« JP-DRP裁定例検討最終報告書 | トップページ | matimulog2周年 »

2006/04/30

BMWドイツのグーグル八分と自力救済

旧聞だが、BMWドイツ本社のサイトがグーグル検索の対象からはずされたという事件が、今年の二月にあった。その後、復旧したようだが、これはグーグルの検索エンジンスパム対策基準により、スパム行為を行っていると認定されたために、一方的な削除措置が下されたということである。
その顛末はWeb屋のネタ帳に端的に示され、またそのリンク先も参考になる。

さて、グーグルと、グーグルが検索対象としている各サイトとの間には、直接的な契約関係はない。
グーグルのイメージ検索のようになると少し話は別かもしれないが、さしあたりグーグルのテキスト検索に限って言うと、検索対象ページの所有者とグーグルとの間には関係がないので、グーグルの規約がどうあれ、それに抵触しようがしまいが、検索対象ページの内容を自由に構成できることは、少なくともグーグルとの関係では当然である。
また他方、グーグルも、どの範囲を検索対象とするかは自由に決定できる。ポルノサイトは対象にしないとか中国政府批判サイトを対象からはずすとか、検索エンジンが引っかかりそうな内容を忌避するとか、自由である。

しかし、グーグル八分という言葉が象徴するように、グーグルがインターネット社会ないしインターネット上の諸個人の諸活動に対して有する強い影響力をてことして、検索エンジンの仕様や措置は、契約的に無関係なはずのインターネット利用者*に直接的な効果を及ぼすに至っている。
*サイトの所有者のみならず閲覧者も含む。例えばグーグルが日本のテレビ倫理並の厳格なポルノ規制を行えば、
利用者の行動に大きなバイアスをかけることになるだろう。

グーグル検索エンジンの仕様やその前提となるポリシーは、インターネット利用者の行動内容に大きな作用がある
ということを直視するならば、そこには一種の「規範性」すら見いだせるのだ。要するに検索エンジンスパム対策として一定の行為を禁止するグーグルの方針は、グーグルと無関係のはずのサイト所有者に、規範として行動を制約する効力を持つ。そしてグーグルが特定のサイトに対して検索対象から外すという措置を実施した場合、それは対象サイト所有者とは無関係の措置というにとどまらず、グーグルと対象サイト所有者との関係を規律する個別規範の定立であり、その執行(=実行・実力行使)でもある。

# 単なる事実上の効果から、規範としての効力があるといいうるためには、何かが必要な気がするし、その何かが何かはよく分からないところだが、それはさしあたりパスすることにしよう。

さて、独占企業や公益企業が定める契約条件には、私的自治の原則が妥当する社会においても、契約自由の原則が大きく制約されることがある。電気ガス水道は供給義務があり(契約締結の自由の否定)、約款内容が法的に規制される(契約内容の自由の否定)。グーグルのポリシーも、グーグルが独占ないし寡占的な地位をもち、あるいは公益的な業務であるということになれば、既存の公的規制の対象となりうるかもしれない。
しかしながらグーグルが電気ガス水道事業者と違うのは、グーグルは主権国家内に本来的にとどまらない活動範囲をもつという点と、先に指摘したようにグーグルのポリシーは契約関係にないインターネット利用者全体に影響を及ぼすという点だ。電気ガス水道事業者の約款は、あくまで電気ガス水道事業者と利用者との契約関係にとどまるのに対し、グーグルはそうではない。
そうすると、独占企業・公益企業の約款とは同列に論じられず、それと同様の約款規制がなされるべきかどうかという問題の建て方も適当ではない。

もう一つ参考になりそうな法制度としては、労働協約の普遍的効力がある。これは労働組合と企業との間の取り決めが、当該組合の構成員以外の労働者にも効力を持つという話であり、企業別組合が一般的な日本では雇用契約上の問題になりそうだが、産業別組合が一般的なヨーロッパでは、より一般的な効力の有無が議論される。
# これについても詳しくないので、さしあたりはパスしておく。

もちろん検索エンジンはグーグルだけが行っているわけではないし、インターネットという単位で「社会」を観念することは、現実社会との関わりという点でももちろんだが、ネットワークの多様性が進行している現在、ますます妥当性が怪しくなってきている。
しかし、それでもグーグル八分現象は、その正当性(正統性か?)根拠や適法性の保障(事後的な匡正手段も含めて)のあり方を考える必要があることには変わりがない。手続法的な関心でいうと、グーグルのポリシー制定過程における利害関係者(ステークホルダー)の関与形態や、個別の措置をとる上での決定過程と執行過程への対象者の関与や不服申立可能性などが重要な課題である。
例えば、BMWはグーグル八分に対して、上記サイトで「「もうしませんから戻して」と泣きついたという見方が妥当かと」と指摘されているが、BMWなら泣きついて聞く耳を持ってもらえると思うが、それが普遍的に利用できる不服申立窓口となっているかどうかは、グーグル八分の正当性を評価する一つの要素である。

|

« JP-DRP裁定例検討最終報告書 | トップページ | matimulog2周年 »

パソコン・インターネット」カテゴリの記事

コメント

けっこう、こういう書き方が実際に近いと思います。

http://beyond.2log.net/akutoku/topics/2006/0419.html

投稿: 酔うぞ | 2006/05/01 21:27

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: BMWドイツのグーグル八分と自力救済:

« JP-DRP裁定例検討最終報告書 | トップページ | matimulog2周年 »