election:総務省の回答
本日、このブログで書いたノーアクション・レターの回答が電話でやって来た。
なかなか、はっきりきっぱりとした見解が出るものではなかったが、要するに「(1)外形上選挙運動と認められる行為」や、「(2)142条等の禁止を免れる行為とみなされるもの」は、ネットワークを用いてすることができないというのが基本である。
その上で、各党や候補者の政策を収集して比較するなどのページを作ることは許されるだろうけれども、それに論評を加えるなどすれば、それが選挙運動と見なされるおそれが生じるという。
公示前においては、政治活動が規制されるわけではないが、それが選挙運動とみなされるものであれば、事前運動ということになり、やはり違法となる。
そうなると、公示前後を問わず、選挙運動とみなされる行為は禁止されているという点で同じではないかと質問してみたところ、それはそうだが、公示後においては、選挙運動とみなされる行為に加え、上記(2)が禁止される点で異なるとのお答えであった。
なお、総務省としては平成14年段階でIT時代の選挙運動に関する研究会というのが行われ、報告書が作成されている。その立場が現在でも維持されているとのことである。ウェブでも見られるということだったが、このサイトには肝心の報告書がリンクされておらず、報告書とあるのは報告書の目次だけ、報告書の要旨がPDFながら最も詳しい。
(*追記:目次PDFに埋め込まれているリンクをクリックすれば報告書本文にアクセスできるとのご指摘を、総務省担当者から頂いた。しかし私の環境ではどうもうまく読み込めないようである。ウィンドウズのファイアフォックスでアクセスしてみると、ちゃんと読めた。)
しかしもっと詳しい議事録の中で、上記の件について事務局(つまり行政当局)の見解が端的に表れている個所が以下の部分である。
---
○戸波委員 その1と関係しまして、ちょっと基本的なことをお伺いしたいんですけれども、普通ですと、候補者はHPを持っていますよね。それで自分の政策のアピールや何かをしていますね。それが選挙の期日前であれば政治活動だと基本的にみなされるんですけれども、それが選挙の公示後になりますと、何らかの書き換えをするだとか、そのまま政治活動文書と見なされるのか、あるいは、それで選挙運動用文書ということになるのかという、そこの見極めといいますか、切り換えというのは、これは実際にどうなるんですか。
○事務局 選挙運動と政治活動の概念の違いということになりますと、選挙運動のほうが、特定の選挙において、特定の候補者の当選を得るために積極的に働きかける行為、間接的直接的に働きかける行為ということでございます。いわゆるいろいろな形態も含めまして、今までの文書でありますれば、その貼った時期とか貼った枚数とか、それと、その内容等含めて総合的に判断するわけなんです。ただ、HPの場合は、そのまま継続して内容だけ変わるということになりますと、貼った形態とか時期とかというのを考慮になかなか入れにくくなると思うんですけれども、その内容的にやはり特定の選挙に私が立候補しているとか、そういう内容的なもので見極めていくということになるのではないかと考えております。
○戸波委員 同じ文書がずっとあって、でも、選挙に関係したことが入っていると事前運動の問題が出てきますね。もし入っていると、やっぱり事前運動の取締りの対象にはなるということになりますね。
○事務局 はい。ですから、選挙運動は期間中しかしちゃいかんというのがございます。事前事後については、政治活動はできるわけでございますね。ですから、投票の呼びかけ等がなければ、働きかけなければ、通常政治活動として認められるわけでございますね。ところが、期間中にはいりまして、それを書き換えますと、その直接的に呼びかけをしなくても、期間中にわざわざそういうことを書くことは、運動に紛らわしいことをやるということで免れる行為ととらえ、脱法行為としてつかまえるんだということになりますね。ですから、選挙運動類似行為と見なされるわけです。ですから、事前の場合においては、そもそも投票呼びかけとか、投票依頼とかの文書をすることはできないということになります。
---
(http://www.soumu.go.jp/singi/it_senkyo_10_1.html)
なかなか、これではっきりしたことというのはないのだが、出発点に戻って、「選挙運動」と外形上みなされる行為はどういうものかが問題となる。これを幅広くとらえれば、それだけ自由な言論は制約を受け、逆に狭く解せば自由は広がるが選挙運動規制が空洞化することとなる。
しかし、公示前の政治活動は選挙運動ではなく、それは公示後も同じなのだから、やはり政治活動を禁止されるのは解釈としても成り立たないように思われる。
なお、総務省担当者の対応は素晴らしく、難解な法律用語は分かりやすく言い換えてくれるなど、一般市民に対する情報提供を実質的にも進めようという姿勢が強く感じられた。
| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: election:総務省の回答:
» 選挙についての論評と表現の自由 [民法教員のタテマエ? 2nd ed.]
