Jugement:医師の医療事故報告義務違反で賠償を認めた事例
京都地判平成17年7月12日
医療機関が医療事故を引き起こした場合において、受任者の委任事務顛末報告義務があること、そしてそれがカルテの提出義務の根拠となることは、これまで学説上論じられてきた。
他方、説明義務違反を理由として、たとえ結果的に救命は困難だといえる事例でも、慰謝料請求が認められるということは裁判例でも認められてきた。
ところがこの判決では、医療事故後に、その原因が容易に認識できたのに、これを隠して患者にきちんと説明しなかったことをもって、説明義務違反による慰謝料請求を認容したのである。
以下、関係部分を抜粋。
-----
(1) 被告仁心会の事故原因の調査・報告義務
原告らは,被告仁心会が本件医療事故後の事故原因等の調査・報告義務を怠ったとして,診療契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,同被告に対し,慰謝料の支払いを求めるものであるが,原告Aの蕁麻疹の治療についての診療契約は,原告Aの法定代理人である原告B及び原告Cと被告仁心会との間で締結されたと認められる(弁論の全趣旨)。
これに対し,被告仁心会は,診療契約締結の事実を否認するが,原告Aは被告病院の受付を通じて被告Dの診察を受け,被告仁心会はこれについて診療報酬を請求しているのであり(甲24,弁論の全趣旨),診療契約が締結されていることは明らかである。
受任者である医療機関ないし医師は,診療契約上の債務ないしこれに付随する債務として,患者の治療に支障が生じる場合を除き,委任者である患者に対し,診療の内容,経過及び結果を報告する義務があるといえ,このことから,委任者である患者について医療事故が起こった場合,委任者である患者に対し,医療事故の原因を調査し,報告する義務があるといえる。
本件においても,被告仁心会は原告Aに対して,上記診療契約に付随して,上記報告等をする義務を負っている。ただし,原告Aの本件医療事故当時の年齢(6歳)に照らせば,被告仁心会が上記報告等をする相手方は,実際上,原告Aの法定代理人である原告B及び原告Cということになると考えられる。
(2) 原告Aの請求
本件医療事故発生後の被告らの対応(前記1(1)イ)によれば,そもそも塩化カルシウム注射液が蕁麻疹に対して効能・効果を有しないことや,コンクライト−Caが静脈注射による使用を予定していない薬剤であることは,極めて単純な調査で直ちに判明する事柄であり,被告仁心会は,本件医療事故後間もなく,この事実を認識していたと推認できるところ,平成13年3月の京都府宇治保健所に対する報告や,同年4月の京都府医師会医療事故担当係あての医療事故報告書においても全く上記の点に触れることなく,原告らに対する説明も,平成13年4月10日付けの原告Bに対する書面(甲18)においても,被告Dが指示を妥当であるとしており,被告Eも指示どおりの医療行為を行った旨述べていることが記載されており,本件医療事故の事故原因の説明・報告としては誠意あるものとは到底いえない。
そして,被告仁心会は,本件医療事故から約2年10か月経過した平成15年11月13日になって,初めて,塩化カルシウムが蕁麻疹を適応症例として認めていない薬剤であることを認めるに至ったものである。
以上によれば,被告仁心会が,原告Aに対して,本件医療事故について,事故原因の調査・報告義務を怠ったといえる。
原告Aは,被告仁心会の上記義務懈怠により相当の精神的苦痛を被ったと認められ(弁論の全趣旨),これに対する慰謝料としては100万円が相当である。
-----
| 固定リンク
コメント