arret:根抵当権と譲渡担保を原因とする売買が記載された登記
最決平成17年11月11日
根抵当権者が競売の申立ての際に提出した登記事項証明書に,当該根抵当権の登記のほかに譲渡担保を原因とする同人への所有権移転登記が記載されていても,同登記事項証明書は,民事執行法181条1項3号の文書に当たる
根抵当権者が、同時に同一不動産の譲渡担保を原因とする売買で買い主となって登記されている場合、根抵当権は混同により消滅するので、その登記事項証明書は担保権実行のための文書にならないとしたのが、原々決定と原決定。
これに対して最高裁は、「本件登記事項証明書には本件所有権移転登記の記載もあるが,その登記原因は「譲渡担保の売買」であり,譲渡担保権を取得したというだけでは本件不動産の所有権が確定的に抗告人に移転しているということはできない。したがって,本件所有権移転登記があるからといって,本件根抵当権が混同により消滅したということもできないし,本件登記事項証明書が法定文書に当たらないものということもできない。」
極めて常識的な判断だが、理論的には譲渡担保を「売買の形式を借りた担保権」と純化する方向に踏み出していることに注目すべきだ。
こうなると、譲渡担保権者による第三者異議訴訟や取戻権の主張というのはどうなんだ、と突っ込みたくなる。
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コメント
抵当権については、短期賃貸借による妨害がこわかったため、一番抵当がとれるようなときですと実務的には譲渡担保をすすめていましたね。所有権にもとづく明渡しができるのはおいしいんです。
平成11年判決以降、抵当権の執行妨害がそれほどこわくない(実務的にはまだまだこわいところもあります)のであれば、譲渡担保を所有権構成から担保権構成にしてもそう問題はないと思います。
ただ、予防法的には譲渡担保をまですすめるかなあ。(固定資産税や譲渡税もからむので利害は複雑)
投稿: 岡本 哲 | 2005/11/15 09:47
ちょっと考えただけですが登記原因をたんに「売買」としていたら結論は変わらないでしょうか。
また混同で消滅するというのは二つ併存させておくのが無意味だからという趣旨だとするとこの場合無意味とはいえないから消滅しないという解決方法もありえないでしょうか。
今回のなお書きの部分は個人的には傍論
だとざっと見た限りでは思いました。
投稿: 東馬 | 2005/11/15 20:06
傍論ということはないでしょう。その部分が直接の破棄事由なのだから。
投稿: 町村 | 2005/11/15 20:56
本件の許可抗告で破棄事由に関係する
民訴法上の条文は
民訴337条5項だと考えるのですけれども
この場合の直接の破棄事由となったのは民事執行法181条ではないんでしょうか?
もう一度読み直した限り、
抗告人は誰かに異議を申し立てられたわけでもないのに、混同という実体的判断がされ執行を却下されたことに関して最高裁は「法定文書の提出さえあれば,担保権の存在について実体判断をすることなく」と言っているので
この部分だけで破棄事由たり得ると思いました。
もっとも混同に関しては実体的判断なのか
形式的判断ともいえるのではないかとも
考え得るのですけれども。
なお、直接の破棄事由が混同および譲渡担保の
法的性質になるのであれば、「なお」という
表現をことさらに使う必要があったのか
これは適切かという疑問があります。
投稿: 東馬 | 2005/11/15 21:30
たしかになお書きというのは少しおかしい気もします。
しかし、法定文書は担保権の存在を強く推認させる文書であることが必要で、譲渡担保による移転登記があっても法定文書とならないわけではないというのもポイントではないですか?
投稿: 町村 | 2005/11/15 23:11
>しかし、法定文書は担保権の存在を強く推認させる文書であることが必要で、譲渡担保による移転登記があっても法定文書とならないわけではないというのもポイントではないですか?
これはやはり誰からも異議がないのに
というところが本件では重要なポイントだと思うのです。
異議があって初めて実体的判断ができる
ということを最高裁は確認し、
なお念のためという形で仮に異議があっても
混同では消滅しないという傍論的判断をしたのではないでしょうか。
いずれにしろ、
原原審に破棄差戻されたわけですが
差戻一審が許可決定をするのは確実として
その後、仮に第三者から異議が出たときに
裁判所は譲渡担保権の性質の判断に拘束されるのかでこの部分に先例の意義が
認められるのでしょうけれども。
譲渡担保はなぜ仮登記担保法のように法律化されないのかなぁ。立法の動きすらないですよね。、。。
投稿: 東馬 | 2005/11/16 08:16
譲渡担保は田舎の小さい物件ならつかえても、都会の大型物件にはつかいにくいので、国レベルの改正の視野にはなかなかはいってこないんでしょう。
仮登記担保なのか譲渡担保なのかで問題になり弁論主義の限界を争われたものが平成11年の最高裁判例でありました。担保権者からの譲受人の保護が譲渡担保のほうがあついんですよね。
投稿: 岡本 哲 | 2005/11/16 17:19
>平成11年の最高裁判例
残念ながらみつけられませんでした
替わりに平成14年の同様に弁論主義が問題となった判例をみつけましたので載せておきます。
最一小判平成14年9月12日判時1801号72頁
>譲渡担保は田舎の小さい物件ならつかえても、都会の大型物件にはつかいにくいので、国レベルの改正の視野にはなかなかはいってこないんでしょう。
なるほど。でもいつまでも解釈に委ねておく
つもりなんでしょうか。
投稿: 東馬 | 2005/11/17 21:19
すいません、判例は平成14年のその判例でした。某法科大学院の答案練習でつかったばかりなのに年代を間違えてしまいました。
投稿: 岡本哲 | 2005/11/17 21:28
了解しました。
投稿: 東馬 | 2005/11/17 22:38