8月29日に、ノーアクションレターとはで、南山大学の町村先生が、ブログ上で政治的な言論表明をすることが公選法に触れるかどうか、総務省に問い合わせたという話を紹介しましたが、その回答が今日町村先生に伝えられたそうです(Matimulog「election:総務省の回答 ?」:トラックバックをいただきました)。
読んでみても、実は100パーセントの理解に達したわけではなく、こういうことをしたらどうなるんだろうという疑問はつきないのですが、ひとまず総務省の迅速かつ丁寧な対応には感心。
理解でき... [続きを読む]
受信: 2005/09/05 23:42
» みんな、インターネットは新聞に類する通信だって言おう [ぢょやの「なんじゃ言よんな!」]
候補者に関係ない人ならブログの更新とかOKじゃんとのたまってきて、コメントを頂い... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 00:06
» 要するに様々な選挙活動の容認によって多様な人々に平等に参政権を保障してほしいということ [ぢょやの「なんじゃ言よんな!」]
「誰にも平等に参政権を保障されるように、インターネットの利用に関わらず多様な選挙活動が行えるように、公職選挙法を改正してほしい」というのが私の主張(一番の願い)です。 [続きを読む]
受信: 2005/09/06 00:07
» 「公職選挙法に抵触しないブログ活用」に関わる宣言 [404 Blog Not Found]
これ、必要にして十分な宣言ですね。
週刊!木村剛 powered by ココログ: [ゴーログ]公職選挙法に抵触しないブログ活用のためにということで、「週刊!木村剛」は、上記のような法律解釈に立って、その範囲内で言論を営む限り、選挙あるいは選挙報道に関する評論をブログ....... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 10:34
» [NEWS]総務相の見解 [狂詩曲の果てに]
[http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2005/09/election_ecb5.html:title] とりあえず投票の呼びかけじゃなければいいのか? どちらにしても、新聞か駅の選挙公報容れでしか候補者の見解を記した文書が手に入れられないのは問題じゃないのかな? TVの政見放送だって、見たいと思って見られるほど一般的な社会人に暇があるとは到底思えないしな。 いっそのこと、総務省が選挙公報サイトを立ち上げるべきじゃないのかな? 最低限、紙面... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 11:35
» 各政党トップの演説をまたUPします [GripBlog 〜私がみた事実〜]
公示日が過ぎ、選挙活動が白熱しています。 各政党とも、公示日前と後では、その迫力が全く違うと感じながらテレビを見ています。 公示日前の演説を関西のくまさんに撮影していただいてUPすることができましたが... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 12:30
» チャーチルを捨てた英国人 [PARDES]
イギリス人の政治感覚の優秀性は、世界的に定評があります。清教徒革命、名誉革命と自らの手で議会制民主主義を育て、その制度が世界各国の模範になっていることからも伺えます。そのバランス感覚は、到底日本人やアメリカ人などの及ぶところではありません。そのイギリス人の政治性を語る最も象徴的なものに、大宰相ウィンストン・チャーチルに対する信じがたい態度に如実に現れています。
チャーチルが戦時内閣を組織したのが1... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 15:47
» 146条についての二人の迷走についての迷走 [性・宗教・メディア・倫理]
インターネット選挙運動とは別に、ブログで選挙に関する話題、特に特定候補者や政党の名前を出している場合に公選法146条に反しているため、禁固や罰金の罰を受ける可能性があるということを記事にしている人が見られます。
木村剛さんのブログhttp://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2005/09/post_03d3.html#moreではこう述べられています。
“つまり、どのような立場の人であっても、そして、著述や演芸等いかなる表現方法によっても、候補者... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 23:08
» ブログという独裁の実現 [鳥新聞]
国に公職選挙法について質問されていた町村氏に電話で回答がきたそうである(Matimulog「総務省の回答」)。そこで町村氏が仰っている「公示前後を問わず、選挙運動とみなされる行為は禁止されているという点で同じではないか」というのは、ブログと... [続きを読む]
受信: 2005/09/06 23:41
» ブログで選挙関連記事を書くことは違法か。 [la3751の日々雑感]
