗中傷者を摘発してくれるというのであれば、「匿名さんに誹謗中傷されたらひとまず刑事告訴」というのは悪くない手法だと言うことですね。

いや、それでいいんじゃないでしょうか。
否定意見も多いようですけど(笑)

>ISP等に長期のログ保管義務を課したり

私はこっちのほうは賛成ですし。
オッサルトオリ、ログ残しといて、刑事だの裁判所だの通すならいいんじゃないでしょうか。別に共通IDとかいらないですよね。

もちろん長期保管と一言で言っても期限は必要だと思いますが…


あれ?
って、なんだ、会社と自宅で見たときでなんか違和感が、と思ったらいきなりコメント欄の話題がエントリとずれてたのか(笑)

ええ、エントリの話に戻して。
確かにこれで市議会の内容が外から見にくくなるというのは避けて欲しいものなので、
その辺きっちり見失わないようにしたい(して欲しい)ものです。
#で、いいんだよな(笑)

今回の件はワイヤードがどうかというより、印象操作されないように注意されたし、というところが教訓でしょう。
村上ファンドネタもそうですけど、インサイダーとか、名誉毀損とかが駄目なんであって、印象で操作されたくないなと言う点は同意です。

投稿: サスケット | 2006/06/22 01:04

 なんかいつもの匿名論争へ論点ズラシの専門家がいるようですね。エントリのタイトル無視して失礼だとは思わないのでしょうか?

投稿: 通行中 | 2006/06/22 21:48

 この件の、広義の当事者のひとりです。
 コメンターの方々の事実誤認があるようです。
 「いきなり裁判」は事実ではありません。くわしく申し上げられませんが、さまざまなルートを使った交渉や意見交換が行われています。その上での提訴であると理解しています。
 「いきなり裁判」であるとは、本エントリをどう読んでも導き出されないと思いますが、いかがでしょうか?

投稿: ぽいんと尺 | 2006/07/07 19:48

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/31412/10608429

この記事へのトラックバック一覧です: 市会議員のWeb名誉毀損:

» 市会議員のWeb名誉毀損 [ネットde監視、地方議会]
Matimublogに市会議員のWeb名誉毀損という記事がありました。 東京地判 [続きを読む]

受信: 2006/06/23 18:28

« news:福井総裁の大もうけに思うこと | トップページ | mid:夏至の薬害肝炎訴訟判決 »