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2006/03/23

divers蛇足判決について

井上薫判事が、再任不適当とされて再任希望を取り下げたことから、「立場上これまで抑えてきたが、今後は司法の現場の真相を全部暴く」と怪気炎を上げているそうである。ZAKZAK 2006/03/20の記事をもとに、すこし考えてみた。

ボツネタ落合ブログ判例百戦など参照。
またこのブログでも以前取り上げたことがある。jugement:井上薫判事、また当事者として登場news:井上薫判事が浅生重機所長を訴追請求

 井上薫判事のいう「蛇足判決」というのは、結論に影響を及ぼさない法的見解や事実判断などをを理由欄に書くことで、典型的には靖国参拝などによる慰謝料請求訴訟で、請求棄却判決を下すにもかかわらず靖国参拝が違憲だという「判断」を判決理由に記すことをいうようだ。
「司法のしゃべりすぎ」(新潮新書)は読んでいないが、おおむねそのようなことであろう。

 そのこと自体は、当然のことでもある。
 憲法判断に限らず、法律解釈についても、判決の結論に影響しない部分について裁判所の判断を明らかにしても、それは当該判決書を執筆した裁判官および合議体ならその構成員の個人的意見の表明に過ぎず、それ以上の意味があるわけではない。特に下級審ではそうである。
 そのような個人的意見を判決書という公文書に記す権限は裁判官にないはずというのも、もっともである。とりわけ裁判官の任免には、民主的コントロールが及ばない。個人的に、国民として参政権を行使し、また表現の自由を享受することは大いに認められて然るべきだが、判決書にそれを記す権限は具体的事件の解決に必要な限度で認められ、それを越えては存在しない。例外は行政事件訴訟法の事情判決である。

 最高裁の場合は、少し事情が異なる。司法行政上の指針を判決文で示すといった例がこれまでも法定メモ解禁のレペタ判決などで行われてきた。司法消極主義に凝り固まっている最高裁としても、自らの権能の及ぶところを規律するのに遠慮することはない。
 その根拠法は、憲法にも最高裁の規則制定権が規定されているが、規則という形式をとらなくとも、三権分立の下で規範制定権能が認められているという点に求められる。
 さらに、判例の不遡及原則という問題もある。判例が法規範として事実上機能する以上、その立法的作用が当然に遡及適用されるというのでは正義にもとることも考えられる。そのような場合、結論は従前の判例を踏襲するが、将来の判例変更を示唆ないし明示するということがあり得る。
 そして司法権の頂点にたつ組織として、他の国権との権力闘争を余儀なくされるという場面も否応なく生じることがあり得る。アメリカで違憲立法審査権を確立したのはそのような権力闘争の結果であったし、日本でも裁判の独立を実のあるものとしたのは行政・立法の干渉に対する抵抗の成果である。それが完全に成功しているとは評価しないが、一定限度は最高裁を中心とする司法部の努力があってのことであろう。

 以上のように、少なくとも下級審にあっては井上薫判事の「しゃべりすぎ批判」にもっともなところがあるといえるが、だからといって「現状は判決文の半分が蛇足。判例にいたっては8割が蛇足だ。蛇足を省けば裁判のスピードは倍以上になり、不足している法曹界の人員も半分で済む」とかいうのは眉唾ものの発言である。
 蛇足判決を書く理由として「裁判官がスターになりたい」というのも、また「今も裁判官の3−4割は左翼ではないか。政府を攻撃する訴訟を担当すると千載一遇のチャンスと勇み立ち、大々的な蛇足を加える」とかいうのも、およそ現状の認識としてずれているとしかいいようがない。

「靖国問題などはポリシー同士の衝突だから、選挙で自分のポリシーに合う人を選べばいい。自分のポリシーが反映されないからと、裁判所に頼るのは間違い」
 この部分についても、そもそも司法権は多数の暴力に対抗する少数者の人権の砦という面があり、選挙で選択されたポリシーにより侵害される人々の権利は、司法が救済するのが本筋なのである。そのあたりの認識は井上薫判事には全くないようである。この発想法は、破産免責の杓子定規適用で軒並み抗告審で覆された井上決定シリーズを彷彿とさせる。

 井上薫判事の「判決理由が短すぎる」という再任不適当の理由については、実際の判決文を見てみないことには評価ができないが、以上のように考えると、やはり井上薫判事の見解は浅薄なだけでなくゆがんだ価値観も潜んでいそうで、裁判官として再任が適当でないとされた判断は相当であったと評価できよう。

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