ブログで選挙関連記事を書くことは、公職選挙法に違反し、違法である
ということが盛んに言われる。
現に、私の記事にもそういう指摘があった。
そこで、総務省選挙課に電話した。
お仕事柄、役所とお話しするのはお手の物でして(笑)。
役所の言い分は、結論から言えば、「特定の候補に票を誘導したり、
特定の政党を支援するのでなければ、合法」ということだった。
しかし、その過程で、かなり緊迫したやりとりがあった。
la3751:「マスコミがやっているようなものなら、いいのか」
... [続きを読む]
受信: 2005/09/08 23:30
» 公職選挙法逐条私見(って、大げさな) [北海道に住む国家公務員日記]
まあ、選挙も終盤だし、ここいらで、ネットと選挙をめぐる公職選挙法の規定について、まとめておこうというわけです。
念のため申し添えておきますが、以下は、単なる私見です。さらにいえば、物凄くくだらないです。
まず、前提として用語を定義しておく。
「狭義の政治活動」=「すべての政治活動」-「選挙運動」
公職選挙法は、選挙のみを規制するものであるから、「狭義の政治活動」と「選挙運動」の区別は重要である(が、その区別はあいまいで、非常に難しい)。
*********... [続きを読む]
受信: 2005/09/10 18:17
» ネットと政治関連 [Third Stage (PukiWiki/TrackBack 0.4)]
政治からの発信 国会議員ブログ/サイトの現状 公職選挙法の改正(ネットでの運動解禁) 公職選挙法改正に関する政治家の意識 政治家ブログの今後の展望 ブロガーの実践 炎上の上手な鎮火例 政治への参加 ブログ世論 ブログの現状 児童ポルノ法 ...... [続きを読む]
受信: 2008/12/18 10:50
» ネットと公職選挙法違反 [ケミストの日常]
まずは日経新聞の記事から。
選挙戦、ネットでの応援は要注意 書き込み、公選法違反の恐れ
衆院選が18日公示され選挙戦が本格化する中、インターネット上のブログなどに公職選挙法違反に問われかねない書き込みが増えている。特定候補者や政党に投票を呼び掛けたり、中傷したりすると、個人のブログや会員制の交流サイト(SNS)でも違法になる。“勝手連”的な善意の応援も問題となりかねず、識者から「ネット選挙の自由化を進めるべきだ」との指摘も出ている。
公示後、政党や候補者はホームページ(HP)やブログの更新を... [続きを読む]
受信: 2009/08/23 18:34
コメント
以前、町村先生が「憲法の表現の自由の点から見て問題だろう」とおっしゃってましたが選挙実務ハンドブック(これに従って実務をやる)を見るとありとらゆる方向に規制があって、インターネット・HPが使える・使えないという問題はとても大きいけど、現在のポスターや宣車の規制なども合わせてみると、どうなるんだろう?といった印象を受けます。
そこで、現在のインターネット・HP以外のところを現状のままで、それらに合うようにHPを使えるようにする、となるとほとんとテンプレートを総務省が用意するようなイメージになってしまいますね。
実際、ポスターや宣車の作り方はテンプレートがあるわけですから、HPについてもテンプレートが出来ても不思議じゃない。
どんなものでしょうか・・・・・。
投稿: 酔うぞ | 2005/09/06 08:34
公職の立候補者やその支援者・関係者が行う選挙運動について、表現の自由が制約されることには異論を唱えていません。
酔うぞさんのいうのはそういう問題でしょう?
その上で公平なインターネット利用の選挙運動を促進していけばよいです。テンプレートも一つのやり方かもしれません。
しかし選挙運動と政治活動とは違うものですし、選挙運動と紛らわしいものをすべて規制対象にしてしまえば、政治的な発言は一切できなくなります。
それは表現行為の過剰な規制だろうということです。
選挙運動ではない行為を前提に考えているので、選挙実務ハンドブックなるものは関係がないのでは?
投稿: 町村 | 2005/09/06 10:17
>しかし選挙運動と政治活動とは違うものですし、
>選挙運動と紛らわしいものをすべて規制対象にしてしまえば、政治的な発言は一切できなくなります。
選挙期間中の活動については、ほぼこの通りですね。
えっと政治活動が出来ないではなくて、政治活動が選挙運動だ、と言う意味ですが。
その結果として、無所属はものすごいハンディキャップの中で選挙戦を戦います。
わたしは、中の人だもんだから選挙期間中も通常の戦時活動が続くということに、頭がまわらなかったですね。
この部分の問題は具体的には立候補者のHPのあり方などになりますが、例えば昔の勝手連の要領で賛成(反対)HPが勝手に出来るのは、政治的な自由の観点から重要だと思いますが、
どこかで候補者(政党)が隠れて、一見無関係のように見せるサイトを作る、というのはあるだろうな・・。
投稿: 酔うぞ | 2005/09/06 14:09
早速の、コメントありがとうございます。結局、総務省も146条の目的に関する条件(“142条又は143条を免れる”の部分です)は外れないと解釈していると考えてよろしいのですね?
投稿: sleepless_night | 2005/09/06 23:37