日本語表現力と法律家の適性
ある研究会で議論になった話だが、一般的な日本語表現力と法律家の表現力とは異なるのだろうか?
例えば能の構成は、序破急といわれる。
一般的には起承転結、または序、本論、結論ということで説明される。さらにはフランスの一般的な論文でとられる二部構成もある。
こういう構成に対して、法曹の文章は対立する立場の一方を取って、他方を叩くというワンパターンが多い。
これも起承転結型と言えなくもないが、ここから受験生お得意の次のようなパターンがうまれる。
・本問はこれこれが問われている。
・この点判例通説は何々である。
・これに対して反対説もある。
・確かに反対説も一理ある。
・しかし、それはダメである。
・思うに何々であろう。
・従ってこれこれと考える。
単純な問題ならこれでもよいが、込み入った問題はこう単線的には行かない。そして実務で取扱う問題は、結構込み入っているものである。
ある弁護士さんによると、最近の若いセンセイが準備書面でこれをやったそうだ。「あんた誰の味方なの? 」といわれたそうだ。「もう試験は終わったんだから、こっちの味方してよー」と。想像するに、相手方の主張に「確かに・・ともいえそうである」なんてことを書いたのだろう。
この一見分かりやすい構成に何が何でも押し込もうとするから、肝心の論じる部分や主張をおろそかにするのである。
もちろんそれがしっくりくるときはそれでもよいのだが。
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コメント
より簡易なものとして
1 「たしかに~とも解しうる。」
2 「しかし~。」
3 「よって~。」
というパターンもあります。
ところが1で論理的破綻を来している人が少なからずいる。
~と到底解しえないことを平気で「解しうる」とやってくるわけです。論述のパターンに載せることだけに一生懸命で、中身を考えずに書いていることが良くわかります。
投稿: h | 2005/06/25 09:31
そこで「考える」症候群ですよ。
「解しうる」というのは客観的な話ですが、「考える」のは文字通り勝手ですから、論理的に否定できない。
投稿: 町村 | 2005/06/25 10:06
理屈で行き詰まると「翻って考えると」と切り返したりします。
投稿: 奥村(大阪弁護士会) | 2005/06/25 11:35
むかしの哲学書には、先生の書かれる受験生的お得意パターン類似のものがありますよね。トマス・アクィナスのスンマなんかは、パターンが似ていると思いますが、なかなかおもしろいですね。物事を単純化させるのには、便利なテクニックかもしれません。試験では短い時間にとりあえずの答案をまとめることが要求されますから。
投稿: 学生甲 | 2005/06/25 12:24
と、トマス・アキナスですか!
さすがに学生さんは気宇壮大で結構なことです。
小手先テクで試験を乗り切ろうなんていうのはトマスさんに似合いませんので、是非内容の方もトマス・アキナス級を目指しましょう。
投稿: 町村 | 2005/06/25 12:58
レポートの立論を誤魔化すとき「~思うのですが」「~と言えなくもないと思います」「~とは良く言われますが」「~に異論はないと思いますが」を連発したら、教官から「そんなイイカゲンな表現書いていたら永久に司法試験に合格しないぞ」と怒られました。○| ̄|_
投稿: ロー生 | 2005/06/25 18:47
そういえばアメリカの独立宣言も「自明の真理として、我々は自由かつ平等に出生し・・」とあり、人類が自由かつ平等に出生したことが「公知の事実」として論争(証明)されていませんでしたw。
また、米国連邦法廷のブリーフ(準備書面)には、「賢明なる裁判官はご存知のとおり・・・」とか「連邦レベルの法曹が真理として確信しているとおり・・・」という言い方が目に付き、その点は立証が困難だったんだろうなと検討を付けることにしてます。
投稿: 米国法 | 2005/06/25 19:33
米のロースクールだと、これこれこう書きなさいと、書式を教えてくれるんだから、
日本の司法試験でも参考解答例を公開すればいいんだよ。
みんながそれをマネしたって、「正解」なんだからかまわないはず。
日本は見て覚えろとか技は盗めとか、
非合理的な教え方ばっかり。
投稿: 七誌 | 2005/06/26 07:44